カインの冒険日記 -156ページ目

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

      読むドラゴンクエストの世界へようこそ。

12章  五人目の男


 プクランドはオルフェア。
 お菓子の町でありサーカスの町であるここオルフェアに、今ひとりのプクリポの青年が足を踏み入れた。
「ここがオルフェアですか。都会的ですね。」
 青年の名はパルポスといった。花の民。笑いの小人。プクリポ。細い目はつり上がり、両耳は頭の上にぴょこりと立っている。イエローグリーンの肌の色とグリーンイエローの毛髪の色は、どこが境目なのかほとんどわからない。背中には、自分の体よりもずっと長さのある杖をしょっている。どう見てもプクリポ用ではない。
「サイズのことを考えていませんでしたよ。これはエルフ用ですね。」
 杖をズルズルと引きずりながら、ぴょこぴょこと跳ねるように、パルポスは中央広場へと向かった。広場の低いベンチにぴょんと座り、懐から小さな手帳を取り出した。パルポスは手帳を開いてペンを抜き、サラサラと文字を書き込んでいる。
「私はオルフェアの町に到着した。オルフェアはプクレットよりも都会的な町だった。まぶしい晴天の日だった。っと。」
 ペンを戻し、書き込んだ手帳をパラパラとめくる。
「そういえば旅の始まりはこうでしたね。」
 そうつぶやいてから、パルポスは最初のページに目をやった。「このようなことがあるのだろうか。私に降りかかった数奇な運命をここに記しておくことにする。」1行目にはそう書いてあった。

 このようなことがあるのだろうか。私に降りかかった数奇な運命をここに記しておくことにする。
 このようなことを誰かに言っても信じてはもらえないだろう。この手記が誰かの手に渡っても、やはり信じてもらえることはないだろう。しかし、もしこの手記を理解できる人物の手に渡ることがあれば。いや、そうならなくてもいい。ただのおとぎ話として読んでもらうだけでも十分なのかもしれない。もちろん、それは私の旅が、無事に達成できていれば、の話である。

「はは。ずいぶんもったいぶった書き方をしてしまったものです。」パルポスは指でページをめくり、懐かしげな表情で読み進めた。

 私の名はソイル。人間である。人間である、と表現するのにも違和感がある。人間の文字で人間であることを名乗ることほど無意味なことはないからだ。いや、ないと思っていたからだ。しかし、今はプクリポという小人である。プクリポという小人である、という表現も、おそらくおかしな表現なのであろう。人間が人間であることを名乗らないのと同じように、プクリポという小人、と自分を記述するプクリポもいないはずであろうから。

「はは。ワタクシはなにを書いているのでしょうかね。しかし、このときはこう思ったのですから、しょうがないことです。」パルポスは苦笑いしながら、またページをめくる。

 まずは私が人間であったときのことから記述しよう。私はサリリア浜という海辺の村に住んでいた。海の綺麗な村だった。活きのいい魚が獲れれば村で分け合い、新鮮な野菜が手に入れば村で分け合い、自然と共生する素朴な村だった。村には守り神がいた。守り神はカメ様といい、村の人々は、毎日カメ様にお祈りをする。カメ様が何者なのかは知らない。実像を見たことがあるわけではないのだ。サリリア浜は時渡りの分家であり、本家エテーネの村に実像があるのだという話を聞いたことがある。
 あの日、私は海に潜って漁をしていた。しかし一匹も獲れなかった。いや、海に魚が一匹もいなかった。水槽の中にいるかのように、風も波もない、有機質なものがまるで感じられなかった。私は不思議に思って村に戻った。そこで私は、とてつもなく恐ろしい惨状を目の当たりにした。その惨状は筆舌に尽くし難く、ここでの記述はこの程度で許してほしい。思い出したくもない。村が焼き払われていた、とまとめておくことにする。村を焼いた頭目は冥王ネルゲルと名乗り、大鎌で空を切り裂き、紫の霧で村を覆った。私もその霧を浴びて命を失った。私は死の寸前まで守り神に祈った。助けてくれ、ということではない。今まで幸せな生活をありがとう、とだ。そのとき、祈りが届いたのかどうかはわからないが、不思議なことが起きた。私の体は紫の霧を浴びる直前に白い光に包まれ、分裂したのだ。魂が肉体から離脱した、と表現してよいだろう。魂だけの存在となった私は、そこで自分の肉体が息絶えるのを見た。村全体が霧に覆われるのも。そして、私の魂は空に舞い、プクランドというプクリポの国へとやってきたのだ。
 プクランドに来た私は、自分の魂が入るべき肉体を探した。いや、私の意思で探したわけではない。私の魂を包んだ光が、プクランドをうろうろと彷徨ったのだ。そして私は、パルポスというプクリポが命を落とす場面に遭遇した。パルポスは、プディンという仲間のために、ひとりで大蛇と戦っていた。人々を笑顔にするのが自分の役目だとパルポスは言った。人を心から笑わせるためには、表面的なおもしろさだけではなく、心の奥底の闇を取り払う必要があるのだ、と。カッと目を見開くパルポスの、燃える炎のように赤い目が今でも忘れられない。プディンの心の闇であるお前を倒す、と言ってパルポスは大蛇に飛びかかり、しかし結局は大蛇の吐いた紫の霧に包まれて、命を落とした。私がパルポスとして転生できたのは、単なる偶然であったのだろうか。少なくとも、私がパルポスに共感し、その勇猛さに感銘を受けたのは確かだ。不思議な話だが、私はこのパルポスに転生できたことを喜ばしく思った。そして、パルポスの意志を私が引き継ぐという決意を私はしたのである。
 パルポスの遺体は、偶然通りかかった商人によってプクレット村まで運ばれ、私はその道中でパルポスの体へと入り込んだ。村で棺が開けられたときに私は飛び出したのだが、村の人々の反応は予想とは全く別のものだった。良きか悪しきか、パルポスは村の三年連続演芸チャンピオンであったようなのだ。生き返しを受けた私に対して誰も不思議に思うことなく、さすが迫真の演技だと、私は喝采を受けた。私が騙したわけではないが、騙された当の商人も、これは一本取られましたな、と笑って喜ぶほどだった。パルポスの持つ人格、人望なのかもしれない。

「パルポス・・・。どのような人物だったのでしょうか。生きているときに会いたかったものです。」ソイルだったパルポスは、その体の持ち主を想い、またページをめくった。

 プディンという少年に会った。パルポスが命をかけて守ろうとした少年だ。正確には、パルポスが命をかけて守ろうとしたのはプディンの命ではなく、プディンの心の平穏というところだろう。プディンの笑顔のために命をかけたと言ってよいだろう。しかし、プディンは私を見て笑ってはくれなかった。プディンは泣きそうな顔で、約束のことはいいから危険なところに行かないで、と私に言った。約束、とは何のことだかわからなかったが、私はパルポスとして適切であろう言葉を選び、どの約束か、と聞いた。プディンが言う約束とは、まさにパルポスが命を失った、プディンの笑顔を取り戻すという約束のことだった。約束は果たせなかったが、見事な最期を遂げたパルポスの勇姿を伝えたいとも思ったが、そのパルポスの意志は私が継がなければならない。今は私がパルポスなのだ。私はプディンに、心配はいらない、と言った。もう危ないところには行かない、と付け加えた。パルポスの意志を引き継ぐ以上、もしかしたら、いやきっと危険なところに行く必要があるのだろうが、それをプディンに伝える必要はない。プディンに心配させる必要はない。私は、どうしてもプディンの笑顔を取り戻さなければならない。そう、どうしても。
 私のやるべきことはプディンのことだけではない。他でもない、私自身のことだ。私はなぜこの体に生まれ変わったのか。心当たりはある。私が時渡りの術の能力者だからだ。いや、能力者というには無理がある。今まで一度も術を使ったことがないのだ。しかし、エテーネの血を引いている。エテーネの分家のサリリア浜の中で、私はもっとも強くエテーネの血を引いている。サリリア浜の中で、私だけが生まれ変われたのは、そういう理由なのだろう。しかし、私よりも強くエテーネの血を引く者がいる。言うまでもなく、エテーネ本家の術者だ。私が生まれ変わったことに意味があるとすれば、エテーネ本家にも危機が迫っているということになる。そうでなければ、私の血など取るに足らないものであるはずだからだ。私はサリリア浜に行かなければならない。私はエテーネの村に行かなければならない。本家の血を絶やしてはいけない。銀髪の冥王の脅威から、エテーネの血を救わねばならない。今、私はプクレット村にいるが、サリリア浜にいたときには聞いたこともない村。もちろん、プクリポという種族についても同様である。この村にいたままでは、私はエテーネに近付くことができない。冥王に迫ることもできない。いずれ村を出なければならない。
 エイドスという賢者の住む隠れ家があるという話を聞いた。レンダーシアから来た人間の賢者であるという。サリリア浜では聞いたことのない名前だが、レンダーシアも広いのだと今なら理解できる。プクレットのプックレイ村長は、賢者エイドスのことをこの世のすべてを知る人間だと言う。私は賢者の隠れ家を探し、エイドスを訪ねた。これという質問があったわけではない。何のために訪ねたのかと問われれば、それに対する明確な答えを持っていなかった。しかし賢者エイドスの言葉は、そんな私の杞憂を一瞬で振り払った。顔を見た瞬間に、私にこう言ったのだ。おぬし、プクリポではないな、と。私の中に、何か別のものが見える、と言うのだ。私はこの賢者にすべてを打ち明けた。サリリア浜のこと、冥王のこと、生まれ変わりのこと。するとエイドスは私にひとつの道筋を示してくれた。まずはこの地の魔瘴の根源、汚れの大蛇を倒すことだ、と。そうして、なかなか姿を現さない大蛇をおびき寄せるためのまじないをエイドスは私に施してくれた。私はすぐに理解した。パルポスの命を奪ったあの大蛇こそが、魔瘴の根源であり、プディンの心の闇なのだ。しかし、魔瘴の根源がプディンの心に闇をもたらす理由がまだわからない。私は、賢者に礼を言い、またプクレットへと戻った。
 私はプディンの心の闇についてさり気なく調べた。そして、私の相方、つまりパルポスのコンビの相方のピリッポから、プディンの両親が汚れの谷の魔物に襲われて命を落としたことを聞くことができた。間違いない。それがプディンの心の闇で、パルポスはその闇を振り払おうとして汚れの大蛇に挑んだのだ。汚れの大蛇を倒して、両親を殺されたという心の呪縛からプディンを解き放とうとしたのだ。プディンの本当の笑顔のために。相方ピリッポは、汚れの谷の場所を教えてくれるとともに、さすが炎の目のパルポスだと私を応援してくれた。違う。私の目は炎のように赤くはない。炎の目のパルポスは、もうこの世にはいないのだ。
 のどかなプクレット地方とは違い、汚れの谷は薄暗く草木も生えない枯れた谷道だった。谷は迷路のように入り組んでいて、正しいとも間違っているともつかない道を私は歩き続けた。時折、死者のさまよう魂が、生者である私に襲い掛かってきた。かつての私ならば逃げ帰っていたかもしれない。しかし、パルポスの体に入っているということが私を勇気づけた。他の誰にもわからないだろうが、パルポスの体は私に妙に馴染む。パルポスの中にいるだけで、私は勇気を振り絞れるのだ。私は、谷の突き当たりにまで到達した。そして待った。賢者エイドスが私の体に施したまじないの効果が表れるのを。しばらくすると、効果が出たのだろう。シャーという声が聞こえ、巨大な蛇が首を出した。どこにそのような穴があったかはわからない。いや、おそらくなかったのだろう。穴がないところから、大蛇は首を出したのだ。私は大蛇に向けて杖を構えた。パルポスのカタキ、と言ったかプディンのカタキと言ったか、もう自分でも覚えていない。私は炎の呪文を唱えた。目の前で燃え盛る炎が、私にパルポスの目を思い出させた。炎は大蛇に向けてまっすぐに飛んだが、大蛇が口から吐き出した紫の霧によってそれはかき消された。それを見て私は冷静になった。パルポスは自らが飛びかかって行ったがために、あの大蛇の霧の餌食になった。私も、今、大蛇に飛びかかろうとも考えていた。しかし、もし飛び込んでいたら、今かき消された炎のように、私自身がかき消されていたに違いない。呪文を飛ばしたのは正解だった。私は運がいい。その後、私と大蛇は睨み合った。私もそうであるが、大蛇のほうも、うかつに近付けないと思っていたのかもしれない。しばらくすると、大蛇は睨み合いを放棄して、口からタマゴのようなものを吐き出した。タマゴは全部で3つあった。3つのタマゴは同時に孵り、中からはつちわらしにも似た長い舌をべろりと出す魔物が出てきた。3匹の魔物との戦い自体はさほど苦労するものではなかった。私は、すぐにラリホーで眠らせてから、ヒャドで1匹ずつ魔物を葬った。私はそこで一瞬油断をしてしまった。魔物を葬ったことで安心してしまっていた。そんな私の死角から大蛇は襲い掛かってきた。シャーという声が耳元に迫ったときには、私はもう死を覚悟していた。そのとき、遠くに不思議な光の柱が見えた。私はその光の柱を見ながら大蛇に噛まれて死ぬのだと思った。ところが、大蛇の牙は私には届かなかった。蛇は光から隠れるように岩陰へと逃げ込んだのだ。私は白い光に2度救われた。1度目は冥王の紫の霧から。2度目は大蛇の牙から。光の柱が見えなくなるころには、大蛇の姿ももう見えなくなっていた。程なく、賢者エイドスが姿を現した。無事か、と賢者は聞いた。私が無事であることに安心した賢者は、こう言った。今の光はレンダーシアで覚醒した勇者の光だと。死すべき運命から逃れた私には、使命があるのだと。心のままに進め、いずれ宿命がお前をつかまえる。エイドスの言葉に私は吸い込まれる気がした。私は宿命につかまえられる。わかっていることだ。生き返しを受けた時点で、私は強い力で運命づけられていた。そう、わかっていること。エイドスは勇者の覚醒を調べるためにプクランドを出ると言った。行き先が同じであれば、また巡り合うだろう。そう言って、賢者は去った。
 プクレットに戻ると、今度はプディンが笑顔を見せてくれた。私は報われたと思った。私だけが報われたのか。プディンの笑顔を取り戻すことができて、パルポスもきっと報われているのだろう。両親の無念を晴らせて、プディンもきっと報われているだろう。しかし、パルポスが報われていようがいまいが、プディンが報われていようがいまいが、パルポスとプディンが報われていると思うことで私は報われるのだ。両親を失ったプディンは、オルフェアの親戚の家に引き取られることになっていたそうだ。私が汚れの谷から戻ってきたときには、もう引き取り先の馬車が到着していた。もう少し戻りが遅ければプディンと会えなかったかもしれないと思うと、もし魔物を倒せていなければプディンの笑顔が見れなかったかもしれないと思うと、やはり私には、大きな運命を感じずにはいられない。村の人々が見送る中で、プディンを乗せた馬車はプクレットを発った。プディンは馬車から体を乗り出し、ずっと手を振っていた。その後で、私はプックレイ村長から呼ばれ、一人前の証をもらった。村長が一人前と認めた者に与える称号なのだという。自己評価ではあるが、私も私を一人前だと認めていたところだ。パルポスの意志を引き継いでプディンの笑顔を取り戻せた。魔物を倒したことでも魔瘴を取り払ったことでもなく、私はパルポスの想いを実現できたただ一点が、何よりも嬉しかった。私にはパルポスの体を使う資格があるのだと、自分に強く思わせることができたのだ。都会に行くと、一人前の証よりもずっと名誉ある称号、キーエンブレムを手にすることだってできる、と村長は言った。各地で活躍すれば、きっとキーエンブレムまみれになるだろう、と村長はおどけた調子で続けた。こんな話をするのは、私が村を出る決意をしていることがわかっているからなのだろう。私は村長に黙って一礼し、村の出口へと向かった。出口では相方のピリッポが待っていた。ピリッポも村を出る決意をしていたのだ。私やプディンを見て、ただ笑わせるだけじゃなくてもっと重要なものがある気がした、とピリッポは言った。そう、私がパルポスをはじめて見たときに思ったことと同じだった。パルポスは、私だけではなく、相方にもそう思わせたのだ。ピリッポは、いつか世界の中心であるレンダーシア劇場で勝負をしよう、と親指を立てて言った。そしてプディンの馬車が通ったのと同じ道をぴょこぴょこと走って去って行った。世界の中心。レンダーシア劇場。エテーネの血を守るために行くつもりだったレンダーシア。冥王を探すために行くつもりだったレンダーシア。しかし、それだけではなかった。レンダーシアは私を呼んでいる。私はエイドスの言葉を思い出した。宿命はもう私をつかまえ始めているようだ。私はレンダーシアで人々を笑わせる。しかし、それは、単にその場限りの笑いではない。人々がいつまでもいつまでも、劇場を出ても、家に帰っても、次の朝が来ても、いつまでも笑い続けていられるような世界をパルポスは望んでいる。そして私も。私の行く先には、きっと様々な苦悩が待ち受けているのだろう。人々の心の闇、と言い換えてもよいだろう。行く先々で、私は人々の心の闇を取り払う。そして、人々が憂いなく心の底から笑えるときこそが、私の旅の終着と言えるのかもしれない。まずは私もオルフェアを目指そう。そこに、きっと宿命が待っているはずだ。
 村を出た私は、プクレット草原を越え、ポーポラ地方を西へと進み、オルフェア地方東部へと差しかかった。どこまでも続くのどかな草の原に一本道。暖かい日和に心地よい風。青草の上に寝転がり、のんびりと昼寝でもしたいほどの好天だった。しかし、そんなのどかな草原であっても、進めば進むほど、強い魔物が出てくるようになった。リリパットやフェアリードラゴンと戦うようになり、だんだん私の魔法力が通じなくなっていくのを感じた。ちょうど通りかかったピィピのお宿という休憩所で、私はバザーを覗いた。バザーには物珍しいものが並んでいた。いや、そう表現するほどのことでもないのかもしれない。私がアストルティアに来てから日が浅いだけのことだ。多くのものが珍しく見えてしまうのは、私が生き返しを受けた者だからなのであろう。私は、いくつかの防具を試着し、気に入ったサフランローブを買った。少し魔法力が増幅されたようにも感じた。魔物たちとの戦いも、少しは楽になるに違いない、と思った。私は杖も買い替えた。目にとまった魔封じの杖は、少し値が張るものであったが、思い切って購入することにした。そのせいで、残額はほとんどなくなり、宿では主人に頼んで少しまけてもらった。金袋を裏返しにして、これだけしかないのだと頭を下げると、よい部屋ではないけれど、と言って笑って泊めてくれた。そういう旅人は少なくないのだという。主人の温情に私は感謝した。これも宿命が私をつかまえた結果なのだろうか。いや、さすがにそこほど大げさなものではないだろう。私だからというわけではない。他の誰にでも、この主人は温情をかけるに違いない。よい部屋ではないと主人は言ったが、とんでもない。もし私が人間の姿であったならば、窮屈であっただろうが、プクリポである今、この部屋は申し分ない。とても快適で、今日はよく眠れそうだ。明日にはオルフェアに辿り着くことができそうだ。
 私はオルフェアの町に到着した。オルフェアはプクレットよりも都会的な町だった。まぶしい晴天の日だった。

 パルポスはパタリと手帳を閉じた。
「さて。この町でのワタクシの宿命を探すとしましょう。」
ベンチから立ち上がろうとするパルポスに、上のほうから「よう。ここにいたんだな。」という声がかけられた。パルポスが振り向くと、すぐ横に男が座っている。男の顔は、パルポスからは見えないほど高い位置にあった。
「これは気付きませんでした。読書に夢中でしたので。」パルポスは、ぴょこりとベンチから飛び降りて数歩下がり、男のほうに目を向ける。ワインレッドの巨体。オーガだった。プクリポ用のベンチに座るワインレッドの男は、ほとんど地面に座り込んでいるのと同じ姿勢である。
「いつからそこにおられたんですか?いえ、それより、どちらさまですか?」
 オーガは、そのパルポスの問いには答えず、ぶつぶつと独り言のようにつぶやいていた。
「エイドスのじいさんにアンタの名前を聞いたときから、ずっと引っ掛かっていた。記憶が出そうで出なくてな。」
「エイドス?賢者エイドスを知っているのですか?」
「ずっと探してたんだぜ。いつか会えると思っていた。その姿を見て、やっと全部思い出せたんだ。」そう言うワインレッドのオーガは、髪の毛までワインレッドである。
「ワタクシを知っているのですか?あなたは一体?」パルポスはいぶかしむ。
「やっと会えたぜ。」ワインレッドの髪の隙間から炎のように赤い目が覗いた。
「その目はっ!」パルポスは叫んでいた。
 そして、ふたりの口は同時に開いた。
「パルポス!」「パルポス!」





続きを読む

前に戻る


目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】


よかったらポチしてもらえると嬉しいです(^o^)
      ↓


読者登録してね