レンドアは、アディールが以前来たときよりも賑わっていた。長期点検中だった巨大客船グランドタイタス号の運航が再開していたのだ。船舶管理局のオネエ局長の話によると、急にレンダーシア海域の海が穏やかになり、まだ本土の魔瘴は晴れないまでも、航行できるだろうとの判断だったという。
長らくレンダーシア本土と港町レンドアの往来が閉ざされていたこともあり、運航再開に際して、多くの乗客希望者たちが長蛇の列を作って待ち並んでいた。その列に並ぶ気にはとてもなれないほどの長い列に、アディールは渋い顔。
「ここにおったか。」と声をかけられたのはそんな時だった。「ついに冥王ネルゲルを倒したようじゃな。」アディールが声を振り向くと、そこには賢者ホーローの姿。「これでエテーネの民も浮かばれるじゃろう。それに、船が航行できるほどにレンダーシアの海も穏やかになっておる。おぬしたちが冥王を倒したおかげじゃよ。」ホーローのにこやかな笑顔に、アディールも嬉しくなった。「おぬしたちはよくやった。各地の魔瘴を封じて、破邪舟を現代まで継承させ、そして冥王までをも倒してのけたのじゃ。見事じゃ、アディールよ。そしてキサラギ、ドドル、パルポスも。」老賢者はそう言いながら、3人の目を順に見る。それから、ザーンバルフにも顔を向けた。「やはりアディールたちのもとに戻ると信じておったぞ、ザーンバルフ。運命の車両、じゃの。」
ホーローはアディールたちを労い讃えた。しかし、喜んでばかりいるわけではなかった。ひと段落すると、少し険しい顔になる。
「じゃが、冥王が滅び海が穏やかになったとは言え、ほれ。レンダーシアの闇の封印が解かれたわけではない。もはや冥王だけではない、他の邪悪なチカラがはびこっておるということじゃ。」闇の根源をホーローも察知している様子だった。「少し話は変わるが」とホーロー。「レンダーシアにはグランゼドーラ王国という国がある。」
ホーローの話では、そのグランゼドーラ王国の王女こそが、覚醒した勇者なのだという。冥王と戦うべき勇者であったレンダーシアの姫君が、覚醒しておきながら参戦できなかったのは、相応の理由があるのだろう、とホーローは言った。レンダーシアへの道が開かれた今、その姫君の手助けを頼みたい、とも。
「偉業を成し遂げて旅を終えようとしているおぬしらには申し訳ないことじゃが。」
ホーローは申し訳なさそうな顔をしているが、そんな顔をされる必要もない。アディールたちにも、レンダーシアに行く理由がある。
「ホーロー。僕たちもレンダーシアに行くんだ。おそらく、そのグランゼドーラにね。」と、アディールは言う。
「おお!そうじゃったか!ならば話は早いの。もちろん、わしもグランゼドーラに行くつもりじゃ。おぬしたちとも、またそこで会うことになるかもしれんの。」ほっほっほ、と笑いながらホーローが言った。そして「レンダーシアには線路が通ってはおらぬが・・・」と続ける。
ホーローが次に言うであろう言葉が、アディールたち5人にはわかっている。ホーローと同時に、口を合わせるように5人は言った。
「運命の線路が交差するとき、また会おうぞ。」
語尾が「会おう」「会おうぜ」「会いますわよ」「会うぞ」「会いましょうねぇ」になっていた部分だけは揃わなかったが。
ホーローと別れてから、船を待つ間に酒場へ行くことにした。恒例のグレンビールでの乾杯、である。キサラギとドドルは、また不思議な色のカクテルやミックスジュースを飲んでいる。
ひとしきり談笑した後に、酒場の奥からひとりの女戦士風のオーガが出てくるのが見えた。アディールと目があった女戦士は「おや、久しぶりじゃないか。」と近寄ってきた。アディールも、もちろんその女戦士を覚えている。が、アディールよりも先にザーンバルフのほうが女戦士に呼びかけた。「ラビーヌじゃないか!久しぶりだな!」
「アンタはザーンバルフじゃないか!なんだ、アンタたち仲間だったんだね!」
ラビーヌと同じ驚きをアディールとザーンバルフも感じていた。「え?ザーンバルフと知り合いだったの?」「アディールとラビーヌは顔見知りだったのか。だったら言ってくれればよかったのに。」
「じゃあ、もしかして、ランガーオのとき一緒に戦ったのって?」と、アディールがラビーヌに。
「そうさ、ザーンバルフさ。」とラビーヌ。
「なんだ、ザーンバルフも最初は一角ウサギに苦労したりしてたんだね。」と笑うアディール。「実は僕も、はじめはモーモンやドラキーに苦戦してさ。」
「それなら私も。」「おいらもそうだったぞ。」「ワタクシも。」
小さな魔物たちでも恐れていたのだという古い話で盛り上がるアディールたち一同は、しかし今では冥王さえも倒せたほどの腕前。「長い旅だったですねぇ。」とパルポスがポロリと口にした。また全員がうんうんと頷く。
「でも、僕たちの冒険はまだ終わりじゃない。」
「そうだ。次はレンダーシアなんだからな。」
アディールとザーンバルフのその言葉に、同席していつの間にか2杯目のグレンビールを飲み干していたラビーヌが「へぇ、アンタたちはレンダーシアに行くのかい。」と感心したような感嘆したような表情。
「ああ。」と頷きながら「ところで、ラビーヌはここで何をしていたんだ?」とザーンバルフ。
「そこにね、モンスター討伐隊の本部があるんだ。アストルティアで魔物を討伐するための組織さ。」ラビーヌの親指は酒場の奥を示していた。「アタシも傭兵として報酬目当てで討伐の手伝いをしてたんだけどね。どうやら名声を認められたらしくてね、正式な隊員になったってわけさ。」そう言って、ラビーヌは空のジョッキを置いて立ち上がった。「それでこれから討伐ってわけさね。アタシはグレン担当だからね。グレン町内会の依頼があってね、大クチバシの被害で困ってるんだとさ。」そして「じゃあ先に行かせてもらうよ。お代はここに置いとくよ。元気でな。」と言って酒場を去った。
その後も大いに盛り上がったアディールたちは、その日はレンドアの宿に泊まった。宿の女将に「あら、あんた。あんたのお仲間は結局ここには来なかったよ。ザーンバルフ、だったっけね?それとも、そっちのオーガのあんたがザーンバルフかい?」と言われて、アディールははじめてこの町に来た時のことを思い出した。
「そういえばそうだった。あのときはザーンバルフがグレンからやって来ると思ってたから。」
「俺が妖剣士オーレンの事件に関わっていたときだな。結局俺はアディールとは逆回りしちまったから、この町ははじめてなんだ。」
「アズランで会う前にそんなことがありましたのね。」
「おいらもはじめてだけど、この町は好きだぞ。」
「回り回って一周してきたというわけですねぇ。」
結局、宿でも話は盛り上がり、話題は尽きることなく、そのまま日の出を迎えた。
アディールたちは、日が昇り始めてから、しまった朝だ、とベッドに入り、起きたときには、そろそろ太陽が頂点に達しようとする頃になっていた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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