最近、団長はよく銀の丘に足を運んでいる、という団員の証言を得たザーンバルフとパルポスは、オルフェア地方西を南下し、さらにリンクル地方をも南下して銀の丘へと足を運んだ。そして、そこでナブレット団長を発見した。そこには不思議な光景が広がっていた。
ザーンバルフたちの目をまず引いたのは丘の上の扉。家も部屋もないのに、ただ扉だけが丘の上にたたずんでいる。そして、その扉を開くナブレット団長。団長の開くその扉の奥は、どこに繋がっているのかわからない。団長の周りにいるのは、プクリポの子供たち。おそらくオルフェアから誘拐した子供たちなのだろう。団長は子供たちを扉の中へ押し込んでいる。その中にはプディンもいた。
ザーンバルフたちが駆け寄る間にも「うちに帰してよう!僕たちをどうするつもりなの?」という子供たちの涙声が聞こえてくる。
「悪いなぁ、坊主ども。帰すわけにはいかない。」団長の声は、誘拐犯とは思えないほど優しく、そしてその行動とは裏腹に切なかった。団長は子供たちを決して手荒には扱わなかった。ザーンバルフたちは、その言動にどことなく切実なものを感じていた。
「どうして?どうしてこんなことをするの、団長さん?」最後に残ったプディンがそう問う。抵抗しているわけではない。ただ、その行動の理由を知りたい。そういう表情をプディンはしていた。
「悪いな、プディン。お前ももうオルフェアの子供。もう時間がねえんだよ。」団長はそう言ってプディンを扉の向こうに押しやり、そしてバタンと扉を閉めた。「アルウェ、これでいいんだな?」団長はぼそりとつぶやいた。
ザーンバルフとパルポスがやっと団長のところまで辿り着いたのは、扉が堅く閉ざされた後だった。
「ナブレット団長!」パルポスが叫んだ。
「誰だ?」団長は背中向きのまま「いや、当ててみせよう。オーガとプクリポの旅人だな。オルフェアから来たんだろう?」と予言めいた言葉を発した。振り向く団長の前には、ザーンバルフとパルポスの姿がある。
「なぜわかった?」
ザーンバルフの問いにはこう答えた。
「よく当たるんだ。死んだ妹は、先のことがわかるんだ。あいつの言うことはいつも当たったが、今回ほど当たったのが嬉しかったことはない。よく来てくれた。」
ザーンバルフには意外だった。ここに現れることが予言されていたことだけではない。予言が的中し、ザーンバルフたちが追ってきたことを喜んでいるのだ。
「俺たちが子供たちを助けに来ることがわかっていたのか?だったらなんでこんなことをしたんだ?扉を開けて子供たちを開放するんだ。」
「この扉は今は開かない。なんだったら確かめたっていい。」
団長の言うとおりにザーンバルフが扉のドアノブをガチャガチャと回すが、押しても引いても開く気配はない。念のために上下や左右にスライドさせようとしても、ドアノブとは逆の辺を押しても、扉は開かなかった。鍵穴も見当たらず、施錠しているわけでもないようだった。
「妹は、運命が来たときのみ開く扉だと言っていた。まだそのときじゃないんだ。あんたたちが思ったとおりの人物なら、またオルフェアで会うだろう。」
団長はそう言って去って行った。
「くそ!なんなんだ一体!」ザーンバルフが地面を踏み鳴らした。
「しかし、なにか理由がありそうですね。単純ではない理由が。」パルポスは顎をさすっている。
「結局、鍵を握るのは団長だ。俺たちはオルフェアに戻るしかない。」
ザーンバルフとパルポスは、団長の後を追ってオルフェアへと走った。
そろそろオルフェアに着こうかという段になって、ザーンバルフたちは、オルフェアの空が紫の霧に覆われているのに気付いた。南の空は晴天であるのに、オルフェアの上空だけ不気味な雲が広がっている。
「まさか団長が!?」
「急ぎましょう!」
ザーンバルフとパルポスは大急ぎでオルフェアに戻った。
そこでふたりが見たのは、団長の姿ではなく、紫の空から舞い降りる魔物の姿。黒い雲から雷が落ちるのとともに、大きな翼をゆさゆさをはばたかせながら降りてくる緑色の悪魔。耳まで裂けた口からは、ぎらりと牙が光り、頭皮からも翼からも鋭く尖ったツノが突き出している。手に持った三又の槍をぐるぐると回し、先の尖った尻尾をにょろにょろとうごめかせている。
「今日で15年目だ。約束の15年目だぞアルウェ!」悪魔は上空から咆哮した。「このザイガスとの契約を忘れたとは言わせんぞ!!」
ザイガスと名乗る悪魔は、オルフェアの上空をぐるぐると飛び回り、何かを探しているようだった。しばらくして「いない!いないぞ、どういうことだ!?」と言うと「騙したな、アルウェ!この町には子供などひとりもいないではないか!!」と怒りを露わにした。
「驚いたな、なにもかもアルウェの言ったとおりじゃないか。」と、声が聞こえた。
「誰だ!出て来い!」ザイガスが叫ぶ。
「慌てなさんな、悪魔の旦那。」と、姿を見せたのは、ナブレット団長。「オルフェアの子供たちは、このナブレット様が全員さらったのさ。さあ、ガキどもの命、取れるもんなら取ってみろ!」
「きさま、アルウェの仲間か!許しておけん!」ザイガスは口を開けて炎を吐き出した。
炎はナブレット団長目掛けて飛んだが、団長は軽業師のような身のこなしでその炎をひらりと避ける。ザイガスはまた炎を吹くが、団長はそれをひらひらとかわし続ける。
「へへ、ちっとも当たりませんねぇ。ガキどもの所在を知りたきゃ、おれを捕まえてみな!」尻を叩いて見せるナブレットに、ザイガスの怒りは膨れ上がる。
「きさま、愚弄するか!!」憤るザイガスは、単調にも炎を吐き続けるが、いつまでもナブレットを捕えることができない。
団長は炎をかわすという動きの中で、ザイガスを町の外へと誘導している。そして、ザーンバルフとすれ違う時に、細い目で目配せをしながら囁いた。
「おれがミュルエルの森までおびき出す。手を貸してくれ!」団長はそのまま「さあこっちだぜ、悪魔さんよ。」と言いながら町を出た。
ザイガスを連れて町を去る団長を見て、ザーンバルフとパルポスには、団長の意図がわかった。子供たちをさらったのは、悪魔から守るためだったのだ。どういうわけか、悪魔は大人たちには見向きもしない。子供だけが狙いなのだ。団長は最初からそれを知っていた。いや、きっと団長の死んだ妹が予言していたのだろう。
「パルポス。やっと俺たちにも協力できそうになってきたぜ。」
「はい。心情的にも。」
ふたりは、団長とザイガスを追って、今度はミュルエルの森へと走った。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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