ナブレットとザーンバルフとパルポスは銀の丘に戻った。そこには前に来たときと変わらない姿で扉がたたずんでいる。
「悪かったなぁガキども。もう大丈夫だからな。」
ナブレットがドアノブに手をかけた。すると、押しも引きもしないのに扉は勝手に開く。
「な、言ったろ?運命が来たときに開くってな。おまえさんたちがザイガスを倒してくれたから、だ。」
開いた扉からは、オルフェアの子供たちがわっと流れ出てきた。
「な、言ったろ?運命が来たときに開くってな。おまえさんたちがザイガスを倒してくれたから、だ。」
開いた扉からは、オルフェアの子供たちがわっと流れ出てきた。
「団長!」「ナブレット団長!」子供たちは、ナブレットに群がった。ナブレットに閉じ込められた子供たちは、しかしナブレットに抱きついている。「待ってたよ!」「ボクいい子にしてたよ!」誰もナブレットを責めることも非難することもなかった。
「お前たち・・・こんなオレを待っててくれたのか?こんなオレを許してくれるのか?」
呆然とするナブレットに、子供たちは嬉しそうに言った。「当たり前だよ、団長!」「助けてくれたんだね、団長!」
「ぼく団長さんのことを信じてたよ。」と、最後に出てきたのはプディン。
「プディン・・・おめぇ・・・」ナブレットの声は震えていた。「おめぇがみんなに言ってくれたのか。プディン、すまねぇ。みんな、すまねぇ。」団長は細い目をさらに細くして子供たちを抱きしめていた。
「痛いよ団長。」
「すまねぇ。ちょっと力を入れ過ぎちまった。」団長は子供からパッと手を離した。
「ねえねえ団長。なにかやってよ。」子供たちは口々に言った。「ぼくも見たい見たい!」「おもしろい話して!」
「そうだな。じゃあ、昔話をひとつしてやろう。」団長が指を1本立てると、子供たちがわっと沸いた。
「むかしむかし、オルフェアにはひとりの娘がいた。生まれつき未来のことがわかる娘だ。ある日、娘はどうしても銀の丘へ行きたくなったんだ。夢の中で、銀の丘に扉がある、って言われたんだな。娘が銀の丘に来たら、夢で見たとおり、ホントに扉があったんだ。娘が扉を開けると、中にはフォステイルがいたんだ。そして、願い事が叶うノートをもらった。願い事は3つ。ただし、3つ目の願いを書いたら、書いた者は破滅する。そういうノートだった。その娘は、お姫様になりたい、とノートに書いた。するとどうだ。次の日、メギストリスのお城から使いが来て、王の妃に迎えたい、と言われたんだ。娘は、喜んでメギストリスへと嫁ぎ、王妃として、幸せなときを過ごしていた。しかし、そこに悪魔が現れたんだ。悪魔はこう言った。『お前は予知のチカラを持つ者だな。命が惜しければ、どこかにいるというプクリポの救世主の居場所を予知するのだ。』娘は機転を利かせてこう言ったんだ。『その救世主はまだ生まれてないわ。15年後に生まれるの。でも、それまでの間に子供たちを襲ったりしたら、予知してあげないわ。』とな。そして、娘と悪魔は15年間待つという契約をした。15年後には好きにするという契約だ。それから1年後、娘はオルフェアでひとり息子を産んだ。メギストリスの王子様だな。しかし、その後、娘はひどい死に方をした。ミイラみたいに干からびて死んじまったんだ。娘は、死ぬ前に兄に遺言を残していた。自分が死ぬことがわかっていたんだな。兄には、15年後に子供たちをみんな隠しておけば、悪魔から守れる、って言ったんだ。そうしたら、強い旅人がやってきて、悪魔を倒してくれる、ってな。」
「えー。ミイラになるなんて怖いよー。」「その悪魔はどうなったの?旅人がやっつけたの?」「わたしもフォステイルに会いたいよぅ。」
「よし、続きはまた今度だ。今日はもうオルフェアに戻ろう。」団長がそう言うと、子供たちは「えー。」「続きが聞きたいよー。」と頬を膨らませながらも、団長の後についてオルフェアへと戻って行った。
「俺たちも町へ戻ろう。しかし、凶悪ではあったとしても、哀れなやつだったな、ザイガスは。」ザーンバルフがぼそりと言った。
「確かに。」パルポスが頷く。「アルウェさんの言葉を信じて15年も待ち、15年後に現れた団長に誘導されてチカラを失い、そして、ワタクシたちが。」
「おかげで大した苦労はせずに倒せたわけだが。」
「なんとも律儀な悪魔でしたね。はは。笑い話にできてよかった。」
オルフェア。サーカス場。ナブレットの前には、多くの聴衆が集まっていた。子供たちもだが、それより多くの大人たち。ナブレットの謝罪会見である。
「このたびは大変申し訳ないことをした。謝罪のしようもありません。」ナブレットは深々と頭を下げた。「私はサーカス団を辞めて、オルフェアを出ます。それで償いになるとは思いませんが、私なりの責任の形です。」
「やめないで団長!僕たちは団長に助けてもらったんだ!」
子供のひとりが飛び出して叫んだ。
「そうだよ!魔物から守ってもらったんだ!」
別の子供も声を張り上げた。
「そんなの見に来たんじゃないよ!ぼくサーカスを見に来たんだ!団長、サーカスが見たいよ!」
子供たちは、次々とナブレットに気持ちを投げかけた。
「みんな・・・ありがとう。でもな、オレに団長を続ける資格なんかねぇんだ。オレは・・・」
そんなナブレットの言葉を遮ったのは、大人たちの声援だった。
「団長。子供たちのこの顔を見てやってくれよ。」
「あんたが子供たちを救ってくれたことはわかってる。この町のことを考えてくれてたのもわかってる。だから団長。これからも子供たちを笑わせてやってくれよ。」
「団長に出て行ってほしいなんて思っている人は、この町にはひとりもいませんよ。」
「責任を感じてるってぇなら、子供たちが大きくなるまでサーカス続けやがれってんだ!」
ナブレットは「そうか、みんなそこまで思ってくれて・・・」と頭を下げたまま肩を震わせた。そして、がばっと顔を上げて右手で目をこする。細い目の端から飛び散る滴は、きらきらと美しかった。「わかった、仕切り直しだ!みんな、新生ナブナブ大サーカスもよろしく!」表情も声も、いつものナブレットに戻っていた。「そうと決まれば、急いで準備だ!今夜からまたサーカスだっ!」
ザーンバルフとパルポスは、夜を待ち、またサーカス会場に足を運んだ。会場に来た大人も子供も、みな幸せそうな表情をしている。
「はじめて来たときにも思いましたが、みんな団長とナブナブ大サーカスが好きなんですねぇ。」
「ああ。団長やオルフェアの子供たちの笑顔が戻ってよかったな。」
「憂いのない心からの笑顔。あなたの理想どおりです。」
「俺はそんなこと言ったか?半分はお前の理想だろ、パルポス。」
会場の端の席で凸凹のザーンバルフとパルポスが会話をしていると、団員のひとりが団長からだと言ってホールケーキを持ってきた。団員は「この町の名物、アクロバットケーキです。」と付け加えて下がって行った。ケーキには大小、2本のスプーンが添えられていたので、大きなスプーンをパルポスが持ち、小さいほうをザーンバルフが握った。ふたりがひとつのケーキを食べる姿は、誰がどう見てもアンバランス。ザーンバルフがスプーンを刺すと、カチャリ、とケーキの中から音がした。スプーンとぶつかる金属の音。パルポスが大きなスプーンで、それをケーキの中から掘り上げた。「これは・・・」「団長め、味なマネを。」
「なんです、これは?」
「これはな・・・おっと、プディンの出番だぞ。」
「おや。やっぱり、ジャグリングをやるのですねぇ。」
「ああ。おいおい、ひとつもキャッチできてないじゃないか。」
「それを温かく見守ると言っていたじゃないですか。」
よくできたとはとても言えないプディンの出番が終わる頃、ふたりの横に、すたすたと歩いてきたウェディの青年が腰を下ろした。ネイビーブルーの髪がサラサラとなびいた。ウェディはザーンバルフに話しかける。「よかったよ、また会えて。ザーンバルフ。」
「アディール!」ザーンバルフが驚いて大声を上げたので「シー」とアディールは口元に人差し指をあてた。「公演中だろ?」
「アディール、お前の話をしてたんだぜ。」
ザーンバルフがそう言うと、パルポスがアディールに顔を見せて、少し頭を下げた。と、ほぼ同時に、アディールの陰からはエルフの少女とドワーフの少年が顔を出す。「紹介するぜ。」「僕のほうも紹介するよ。」
「それから、コレもだ。」
ザーンバルフの手には、ケーキまみれの勲章、白のキーエンブレムが光っていた。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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