小説ドラクエ10-10章 | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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10章  世界樹の約束


 アディールとキサラギは、アズランから列車に乗ってドワチャッカ大陸を目指している。
ふたりは、タケトラの好意で装備を無料で新調し、焼け焦げた服から一新していた。アディールはマタドールスーツを着、キサラギはまもりのローブを纏っている。キサラギのステッキは、スライムの上にさらに赤と緑のスライムが乗ったものにかわっていた。列車の向かい合う座席で、キサラギが熱心に身振り手振りを交えてアディールにこれまでの経緯を説明している。アディールが2言3言口にしてからまたキサラギが話し、アディールは相槌を打つ。ふたりは話に夢中になり、長い列車の旅が一瞬で終わったかのようだった。

「ひと目見たときから、あなたが生き返しだとわかっていましたわ。だって、私も生き返しなんですもの。」と言われたときにはアディールは腰を抜かしそうになった。そう言われると、確かにキサラギにも生き返しの雰囲気を感じる。しかし、言われるまで、全くそうだとは気付かなかった。
「あなたが気付いてないみたいだったから黙っていましたの。生き返しであるあなたが、今からどんな行動をとるかわからなかったから。もし生き返しの使命を忘れてしまっていたのなら、あなたとは一緒に旅ができないと思ったの。」
「それでキサラギ。君はいままでどんな旅を?」
「そうね、どこから話せばいいのですかしら。」そう言って、キサラギの話は始まった。


 キサラギ、という名前は、この体の持ち主の名前ですわ。人間のときの名前はラギ。あなたほどじゃないけれど、ちょっとだけ名前が似てますのよ。
 トーリア村、って知っていますかしら。いえ、知らないでしょうね。エテーネの村がその存在を隠していたように、トーリア村もまた存在を隠された地。外部との交流もほとんどない村でしたのよ。ですから、村の外のことなんてほとんど知らない。エテーネのことだって、何も知らなかったのですわ、あのときまでは。
 ずっと平和な村でした。でもね、あるとき魔物の群れが押し寄せて、村は焼き払われてしまいましたの。その魔物たちを率いていたのが銀髪の悪魔、冥王ネルゲルでしたわ。冥王はこう言っていました。「エテーネの血筋は根絶やしにせねばならぬ。」って。そのときは、なんのことかわからなかったのだけれど、村の長老が私を逃がしてくれようとしたときに教えてくれたのです。冥王の言った「エテーネの血筋」の末裔が私なんだって。だから、私は絶対に生き延びなければならないって。
 時渡りの術というものがあって、それを継承するエテーネの一族という人々がいるって長老は言いましたわ。エテーネの村には、純血のエテーネ一族だけが住んでいて、決して外部の血を村には入れなかった、と。いつまでも純血を守るため、ですわ。純血のエテーネ一族には、時渡りの術を強く引き継ぐ人がたくさんいたのですって。でも、もしエテーネの村になにかあったら、例えば今回の冥王のことや村ごとの感染症なんて、そんなことがあったときにエテーネの血が一度に絶滅してしまいます。ですから、ずっと前のエテーネの人が、分家の村を作ろうって決めたらしいのです。他の地には人知れず、本家エテーネとも連絡を絶ち、時折訪れ来る旅人が住み込むこともあって、エテーネの血という意味では混血の村ですわ。混血は代を替えるごとに血が薄まり、ほとんどの人が、もう混血とも言えないほどに血が薄まってしまいましたの。私だけが、かろうじて混血としてのエテーネの血脈を引き継ぐ者、らしかったの。とは言っても、分家の混血。本家エテーネが無事であれば、私の血なんてちっとも重要じゃなかったはずです。だけど、あのとき長老は、本家エテーネが滅びる可能性を十分に察知していたのですわ。だから、私だけはって、必死に逃がしてくれようとしたのです。でもだめでした。結局村から逃げるのには間に合わず、村全体が魔瘴に包まれて、私は死んでしまったわ。
 声が聞こえました。体はなくなったけど、魂はまだ失ってないって。エルフの体に生まれ変わって、その意味を探しなさいって。私はすぐにわかりましたわ。私の使命は冥王を倒すことだって。そのために生き返しを受けたんだって。でも、それはひとりではできない。仲間が必要だわ。だけど、生き返しなんて言っても、誰も信じてなんてくれませんわ。そんなときにあなたが現れた。そして冥王を倒すと言った。共通の目的を持つあなたを助けたいし助けてもらいたい。そう思いましたのよ。


 ツスクルという村がありますの。エルトナにある小さな村で、アズランから見たら東の方角ですわね。アズランを見たからわかりますかしらね、空は青くて、緑あふれる大地ですのよ。アズランと違うのは、森というよりは草原という感じですかしらね。
 そのツスクル村に、私の体の前の持ち主、キサラギがいましたの。前のキサラギは不幸にも命を落としましたわ。エルトナの大地が平穏になるために古の呪文の封印を解こうとして、魔法陣が暴発してしまったのです。でもね、今なら思いますの。これは不幸な事故なんかじゃなかったんじゃないかって。こうなることがあらかじめ定められていたんじゃないかって。私は、少し名前が似てるのは偶然だと思っていました。でも、アディールはそうじゃなかった。エテーネのアディールとレーンのアディールが、時を同じくして命を失い、そしてあなたがウェディに転生した。これは偶然とは私には思えませんわ。あなたたちは、そしてもしかしたら私も、宿命を負って生まれてきたのですわ。そして、宿命のふたりのアディールは、一方の魂と他方の体が同化して、ひとりのアディールとなった。ふたつのチカラを引き継ぐひとりのアディール。それが今のあなただと、そんな気がしますわ。

 話の途中でしたわね。その、前のキサラギの事故の後に、生き返しを受けた私は、新しいキサラギとなりました。はじめはキサラギのことがわからなかったから、私はあまり表だった行動はしないようにしていましたわ。気付かれたら、いろいろ面倒なことになりますでしょ?でも、それでも不自然さに気付く人もいたみたいでしたけれど。
 ツスクルは学問の聖域。エルトナの学を目指す子供たちの学び舎ですの。キサラギは、すごく優等生だったみたいだから、私なんかで務まるのかって思ったけれども、でも冥王に辿り着くための道だって思えば頑張れました。その学園のね、学友がフウラだったのですわ。6年前からツスクルで学んでいたと知ったのは、あなたと一緒でしたけれど。フウラは私のことを慕っていましたけれど、アサナギはフウラに厳しかった。私の、といいますか、キサラギのライバルで、賢くて真面目で厳正なエルフでしたわ。卒業試験の前にも「ボクたちの試験、必ずキミに勝つ!」ってライバル心むき出しだったりして。すごく勝ち気っていうか、一生懸命でしたの。
 
 卒業試験は「若葉の試み」といって、知と力を試す難しいものでしたわ。アサナギも、前のキサラギも優等生でしたから、イズヤノイ師匠は「はじめて複数合格者がでるかもしれない」なんて言ってましたわ。一次試験は知恵の試験で、いくつかの質問に答えるという形式でした。でも、優等生だったこともあって、アサナギもキサラギも、って私のことですけれど、半ば合格は決まってたみたいでしたわ。だから知識を試すというよりは、どんな考え方をしているのかを答える、という試験でした。
 「エルフは世界樹とともに滅びる運命だという。これは真実であろうか?」というのがひとつめの問題でしたわ。私は「わからない」と答えました。でもね、試験官のコウ先生はこう言いましたわ。「ほほう。師がずっとそう教えてきたのにもかかわらず、それでもわからない、という答えを出すとは。お前は、師たちが知るよりももっと先のことを求めているのであろうな。」と言われて、正解だとされましたの。第2問も「世界のところどころにある光の河。聖なるものとも悪しきものとも言われておるが、お前はどう思うか?」と言われて、またわからなくて「どちらにも見えるし、どちらにも見えない。」って答えました。そうしますとね「ものごとには表と裏、ふたつの側面があるという。一方に固執せず、その両方に目を向けるとは見事だ。」と言われて、また正解になりましたわ。3問目は答えられました。「昔、空にはふたつの太陽が昇っていたという。これは真実であろうか?」と聞かれて「真実です。そして、ふたつ目の太陽に焼かれて世界は滅びを迎えようとしたのですわ。レンダーシアにはそう伝わっていますの。」と、答えました。コウ先生は「これは素晴らしい。我々も知らぬことをそこまで知っているのであれば、これは合格させないほうがどうかしているというもの。」とおっしゃって、私は知恵の試験に合格ということになりましたの。

 合格者は、私とアサナギと、それとキュウスケという年上のエルフでしたわ。年上と言っても、そう、私とアサナギの年齢を足したぐらいですかしらね。そこで不合格だったフウラは落ち込んで、それでアズランに戻ることにしたのですわ。イズヤノイ師匠は「試験とはこういうものだ。ときには努力が報われずつらい結果を言い渡されることもある。しかし、それもまたみんなが通る道。不合格であったからといって、努力が無駄になったというわけではない。」って言っていました。フウラもそれを聞いて、少し自信持ったみたいでした。

 私たち、私とアサナギとキュウスケは巫女様のみそぎを受けて、力の試験を受けに、久遠の森の世界樹の丘に向かいましたわ。そこで若葉の精霊と戦って力を示す、という試験でしたの。でもね、その試験の最中に、突然世界樹に魔瘴が流れ込んで来ましたの。そして、試験官のコウ先生が、私たちを助けるために魔瘴に飲まれた。あなたも見たのでしょうけれど、レンダーシアからの勇者の光のおかげで、すんでのところで魔瘴は払われました。でも、コウ先生は戻らなかった。それだけじゃないですわ。魔瘴を浴びた世界樹は枯れ、生命の泉とも呼ぶべき葉たちは、すべて散ってしまいましたの。そんな世界樹を助けるために、今度は若葉の精霊が命を差し出しましたわ。自分の力を全部世界樹にあげちゃったのです。そのおかげで世界樹はまたチカラを取り戻したのだけれど、精霊はそれで消えてしまいましたわ。「世界樹がある限り、オリは死なないダワ。」って言い残して。今でも忘れられませんわ。コウ先生のことだって、もちろん忘れません。

 エルフと世界樹はともに滅びる運命なのか。だとしたら、いま世界樹が枯れた瞬間にエルフは滅びるはずだったのか。若葉の精霊が命を差し出して守ったのは、私たちエルフみんなの命だったのか。
 光の河は聖なるものなのか悪しきものなのか。エルフの英知をもってして、今でもそれがわからない。

 私はそこで約束しました。世界樹の運命を探し、光の河の秘密を探し、そして世界の理を探す、と。それで私を助けてくれたコウ先生や若葉の精霊への償いにはならないのかもしれないけれど、私は世界樹と約束しました。世界樹に誓いました。必ず世界の理を見つけてみせます、って。

 結局、正規の試験は途中までしか行えなかったのですけれど、私たち3人はみんな合格になりましたわ。それで一人前だと認められた私は、ツスクルを出ましたの。でも、特に行くあてがあったわけでもなかったから、家に帰ろうとするフウラと一緒にアズランに行きました。フウラが風乗りの子だって知ったのは、そこで、でしたわ。フウラは、お父さんに「若葉の儀に合格できなかったからと言ってそう気に病むな。むしろ諦めが付いてよかったではないか。カザユラの後を継ぎ風乗りになるべきなのだ。」と言われて悩んで。お母さんのお墓参りに行って。あとはあなたも知ってるとおり。

 私は冥王を倒したい。世界の理を探したい。もしレンダーシアに行けるのであれば、勇者の光についても調べたいのだけれど、レンドアからの船が出ていないですのよね?ならば私は世界中を巡る必要がありますわ。世界の理を探すために。


 あら、もうガタラ駅に着いてしまいましたわね。ちょうど私の話も終わりですわ。行きましょう、アディール。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】


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