アディールとドドルは、ボロヌスの穴の奥へ奥へと進んだ。やがて洞窟は行き止まる。海水が浸る水たまりがあるだけだった。
「あれ、ここじゃないのか?」アディールが言うと「でも、他に道なんてあったかな。」とドドルも首をかしげた。
アディールとドドルが引き返そうとしたとき、水たまりの海水が、突然吹き上がった。
「なんだ!?」アディールとドドルがその水面から覗き込むと、水中からドーンと響く音が聞こえる。
「なんだ!?」アディールとドドルがその水面から覗き込むと、水中からドーンと響く音が聞こえる。
「この下に空洞がある。もうドゥラ院長たちが来ているのかもしれない。潜ろう、ドドル!」
しかし、ドドルはもじもじとしり込みをする。
「どうした?」とアディールが聞くと「おいら・・・泳げないんだ・・・」とドドルが言った。
「どうした?」とアディールが聞くと「おいら・・・泳げないんだ・・・」とドドルが言った。
「わかった。じゃあ目をつぶって息を止めているんだ。」
アディールはそう言って、ドドルの手を引いてドボンと水たまりに飛び込み、背びれをひらめかせてスイスイと潜っていった。しばらく潜っていくと、やがて水の切れ目が見える。水の下の空洞。アディールとドドルは水面から下に向けて飛び出し、スタッと空洞の地面に着地した。
ドゥラ院長とラミザ王子がすでに到着していたのかとアディールは思っていたが、そこにいたのは天魔クァバルナと黒ローブのベルンハルトだった。なにやら言い争いをしているように見える。
「どういうつもりだ、天魔よ?」ベルンハルトが言った。
「よく避けたな。なかなかやるではないか。不意打ちのメラゾーマだったのだがな。」天魔がベルンハルトを見てニヤニヤと笑っている。「ではこれはどうだ?ドルモーア!」天魔のその言葉で、闇の渦がベルンハルトを襲った。
「どういうつもりだと聞いている!マホターン!」渦が届くすんでのところで、ベルンハルトの前に光の壁が現れ、闇の渦は跳ね返って天魔へと向かう。
「さすが戦い慣れている。おまえの絶望する顔を見たくなってな。マジックバリア!」右の翼から発した光が天魔を包み、闇の渦は受け流された。
ベルンハルトと天魔は睨み合った。
「アディール、どういうことだ?天魔とベルンハルトは仲間じゃなかったのか?」
「わからないよ、ドドル。」
天魔が睨み合いを破り、スッとベルンハルトに滑り寄った。「これは避けれんぞ!イオナズン!」至近距離から光の爆発がベルンハルトに迫る。
「どうやら冗談ではなさそうだな。マホステ!」ベルンハルトの周りを包んだ赤紫の霧が、イオナズンの光をかき消した。「いいだろう。こちらからも行かせてもらうぞ。魔力覚醒!」突然ベルンハルトの周りの空気が沸騰したかのように激しい上昇気流となり、ベルンハルトの体がふわりと浮き上がる。ベルンハルトの力がみなぎっているのがわかる。「ドルモーア!」ベルンハルトがそう唱えると、天魔が放ったものよりも格段に大きな渦が飛び出した。「これだけ近いんだ。避ける暇もなかろう。」
「こんなものかき消してやる!ドルモーア!」天魔も同じ呪文を唱える。しかし、とても渦とは呼べない小さな闇の玉しか出て来なかった。
「お前には、もうそれほどの魔力が残っていない。呪文の使いすぎだ。」
ベルンハルトが静かに言い、闇の玉を簡単に飲み込んだ大渦が天魔に襲い掛かる。
「ぐおおおおっ!」天魔は渦に巻き込まれ、それが消えたかと思うと、今度は闇の炎で燃え上がる。ゴォーという激しい燃焼音が消えないうちに、天魔はドサリと倒れた。
「私の見込み違いだったようだ。徒労だったな。」ベルンハルトがくるりと振り返る。「おや?」とアディールに気付き「もしかして、待たせてしまったかな?」と言った。
「やっぱりあんただったんだな。」そう言うアディールに、ベルンハルトは「なにがだ?」と、首をかしげた。
「ドゥラ院長をそそのかして天魔を復活させたのは、やっぱりあんただったんだな?」
「異なことを言う。院長をそそのかしたのは天魔で、天魔を復活させたのは院長ではないか。」
「なんであんたが天魔と戦ってるんだ?」
「悪かったと思っている。お前のためにお膳立てをしていたつもりだったのだが、節操のないやつでな。」
「ふざけるな!これだけドルワームを巻き込んでおいて、なにが僕のためだ!なにがお膳立てだ!」
「なにを憤っている。すべては院長の欲望が招いたこと。院長が国王に強い負の感情を持っていたからだ。国王が子を捨てたことに端を発しているのか、双子の王子が権力を争って国を滅ぼしたことに端を発しているのか、そんなことはどうでもよい。院長が本当に国王の子なのかどうかも私は知らん。しかし、事実がどうであろうと真実がどうであろうと、院長の中には欲望が存在する。その欲望が引き金を引いたのだ。もしお前がそれを止めたいと言うのであれば、なぜ院長の中の欲望を止めてやらなかったのか。なぜ魔瘴石探しなどに行ったのか。傍観者を気取るのではない。お前はすでに渦中にいる。お前にもそれを止めることができたのだ。だがそれをしなかった。」黙って何も言えないアディールを見て、ベルンハルトはフッと笑った。「私としたことが少し熱くなりすぎたようだ。お前の仲間が人々の心の闇を取り払うために戦う、などと大そうなことを言っておったのでな。ついムキになってしまった。今日はいないではないか?」
「・・・ザーンバルフとパルポスはカミハルムイに向かっている。」
「ほう。それはピュージュも退屈しないで済みそうだな。それで?私を止めに来たんだろう?」
「僕がここに来たのは、天魔が完全体になるのを阻止するためだ。」
「ならば、もう解決したということだろう。完全体にはなったが、天魔はすでに斃れた。私の計画は失敗したのだ。今回はお前の勝ちということでも構わんぞ?用が無いのならば私はもう行く。」
「あんたはどうしたら止まるんだ?どうしたらあんたを止められるんだ?」
「戦って私を倒せばよかろう?簡単な話ではないか。」
「あんたを倒せば、僕はあんたを止めたことになるのか。違う。それじゃ、ただ力でねじ伏せただけだ。」
「どうした?臆したのか?」
「そうじゃない。そうじゃないんだ。あんたはいつでも理知的だった。僕たちを攻撃しようとはしなかった。僕たちを否定することもなかった。それどころか、僕たちの言葉を真剣に聞いてあんたも真剣に答えた。今戦って仮にあんたを倒したとしても、それで僕が勝ったことには到底ならない。」
「ほう。少しは考えるようになったではないか。それで、どうするのだ。まさか弁舌で勝負しようと言うわけでもあるまい?」
「だから・・・だから、教えてほしい。あんたはどうしたら止まるんだ?」
「笑わせるな。それは自分で考えることだな。私が出した宿題をお前が解いて、よくできましたと私が止まってやるとでも思っているのか。私は私のやりたいようにやっている。お前がやりたいことがあるのならば、お前がそれをするしかない。戦わずに私を止めたいと言うのなら、口ばかりではなくお前自身の行動によってそれを実現することだ。今のお前には、私は止められんがな。・・・ん?まだ生きていたのか?」
ベルンハルトの後ろで、天魔が立ち上がる姿があった。
「ぐぁはぁ。まさかここまでのやり手だとはな、ベルンハルト。」
天魔はよろよろと、ベルンハルトに歩き寄った。
「もうやめておいたほうがよいのではないか?」
「ふはは。馬鹿を言うな。かつて世界最強と謳われた我の誇りにかけて、このまま倒されるわけにはゆかぬ。ふんっ!」天魔は両翼で身を包んだ。みるみると傷が癒え、代わりに両翼がしおれている。
「ふむ。パサーか。体力魔力ともに回復したというわけか。」ベルンハルトがアディールに背を向け、天魔に向き合った。
「これでもくらえ!」と、天魔は拳を振り上げてベルンハルトに突進してきた。
「ほう。魔法では叶わぬと見たか。スクルトッ!」白い光がベルンハルトたちを包む。
「そんなもので身を守れると思ったか!」天魔はニヤリとして弾幕のごとく拳を突き付けた。「爆裂拳!」
「ぐっ!」ベルンハルトは身を回転させながら後ろへと跳び下がる。しかし、口からは血を吐き出していた。
「腹に1発入ったようだな。」そう言って天魔は腕をぐるぐると回す。
「ア、アディール!おいらたちどうすればいいんだ?どっちの味方をすればいいんだ?」
「くっ。ど、どうすれば?」アディールの目は、自然とベルンハルトを向いていた。
「自分で決めろっ!」アディールの視線に気付いたベルンハルトが声を荒げて言った。「お前のことだ!お前が決めろ!」
「どうするんだ?おいらたち見てていいのか?」ドドルは心配そうにアディールを見ている。
アディールはがしがしと髪を乱して頭をかいた。
「戦うのか?アディール?」ドドルもおろおろとベルンハルトと天魔を交互に見ている。
アディールは額に手を当てて唸っている。
アディールはぐっと目をつぶって、そしてぱっと開いた。「ドドル!」
「決めたんだな!?」ドドルの目もぱっと広がった。
「心配するな。おまえたちも皆殺しにしてやる。その後はドルワームをすべて滅ぼしてくれる。」天魔の目が狂気に光る。
「ドドル!僕たちは天魔と戦う!ベルンハルトを守るんだ!」アディールが強くはっきりと目的を示した。
「わかった、アディール!」言うが早いか、ドドルはすかさずモーニングスターを天魔に叩きつけた。
「フン。馬鹿め!」しかし天魔は、先端の鉄球を手で受け止め、逆に鉄球を強く引っ張った。
鉄球から繋がる鎖の鞭に今度はドドルが引っ張られ、振り回されて、ついには鞭からドドルの手が離れる。ドカッとドドルは壁に叩きつけられた。
「クァバルナっ!」今度はアディールが天魔の懐に飛び込む。
「よく来た。手間が省けたぞ。」天魔の3つの目がぎょろりとアディールに向いた。「イオナズン!」爆風が広がる。「3人まとめてくたばるがいい!」
「そうはいくか!マホトーン!」ベルンハルトが叫んだ。空中に描かれた魔法陣が、天魔の周りを囲む。
「効かぬ!!」しかし、天魔の一喝で、その封印の陣はかき消された。
やがて光の爆発が突き抜け、アディールたち3人は爆風に吹かれて弾け飛ぶようにごろごろと壁際まで転がった。
「ベルンハルトよ。さっきの礼だ。」天魔がニヤニヤとしながら「終わりだな。」と言って拳を振り上げる。
「まだ終わりはしない。ベホマラー!」唱えると同時に、ベルンハルトはその場を跳び退いた。しかし、天魔の拳のひとつが、また腹部をえぐっていた。「ぐはっ!」ベルンハルトの口から、また血が流れる。
「ふっはっは。ベルンハルトよ、さっきの言葉をおまえに返そう。もうやめておいたほうがよいのではないか?」
「ごほっ!・・・ふん。まぁ私はやめてもよいのだがな。そいつらがやめるかどうかは、私にはわからんぞ?」
天魔の後ろからアディールとドドルが迫っていた。「バギマ!」「正拳突き!」
「ぶぐはっ!煩わしいやつらよ。天魔旋風脚!」
天魔に蹴り飛ばされたアディールは壁際に追いやられて尻もちをついた。
「おまえから殺しておいてやる。ドルモーア!」天魔の言葉で、アディール目掛けて勢いよく黒渦が巻いた。
「くっ!」アディールは目をつぶる。
「ちっ。世話の焼ける奴だ。アストロン!」
ベルンハルトがそう唱えると、アディールの体が金属のように硬化する。ドルモーアの渦は、硬化した体に阻まれ、何事もなかったかのように消え去った。
「なんだとっ!?」天魔はベルンハルトを睨んだ。「それは失われた古代呪文。なぜおまえがそのようなものを使えるのだ!」
「古代から生きているんだ。別に不思議はないだろう?」ベルンハルトはぐったりしながら言う。
「そうか。古代呪文が失われた理由は、その魔力の消耗に使い手が耐えきれんからと聞く。いかなおまえと言えども、もう魔力の限界と言うわけだな?」
「まあ、平たく言えばそういうことだ。」苦しそうに言うベルンハルトに、ニヤニヤしながら天魔が近付いてくる。「しかし、最後にもうひとつだけ唱えさせてもらうことにしよう。」ベルンハルトはアディールに向けて叫んだ。「あとは任せたぞ!バイキルト!」
ベルンハルトの最後の呪文がアディールに届き、金属硬化が解けると同時に短剣が輝く。
「クァバルナァァァッ!」アディールが跳躍し、短剣を振り下ろした。「タナトスハントっ!!」
黒い死神の手が天魔の体を引き裂いた。
「ぐああああぁっ!馬鹿なぁぁ!」
引き裂かれた天魔の体は、しばらくびくんびくんと痙攣し、やがて治まったかと思うと、紫の霧となって散り散りになった。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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