永遠の地下迷宮。封印の間。
「アディール君。ここまで助けてくれて感謝する。いよいよ最後だ。」
オーディス王子はそう言って水柱の中の黒髪の女性に向き直った。「待たせたな。今すぐそこから出してあげよう。」オーディスはひと呼吸置いてから、覚えたばかりの歌を唄う。
オーディス王子はそう言って水柱の中の黒髪の女性に向き直った。「待たせたな。今すぐそこから出してあげよう。」オーディスはひと呼吸置いてから、覚えたばかりの歌を唄う。
・・・淀んだ時よ、うつろいたまえ。凍りし時よ、解け合いたまえ・・・
オーディスの声はディオーレ女王よりもずっと低い声。しかし、今まで話していたときの声とは違う、澄みきった声。
・・・時は流れ、うつろいゆくもの。誰にも止めることなどできはしない・・・
唄いながらオーディスは水柱の女性に手を差し延ばす。
・・・我が祈り、聞き届きたまえ。ああ我が祈り、叶えたまえ・・・
「さあ、永遠の水よ、消えてなくなれ!」
そして永遠の水柱の呪縛から女性が放たれる、のかとアディールは思った。しかし現実は違った。
「・・・何故だ?・・・何故なにも起こらない!?」
オーディスの声だけが虚しく響くだけ。
少しの沈黙の後「あ~あ。」という白けたような声。「王家の者というだけじゃだめなのかもね。」そう言うのはキャスランだった。
「どういうことだ、キャスラン?」
「ハァ。どうもこうも。つまりこの国の王になれない男のアンタじゃダメだってことだよ。バカバカしい。」キャスランは侮蔑を目を王子に向ける。「女王相手は無理っぽかったからアンタに目をつけたのに。教えておいてあげる。この永遠の水の中にはバサグランデ様というお強い魔物が封じられてるのさ。私はその封印を解いて差し上げ、バサグランデ様とチカラを合わせてこの世界を支配してやろうとしてたのさ。」
「なんだって!?僕を騙していたのか、キャスラン!」
「こんな芝居までしたのに、ボンクラ王子のせいでとんだ無駄骨。」
「じゃあ・・・じゃあキミの占いは・・・?」
「私は別に占ってなんかいないわ。知ってたことを言っただけよ。5種族5人の旅人たちが向かってるって。ここの場所も知ってたし、バサグランデ様がいることも知ってた。鍵の場所だって占ったわけじゃない、最初から持ってたのよ。別に旅人なんてどうでもよかったけど、ボンクラ王子だけじゃ封印を解けそうにないから、そう占ったフリをして協力させたの。もっと早くここまで来れるかと思ったのに、結局私がそれとなく占ったフリをしないとどこにも行けない。挙句の果てに、歌を覚えてきても結局使えない。このダメ王子!」
そう吐き捨ててキャスランはオーディスを蹴飛ばした。
「うわっ!」王子がよろけた先は永遠の水の泉の縁。「なにをするんだ!?」と、手をばたつかせながら態勢を立て直そうとしたところに「アンタが落ちればさすがの女王だって唄わないわけにはいかない!このバカ王子!」と、キャスランがもう一度オーディスに体当たりをした。
バシャン!
と、オーディスが泉に転落したのと同時に「あー!!きゃー!」と勢い余ったキャスランも足を踏み外して泉に飛び込む形になった。
ふたりは、落ちた時の表情と姿勢のまま時間を止められ、泉を漂い、やがて水柱の中へと吸い上げられる。
3本の水柱の中には、それぞれ黒髪の女性とオーディスとキャスランが閉じ込められていた。
ふたりは、落ちた時の表情と姿勢のまま時間を止められ、泉を漂い、やがて水柱の中へと吸い上げられる。
3本の水柱の中には、それぞれ黒髪の女性とオーディスとキャスランが閉じ込められていた。
ちょうど同じときに、アディールたちの後ろから、カツカツと踵の堅い女性の靴音が聞こえて来る。
「オーディス・・・。愚かな。」
その女性、ディオーレ女王は嘆くように言った。「よもやと思ってこうして来てみれば。ならぬとあれほど言ったのに。」
その女性、ディオーレ女王は嘆くように言った。「よもやと思ってこうして来てみれば。ならぬとあれほど言ったのに。」
「だが、いま責めても仕方がない。」
ディオーレの後ろからはメルー公もついてきていた。「刹那の歌を唄うのだ、ディオーレ。オーディスを救うにはそれしかない。」
ディオーレの後ろからはメルー公もついてきていた。「刹那の歌を唄うのだ、ディオーレ。オーディスを救うにはそれしかない。」
しかしディオーレ女王は首を横に振る。
「禁じられた歌は唄わぬ。この歌が何故禁じられているのか、知っているであろう?」
「それではオーディスは助からない。」メルー公の表情は、もう普段の穏便なものとは違っていた。鋭く、力強い視線がディオーレに向けられている。
「わらわが刹那の歌を唄うということは、すなわち暴君を蘇らせるということ。それだけは・・・」メルー公の表情とは逆に、ディオーレ女王は悲痛な顔をしている。腰の低いメルー公と威圧風を吹かせるディオーレ女王の態度は、今ではすでに逆転していた。「千年間禁じられた歌・・・。わらわは唄わぬ・・・。」
「ディオーレ!!」とてもメルー公のものとは思えないような激しい口調に、ディオーレがビクリとする。「これまでオーディスにつらく当たって来たのは何のためだ?ならわしを破り、オーディスを次の王にすると誓ったのだろう!それを助けずに何とする!」
しばらくの沈黙。
そしてディオーレがうつむきがちに口を開く。
「・・・そのとおりです。」
ディオーレは顔を上げてオーディスの閉じ込められた水柱に顔を向けた。「わらわは、いや、わらわたちはオーディスを次の王にすると誓ったのです!偉大なる最後の男王ラーディスの名にちなんでオーディスという名をつけた。きっと、素晴らしい王になってくれると、そう願ってオーディスと名付けた。わらわは・・・わらわは、ならわしを破るため、いま禁を破りこの歌を唄いましょう。」
ディオーレは顔を上げてオーディスの閉じ込められた水柱に顔を向けた。「わらわは、いや、わらわたちはオーディスを次の王にすると誓ったのです!偉大なる最後の男王ラーディスの名にちなんでオーディスという名をつけた。きっと、素晴らしい王になってくれると、そう願ってオーディスと名付けた。わらわは・・・わらわは、ならわしを破るため、いま禁を破りこの歌を唄いましょう。」
女王ディオーレの澄んだ声色が封印の間に響く。アディールが何度も聞いたのと同じ声色。同じ旋律。
水柱は徐々に沈んでいき、泉の水位が下がり、そして永遠の水は、どこへ流れたともつかず、消えてなくなった。オーディスとキャスランと囚われの黒髪の女性の、止められた時が動き出す。
「母上が僕のために唄ってくれるなんて・・・」
永遠の水から解放されたオーディスは、信じられない、という表情でディオーレに目を向け、すぐに黒髪の女性に目を向けて抱え起こした。「キミ、大丈夫か?」
永遠の水から解放されたオーディスは、信じられない、という表情でディオーレに目を向け、すぐに黒髪の女性に目を向けて抱え起こした。「キミ、大丈夫か?」
「は・・・ここは・・・。私は助けられたのですか?」黒い長髪のウェディはキョロキョロとあたりを見回す。
「そう。キミは助かったんだ。もう何の心配もいらない。」
オーディスは笑顔でそう言ったが、長髪の女性はそれを喜んだりはしなかった。
「いけない。私を助けてはいけない。このままではこの地は滅びる・・・」
「どうしたんだ!?どういうことなんだ!?」オーディスは女性の肩を掴んで揺すった。
「その女性はセーリア殿。」と、女王ディオーレが言った。「この奥には暴君バサグランデが封じられている。そして、そのセーリア殿は、バサグランデを封じるために選ばれた封印の巫女。それが、この地を禁断の地とした理由。」
「そんな・・・じゃあ僕のために唄った母上の歌で・・・」
「暴君は復活したのだ。」
ディオーレは目をつぶったまま言った。「そして復活した暴君をもう一度封印するのもまたわらわの役目。」
ディオーレは目をつぶったまま言った。「そして復活した暴君をもう一度封印するのもまたわらわの役目。」
「女王様。それはつまり、あなたが永遠の水の巫女になるということ。その覚悟はあるのですか?」黒髪のセーリアが問う。
「無論。暴君を目覚めさせたのはわらわ。そして、ヴェリナードを守るのがわらわの役目。わらわが責任を持つ。」
「母上!」と、今度はオーディス。「母上は、それを承知で僕を助けたのですか!?僕を助けなければ・・・」
「愚か者!」
ディオーレは激しい口調で言った。「お前はまだ王になるに全く至っておらぬ。しかし、わらわに何かがあれば、次の王はお前だ。猛省せよ。そして精進せよ。国の責任を担える王になれ。」そしてディオーレは「封印の儀式の準備に戻る。」と言ってメルー公とともにヴェリナードへと戻って行った。
ディオーレは激しい口調で言った。「お前はまだ王になるに全く至っておらぬ。しかし、わらわに何かがあれば、次の王はお前だ。猛省せよ。そして精進せよ。国の責任を担える王になれ。」そしてディオーレは「封印の儀式の準備に戻る。」と言ってメルー公とともにヴェリナードへと戻って行った。
残ったオーディスは茫然として、ただ両膝をつく。
「母上・・・僕のせいで・・・。母上が僕につらく当たるのは、僕が疎ましいからだと思っていた。しかし・・・僕はそんな母上の心情なんて全く気付かずに・・・」
オーディスは膝の砂を払って立ち上がる。下唇を噛みながらアディールに顔を向けた。
「アディール君。僕のせいで母上が囚われの巫女になるなんて、そんなことはさせられない。頼む。チカラを貸してくれ。バサグランデを倒す!」
「私も行きます。」とセーリアも言った。「私の役目はまだ終わっていません。もう一度私の歌でバサグランデのチカラを奪います。どうか、その隙に。」
そうして、オーディスとセーリアとともに、アディールとキサラギとドドルとパルポスは、封印の解けた地下迷宮の奥へと向かった。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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