ミュルエルの森はオルフェアからずっと西。しかし、この地方には鉄道の線路が縦断していて、簡単に西に進むことはできない。線路をくぐるためのトンネルがいくつか掘ってはあるが、掘削が中断されていて、向こう側まで繋がっていない行き止まりのトンネルもある。ザーンバルフたちは、地上と地下を行ったり来たりしながら、やっとのことでミュルエルの森へと辿り着いた。
「だいぶ時間をかけてしまいましたね。」
「早く団長を助けにいかないとな。いくら団長でも、いつまでも逃げ続けられるわけではないだろう。」
生い茂る木々の間を抜けて、奥へ奥へと進むと、やがて行き止まりの広場で団長とザイガスが睨み合っているところへと追いついた。
「間に合った!」
「団長!」
ザーンバルフとパルポスが走り寄ろうとすると、ザイガスの目がギラリと光る。「邪魔はさせん!」と、片翼で激しく扇ぐ。ザーンバルフたちが突風にたじろいでいるうちに、ザイガスはじりじりと団長に迫る。やがて団長は、広場の突き当たりの石像の上に追いつめられた。
「もう逃げ場はないぞ。」ザイガスは両手と両翼を広げて逃げ道を塞いだ。「ちょこまかと逃げ回りおって!これで終わりだ!」ザイガスは口を開いて息を吸い込む。口の中でメラメラと炎が燃え盛る。
「団長!」パルポスが叫ぶ。
「くそ!間に合ったはずだったのに!」ザーンバルフが嘆く。
燃え盛る炎が悪魔の口から吐き出された。団長を襲うその炎には、もう死角はない。団長が避ける場所などどこにもない。団長は、炎を避けようとはしなかった。
石像の上で炎が燃え上がる。炎に隠れて、団長の姿は見えなくなっていた。
「ぐははは!煩わせおって!このザイガスの怒りに触れて生きていられると思うなよ。」悪魔は高らかに笑った。しかし、その笑い顔がひきつるまでに時間はかからなかった。「バカな!?きさま、何をした!?」
石像の上の炎がかき消される。団長は火傷ひとつ、擦り傷ひとつ負ってはいない。
「まさか!?この石像は!?」ザイガスは団長の下の石像を見た。長い髪をしたプクリポの像だった。「このちっぽけな像のせいで力が出ないのか!?きさま、謀ったな!?」
団長がニヤリとして言う。
「そうさ。あんたのチカラはここでは使えない。そう気に病みなさんな。あんたの野望はここで終わるんだ。」
「どこまでも憎々しい奴よ!」ザイガスは牙をギリギリとこすり合わせる。
「あとは任せるぜ、後ろのふたり!期待していいんだろ?」団長がザーンバルフに目を向けて言った。
「ああ。疑って悪かったな、団長。ここからは俺たちの番だ。」ザーンバルフが、まどろみの棍をザイガスに向ける。
「やはりプディンの目は間違っていませんでした。」パルポスは魔封じの杖をぐっと握った。
「おのれアルウェ!おのれ忌々しきプクリポ!」
チカラを封じられたザイガスは、ザーンバルフたちの前に敗れ去った。勢いのない火炎の息はザーンバルフの心頭滅却に阻まれ、魔力を失ったメラミはパルポスの魔結界の前に消えて散った。イオラを詠唱しようとすればパルポスのマホトーンで封じられ、三又の槍ではザーンバルフの棍術に及ばなかった。
「やはり15年前に子供をすべて食っておけばよかった。」
ザイガスは悔しそうにそう言い残して霧と化した。
「助かったぜ、旅人さんよ。」魔瘴として散り行くザイガスを尻目に、ナブレットがぴょんと跳び上がり、ザーンバルフたちの前にスタと着地した。「少し、話しをさせてくれないか。」そう言って、団長は返事を待たずに話し始めた。
「オレの妹の遺言なんだ。アルウェって歳の離れた妹がいてな。何年も前に死んじまったが、いい奴だった。あいつは先のことがなんでもわかるって不思議なチカラを持ってた。そのアルウェが言ったんだ。『サーカスを始めろ』ってな。」ザーンバルフとパルポスは黙って団長を見つめる。「オレはケーキ職人をやってたんだ。サーカスだなんてやれっこねぇ、そう思った。しかし、妹は言うんだ。『ううん、私にはわかるの。15年後に銀の丘にやってくるオーガとプクリポの旅人さんたちはすごく強いの。その人たちだったら、ザイガスだって倒せちゃう。だからお兄ちゃんはサーカス屋さんになるの。サーカス屋さんには子供たちが集まるでしょ?お兄ちゃんは子供を集めて、15年後にみんなさらっちゃうの。15年目に銀の丘にやってくる旅人さんと協力して、ザイガスをやっつけるの。約束だよ、お兄ちゃん。私はその頃にはいないから。』妹の予言ははずれたことがねぇし、妹はそれを信じてた。兄がそれを叶えなくてどうするってな。」ナブレットはさっきまで自分が乗っていた長髪のプクリポの像をポンポンと叩きながら言う。「こいつはフォステイルってプクリポの英雄だ。ここはプクリポにとって聖なる場所なんだ。ここまでやってくりゃ、なんとかなると思ってたんだ。さて」ナブレットはぴょんと跳び上がって出口のほうに歩きだした。「ガキどもを迎えに行かなきゃぁな。」
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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