小説ドラクエ10-22章(12) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。


 そんな中、アディールだけが、冥獣王の拳をひらりひらりとかわし続けている。しかも、拳をかわすだけではなく、冥獣王の胴に短剣での斬り込みを入れた。
「ぐぅ!!なんだと!?」
 顔をゆがめながらまた拳を突き出すと、アディールはそれをかわして、冥獣王の拳と逆進して飛び上がり、のど元を斬り付けた。
「お・・・おい。どうしたんだ、アディールのやつ・・・」よろよろと立ち上がるザーンバルフ。
「アディールの攻撃が、急に入り出したぞ!」ドドルもやっと立ち上がろうとしているところ。
「カウンターですわ!突き出された拳の内側に潜り込んでいるから冥獣王は防ぐことができないのですわ!」
「アクロバットスター・・・オルフェアで聞いたことがあります・・・一流の旅芸人として覚醒すると、その流れるような動作と心眼が相まって、敵の攻撃が止まって見えるのだとか。今のアディールさんは、もしかしたらその状態なのかもしれませんねぇ。あの拳を逆進して懐に入ろうなど、止まって見えているとしか思えません。」
「ぐぬぬ!小癪!」何度も拳をかいくぐられ、懐に潜られては斬りつけられた冥獣王は憤怒を隠さなかった。「これではどうだ!闇に吸われて塵となれ!」冥獣王の口から、闇の炎とも魔瘴の塊とも言えぬほどの巨大な黒紫の無形の球がアディールに降り注がれた。「ドルマドン!」
 エテーネを覆った魔瘴が、レンダーシアを闇に閉ざした魔瘴が、ただ一点に集められたほどの、高密度の魔瘴の形無き凝縮体。アディールは今、その凝縮された魔瘴の中に包まれていた。
「この呪文に耐えうる者など、冥界にも存在せぬわ!」
 冥獣王のその勝ち誇った言葉に、形勢を逆転できるかと小さな期待を持っていたザーンバルフたち4人も呆然となっていた。
 ところが。
 ぐはは、と笑う冥獣王の顔が引きつるには、さほど時間がかからなかった。冥界にも耐える者がいないほどの闇の最上級呪文でも、アディールは倒れていなかったのだ。
「バカな!!」自分の最高の攻撃をもってして、膝をつかないアディールに冥獣王は恐怖した。「そんなことがあるはずがないっ!!この呪文を受けて命を繋げる者などいるはずがないっ!!」
 冥獣王はもう一度ドルマドンを浴びせた。魔瘴の凝縮体は確かにアディールを捕えている。しかし、それでもアディールは倒れない。さらには、左の拳で渾身の正拳を繰り出し、そして完全にアディールの体を打ち抜いた。
 にもかかわらず。
 一撃さえも受けてはならないはずの冥獣王の拳の直撃を受けたにもかかわらず。
 アディールはひざをつくことさえない。
「何故だ!?何故死なない!?」
 一方的に攻めているはずの冥獣王のほうが、心理的には追い詰められていた。
「そんなことが・・・」そう言って、ハッとしたような表情の冥獣王。「そ、それは!?」アディールの首にかけられているネックレスのような十字型の銀色の首飾り。アディールが、いつの間にかその首飾りを下げているのに冥獣王は気付いた。「それは銀のロザリオ!ベリアルに持たせていたはずだ!!」
「そう。ベリアルが落としていったもの。そして、これを首に巻いたのはほんのさっきだ。もうダメだと思って、このロザリオに祈るような気持ちだった。」アディールはそう言ってロザリオの十字架を持って見せる。「すると、何故だろうね。神の加護を受けた気がしたんだ。どんな攻撃を受けても生き残れるような気がしたんだ。」
「そ、そうか。先ほどから急に攻撃に耐えられるようになっていたのかのかと思っていたが、そうではなく、ロザリオのチカラで死の淵から蘇っていたのだな?し、しかし、そのロザリオはそうそう発動するものではない!事実ベリアルも・・・」
「冥王。僕は思うんだ。これが運命なのだと。」
「なんだと!?」
「お前はここで僕に討たれるんだ。」ロザリオを纏ったアディールの口ぶりはもの静かなものだった。さっきまでの苛烈な戦いをまるで感じさせないほど。「冥王。知っているか?変えられる運命と変えられない運命があることを。」今まであれほど避けようとしていた拳を持つ冥獣王に、アディールは無防備に、そしてゆっくりと歩き寄っている。「僕は過去に戻って運命を変えたけど、エテーネが滅びるという運命を変えることはできなかった。そして冥王。」アディールにそう呼ばれてビクリとする冥獣王。「お前は誕生するのと同時に、ここで僕に倒される運命を持っているんだ。」
「バカな!バカなバカな!!」
 冥獣王はそう連呼してドルマドンをまたアディールに浴びせかける。しかし、それでも倒れないアディールに戦慄を覚えた。
「このロザリオが、それを証明している。僕は何度でも、死の淵から蘇る。今度はお前が、運命に翻弄される番だ!」
「しかし!しかしだ!貴様がいくら死なないなどと言ったとしても、もう我を傷つけることはできぬ!我はもう拳を突き出さぬ!ならば貴様は我の懐に入ることすらできないはずだ!我はここから離れていてもドルマドンをいくらでも放てるのだ!貴様が先にチカラ尽きるまでなっ!!」
 だが、まくし立てるように言った冥獣王の表情はさらに引きつることになった。アディールが両手からふたつの真空の渦を発生させていたのだ。風の呪文バギ。左右の手から同時にふたつ。
「今ならできると思う。」アディールはそう言って右手の渦と左手の渦を交えた。真空の渦がみるみると大きくなってゆく。冥獣王をも覆えるほどに。
「そ、そんなことができるものか!そのような大呪文がお前に使えるはずが・・・」
 冥獣王の言葉に重ねるようにアディールが叫んだ。「バギクロス!!」
 巨大な竜巻となった真空の渦が、冥獣王を包み、斬り裂いた。
「ぐあぁぁぁ!」という叫び声の後、冥獣王の左手がついに下がった。
「両腕を失ったな!終わりだ、冥王!」
 アディールは跳躍した。そして全体重をかけて王家のナイフを突き刺した。冥獣王の眉間に。「受け入れろ!運命を!」
 冥獣王は目を見開き、人の声とも獣の叫びともつかない音を発した。
「ぐぎゃぁぁあぐぁわぅおおぉ!」
 冥獣王ネルゲルの断末魔だった。




続きを読む

前に戻る


目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



ドラクエブログランキング


読者登録してね