小説ドラクエ10-19章(8) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 灰の祠の番人はセルゲイナス。下半身がドラゴンで上半身が人間、といった風体の青色の悪魔。その悪魔は斧を持ち、翼を羽ばたかせて低空飛行でリリーネたちに向かって来た。
「我はこの世を絶望で満たすために、遥か死の世界より訪れし者。」とセルゲイナスは自らを称した。「せっかくひとりの有能な錬金術師からその能力を消し去ったというのに、すぐに新たな錬金術師が現れるとは。」
 ひとりの有能な錬金術師・・・イッショウさんのことね!とリリーネは直感した。リリオルをメラゾ熱に犯したのみならず、イッショウの錬金術のチカラをも奪った、憎き悪魔。
「貴様も同じように錬金術師としてのチカラを我に捧げよ。そして、死の絶望を味わうのだ!」
 セルゲイナスは斧を振りかぶってリリーネに詰め寄る。錬金術師のチカラどころか、命を奪おうとしているとしか思えない。イッショウと同じように、じゃないじゃないの!!
「ふたりのカタキ、私が討つわ!」リリーネはバイシオンをジャネットへと向けた。
 ジャネットの剣はギラリと切れ味が増し、セルゲイナスの斧をすり抜けて横薙ぎに胴を斬りつける。
 グハオ!と苦しそうに顔を歪ませながらも、セルゲイナスはヒャダルコを唱えた。しかし、その氷のつぶても、モモナのリホイミによって徐々に体力を回復してゆくリリーネたちには致命傷を与えることはできない。そして、最後にミミナの杖が炸裂した。「悪魔払い!!」
 額を打たれたセルゲイナスは、墜落するようにドサッと地に伏し、びくんびくんと痙攣している。そこにジャネットが剣を立て、青い悪魔は二度と動かない体となった。
 セルゲイナスは青色の宝石、デーモンジュエルを持っていた。
「これ・・・ライオンジュエルと同じように、きっと何かの錬金に使うのね。」
 そう言いながら、動かぬ悪魔に背を向けて、リリーネたちは祠を出て町へと戻った。


「ありがとう!」とリリオルは迎えてくれた。「あ、おかえり、のほうが先だったね。」
 リリーネたちがセルゲイナスを倒したことをリリオルは感じていたようだった。
「実は、お父さんが錬金術のチカラを失ったのは、私のせいだったんだ。あの日、私が素材を探してたら、祠から呪いの霧が吹き出して。お父さんは私を守るために霧に包まれて。だから、あの祠の魔物は、私たち親子のカタキだったの。」
 リリオルにそう言われて、先の直感は間違っていなかったのだと、リリーネはあらためて思った。
「お前のことは、もうイッチョ前なんて呼べねぇな。」
 イッショウの顔は、もう感心というよりは、尊敬に近いものだった。「これからは錬金名人と呼ばせてもらうぜ。」イッショウは赤い石をリリーネに差し出す。「赤の封石だ。お前が出て行ってる間に手に入れた。受け取ってくれ。今のお前なら、鍵を錬金するのも簡単だろう。」

 リリーネが封石を釜に入れると、ポンと赤い鍵が出てきた。
 3人の仲間を引き連れたリリーネは、赤の祠に潜ることも、そこから黒の封石を持ち帰ることも、そして錬金で黒の祠の鍵を作ることも、もう容易なことだった。

 黒の祠では、金色の巨人ゴールドマンが、リリーネたちを待ち構えていた。
「どうだい、僕のキンキラの身体?」
 全身から光沢を放つゴールドマンは、来客であるリリーネに自慢げに言った。
「すっごい錬金術師が僕を作ってくれたんだよ。」ゴールドマンの口調はまるで子供のよう。「ここまで来た人は久しぶりで、僕とっても嬉しいよ。知ってるよ、キミも錬金術師なんだよね?さあ、そのチカラを見せてほしいな。それが僕のお仕事なんだ。」
 とても番人とは思えないほど、ゴールドマンは嬉しそうで、楽しそうだった。人と会うことが楽しそうに、戦うことが楽しそうに、存在することが楽しそうに、ゴールドマンは歓喜の声を上げながらリリーネにドシンドシンと歩き寄って拳を振り上げる。
 咄嗟に盾を構えるリリーネだったが、盾の上から殴られたにもかかわらず、ズザザーっと後方へと滑り下がらされた。盾を見ると、ヒビが入っている。
「すごいすごーい!」ゴールドマンは拳が盾に防がれたのでさえ嬉しそうに「今の攻撃に耐えるなんて!さすが錬金術師だよ!」と子供のように跳び上がった。金の巨体がドシンドシンと跳ねるたびに、床が地震のように揺れる。
「じゃあ、これはどうかな?」
 ゴールドマンは、ぐっと踏ん張ってチカラをためている。ただでさえ金色に光っている拳が、輝くように強い光を発する。「この一撃にも耐えれるのかなぁ?」
 とてもヒビの入った盾で防ぎきれるような拳ではなさそうにリリーネには思えた。
「あんなの受けたら死んじゃう!でも、この服なら・・・身かわしの服なら、あれを避けることができるかも。」リリーネは盾をサッと水平方向に投げた。いや、盾を置き去りにして、サッと水平方向に飛び退いた。
 ゴールドマンの輝く拳に砕かれた盾の後ろには、もうリリーネはいない。
「すごいすごい!そこにいるかと思っちゃったよ!」
 ゴールドマンには、リリーネの素早い動きは見えていないようだった。盾の後ろにずっとリリーネがいるものだとばかり思っていた、という風だった。
 リリーネのルカニでその黄金の身体を軟体化され、ミミナのメラで溶融に近い状態にされながらジャネットの剣によって敗れ去ったゴールドマンは、それでも嬉しそうだった。
「強いんだね・・・すごいね・・・」ガクンとひざを突き、そしてドシンと倒れる。
 倒れ際に落としたのは、金の宝石ゴールドジュエル。リリーネはそれを拾って「3つ目の宝石。」とつぶやく。
 ほぼ同時に、ジャネットが部屋の隅の宝箱に気付いた。
 中身は1枚のレシピ。最後の祠、金の祠の鍵のレシピ。
 ライオンジュエルとデーモンジュエルとゴールドジュエル、3つの宝石によって錬金されるのが金の祠の鍵、とレシピには書いてあった。





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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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