グレンより北東の村エルフたちの集落は、廃墟とも思えたグレンよりも、より劣悪な環境だった。いくら荒廃してはいても、グレンのほうがよほどよい環境の町だったと思える。
アディールたちが到着したときには、エルジュがひとりのエルフと話をしていた。ピンクグレーの髪の若いエルフの女性。四術師のひとり、ヤクルであろう。
「ベルンハルトの息子エルジュ!習わしに従い、継承の儀を受けに来た!」エルジュはいきなりそう言った。この劣悪なる惨状をまるで気にしないように。
「・・・よく来ました。」ヤクルはエルジュの態度に違和感を覚えつつも、その来訪を歓迎する素振りを見せている。「ここは人間たちにグレンを追われたエルフとウェディの住む集落。継承の儀をする前に、あなたにひとつ試験をさせてください。」
そう言えば、グレンには人間しかいなかった。そして、この集落にはエルフとウェディだけ。多種族が行き交う現代のグレンからすると、不思議な感覚ではある。
「どんな試験だ?」とエルジュ。
「あなたの父ベルンハルトは、目の前で困っている人を決して放っておくようなことはしなかった。彼のような慈愛の心を示してください。それがあなたへの試験です。」
「慈愛の心?回りくどい言い方をせずに、具体的に何をすればいいのかを言ってくれ。」
「・・・それを考えるのも、試験の一部にしたいと思ったのですが・・・いいでしょう。例えば、この集落には水が足りません。集落の者たちは、みな渇きによって死んでゆきます。」ヤクルはそう言って、他のエルフやウェディたちを見るように促した。
渇きに対するウェディの苦しさをアディールは知っている。この集落の惨状の正体のひとつが、水不足であるのだと、アディールは理解した。
「それが?」しかし、エルジュの態度を見ると、それに構う様子はない。
「どうか、お城の水を分けていただけませんか。」エルフのヤクルはじっとエルジュの目を見つめた。
「確かにこの村は水がなくて困っているようだ。しかし順番が違う。それを頼むのであれば、まずは継承の儀を先に取り行ってもらうのが筋。」エルジュは頑として、そのヤクルの要望を跳ね退けた。「考えが変わるまでここで待たせてもらう。」と言って、エルジュは集落の宿に入って行った。
「困った子ですねぇ。」と苦々しい表情をするパルポス。
「おいら、アイツもあんまり好きじゃないぞ。」とオズルーンであるドドル。
「人間にグレンを追われた、って言ってましたわね。本来ならここのエルフやウェディもグレンにいたのでしょうかしら。」キサラギも難しい顔をしている。
「エルジュのこともそうだけど、この村の状態を放っておくこともできない。水は僕たちで取りに戻ろう。」
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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