宿を出たアディールたちが港に着いたとき、グランドタイタス号はすでに到着していて、長蛇の列があらかた船に乗り込んでいたところだった。
「そろそろ完売だよ。」と言われて、慌てて乗船券を買い、桟橋に向かう。
次なる冒険の舞台であり、すべての始まりの地であるレンダーシア。
巨大客船グランドタイタス号を目の前にして、アディールが仲間たちに言った。
「みんな、帰ろう。レンダーシアへ!」
グランドタイタス号に乗り込むアディールは、船から降りようとする腰の曲がった老婆とすれ違った。白髪混じりの薄茶色の髪をした人間の老婆。その老婆がよろめいたので、アディールはサッと手を貸した。
「おやおや、ありがとうね、お若いウェディのかた。」
笑顔を見せた老婆のその黒い瞳は、年齢を感じさせないほどの光沢が保たれていた。
「おばあさんおひとりですか?」とアディールが聞いた。
「ええ。やっとこっちに渡れたものでね。生き別れた兄を探しているんですよ。」老婆はニコリと笑った。そして、自分の道具袋を探ってひとつの帽子を取り出した。「むかし兄に渡した帽子です。私は錬金が得意でね。また作って、兄に届けたいと思いましてね。」
老婆の手に握られていたのは、6枚の花びらが付いた造花が乗った赤と黄のしま模様の帽子。
誰もかぶらないような派手な帽子。しかし、それを見て驚嘆の表情をしたアディールは「あ、あの・・・。」と帽子に向かって手を伸ばす。「そのご機嫌な帽子。ちょっとかぶってもいいですか?」帽子を借りたアディールはそれをかぶって老婆に聞いた。「どうですか?似合ってますか?」
「おやおや。」と、老婆が少し驚いたような顔をしてすぐに目尻を下げる。「よく似合いま・・・」言葉の途中で「・・・え?」と老婆の表情が変わった。「なぜ、ご機嫌な帽子という名前を・・・?」まさか、と老婆は目を見開いた。「あ・・・あ・・・」と帽子をかぶったアディールを見つめながら、目に涙を浮かべて言葉を詰まらせる。「その目・・・その黒い瞳・・・」
「そう・・・そうなんだ。オレだよ。」アディールがその一人称を使うのは久しぶりだった。その目にも涙が浮かんでいる。
ウェディの青年と人間の老婆はふたりとも涙で顔をくしゃくしゃにしながら力の限りに互いを呼び合った。周りの誰に気を使うこともないほどの大声で。
「リリーネ!!」
「お兄ちゃん!!」
ドラクエ10 目覚めし五つの種族・完
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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