小説ドラクエ10-21章(2) | カインの冒険日記

カインの冒険日記

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 岩ばかりのごつごつした町であることには変わりなかった。そして、その中央に城がそびえているのも変わりなかった。しかし、異様に熱く、異様に赤い岩々は、現代のグレンとは全く違う。活発に人々が行き交う現代のグレンとはまるで違う。廃墟とも言えるほどに町には人の姿が見えず、家々も朽ちている。いや、かろうじて燃え残ってはいる。ふたつ目の太陽の接近によって、グレン全体が焼き尽くされているようであった。その惨状にアディールは絶句しそうになった。ただただその光景を見て立ちつくしている。
「アディール、ベルンハルトを探しますわよ。」
 キサラギの声でアディールは我を取り戻す。
「そうだ、僕たちはベルンハルトに会わなければならない。」
「ベルンハルトがひとりで乗り込む前に会えるとよいのですがねぇ。」
 パルポスがそう言うのも、しかし、もう叶わぬ望みとなっていた。
 グレン城へと赴いたアディールたちに、指導者シオドーアが言った。
「破邪舟師ベルンハルトは死んだ。レイダメテスに単身乗り込み、焼かれて、な。」
 立派なガウンに身を包む指導者の言葉からは、ベルンハルトを軽蔑するような響きが感じられた。しかし、アディールたちを迎え入れることを拒む様子は全くない。
「アディール、おいらたち、間に合わなかったのか?ベルンハルトには、もう会えないのか?」ドドルがアディールの耳元で残念そうな声。
 もう少し早い時代へと来ていたならば。
 結局運命には逆らえなかった。そう思わなくもない。しかし、アディールには、もうひとつの考えがある。
 ベルンハルトの子エルジュ。処刑される運命からエルジュを救うことができれば。そうすれば、現代まで破邪舟の術を残すことができるかもしれない。
 アディールがそう考えている矢先に、ひとりの少年がバタンと部屋の扉を荒々しく開けて、シオドーアの前に走り寄ってきた。
「シオドーア!!」少年が叫ぶ。高貴な身なりをした金髪の少年。
「客人の前だ!わきまえよ!」今度はシオドーアが喝する。
 少年はキッとシオドーアを睨んだ。「光の防壁など単なる時間稼ぎ!レイダメテスを絶たねばいずれこの国は滅びる!」
「では、お前はどうしようと言うのか!」シオドーアの口調も強い。
「破邪舟を使い、僕がレイダメテスを破壊する!」金髪の少年は睨む目をキッと切って、サッとシオドーアの前から下がって行った。
 エルジュが去ったところで「申し訳ない、客人よ。」とシオドーアは言った。「今のはベルンハルトのせがれ。ああは言っているが、生憎エルジュは破邪舟の術を継承していないのだ。」
 この世界には四術師と言われる術者たちがいるのだとシオドーアは言う。破邪舟師もその術者のひとりであるが、そのチカラをむやみに継承して悪用しないように、術を継承するためには残りの3人の術者による継承の儀式が必要なのだ、と。
「おそらくエルジュは、その3人の術者たちに会いに行こうとしているのだろう。しかし、仮に継承できたとしても結果は見えている。ベルンハルトの二の舞になるだけだ。いや、あいつにはベルンハルトほどのことさえもできるはずもない。」シオドーアの言葉には、やはりベルンハルトをよくは思わない響きがある。「それに、3人の術者がエルジュを受け入れることもないだろう。」
 そこまでしかシオドーアは語らなかったが、先のようなエルジュの言動を受け入れない者も多いだろう、とアディールにも思えた。
「ベルンハルトはレンダーシアの大国グランゼドーラの高名な魔法使いだったそうだが、結局高名さなど真の実力を測るものではないということだ。そして、術の継承も終わらぬエルジュは、父親にも劣るものでしかない。」
 シオドーアの言葉の端々から、ベルンハルトとエルジュを蔑視しているのが伝わる。
 アディールはこの後の歴史を知っている。エルジュはこのシオドーアを暗殺しようとし、それが失敗に終わり、シオドーアによって処刑される。今はまだ小さな溝なのかもしれないが、いずれそれは大河のように大きな隔たりになるのだろう。

「僕たちは歴史を変えるために来たんだ。運命を変えるために。」自分の考えを振り払うようにアディールは言った。
「はい。ワタクシたちは、エルジュが術を継承するのを手伝い、シオドーアを暗殺しようとするのを防ぐ必要があります。」長身のパルポスが、アディールの上方から発言する。プクリポのときのパルポスしか知らなかったアディールは、自分よりも背丈のあるパルポスの姿に、いまだ慣れないでいた。
「エルジュはどこに行ったんだ?」と言うドドルは、エルジュと似たような年齢なのかもしれない。話しぶりからは幼く思えるドドルだが、身勝手にも見えるエルジュの態度よりもずっと温厚であることをアディールは知っている。
「エルジュの部屋を探しましょう。」ラギの姿のキサラギはそう言って、ひとりの兵士にその居場所を訪ねている。そして「自室に戻ったそうですわ。こちらですかしら。」と通路の奥を指差した。



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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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