カインの冒険日記 -148ページ目

カインの冒険日記

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「速達でお願いします。おいくらですか?」

 アディールが支払いを終えて郵便局のテントを出ると、ひとりの男が近寄ってくる。黒いローブを身にまとった黒い短髪の男。背丈はアディールよりいくらか低い、壮年の人間である。

「はじめてお目にかかる。」と黒ローブの男は軽く会釈をした。

「あなたは誰です?」アディールは少しいぶかしんで聞いた。

「私はベルンハルト。しかし名前を名乗ってもわかってもらえないだろう。冥王ネルゲルの仲間、と言ったほうがいいかな、生き返しのウェディよ?」

「なんだって!?」

 アディールは跳び退いてサッと短剣を抜いた。町中で殺気立たせるアディールに、人々はザワザワとアディールから離れ、ちょうどアディールとベルンハルトを中心に人々の円が作りあげられていた。コロシアムの町ラッカランで、このような騒動があるのは珍しくはない。人々は、自分に危険が迫らない距離で、その動向を楽しみに見ているようであった。

「どうした、アディール!?」

 急に騒然とした人だかりを押しのけてザーンバルフが駆け付けた。それにパルポスとドドルとキサラギが続く。

「そいつは冥王の手下だ!」アディールはベルンハルトとの距離を保ちつつ、じりじりとザーンバルフたちのほうに移動する。「気をつけるんだ!」

「手下とは心外だな。仲間だと言ったはずだぞ。」ベルンハルトは両手を広げて口をへの字に曲げた。「それにここで戦うつもりはない。ただ挨拶に来ただけだ。」

 それでもアディールは短剣を納めず、残りの4人も臨戦態勢を取っている。

「私は名乗ったのだ。せめて名前ぐらいは聞かせてもらってもよいのではないか?」ベルンハルトはそう言った。その様子からは、言葉に嘘はないように思えた。戦うつもりがないというのは、本当なのだろう。

「・・・わかった。僕の名はアディールだ。」アディールは短剣を鞘に納めながら言った。「どういうつもりだ?どうして僕に声をかけた?」

「私は今メギストリスで仕事中でな。キラキラ風車塔でお前を目撃したという話があったので、それを追ってきたわけだ。」

「戦いに来たんじゃないのか?」

「いま言ったとおりだ。お前がメギストリスに来れば戦うこともあるだろう。」

「なぜ僕たちにそんなことを教える?僕たちをおびき寄せるつもりか?」

「まぁ、そう言われるとそういうことにもなるな。キラキラ風車塔から引き返したのを知ったときに、残念に思ったのも確かだ。計画がうまくいきすぎるのも面白くなくてな。」

「どういうことだ?」

「冥王の目的は知っていよう?アストルティア中の魔瘴を吸い取ることだ。魔瘴は冥王のチカラの根幹だからな。私もそれに協力している。しかし、何事にも刺激はほしい。」

「なんで人間のあんたが冥王に協力しているんだ?」

「ふぅむ。強いて答えるなら、面白いから、かな。人間だから人間の味方をするとも限らないということだ。冥王といたほうが、私は面白いのだ。」

「そんな・・・面白いから世界を滅ぼそうというのか!?」

「そう熱くなりなさんな。若いお前にはまだわからないかもしれんが、人間は醜いものだ。私も人間に愛想を尽かしたひとりだが、しかし憎んでいるわけではない。滅ぼそうと思っているわけでもない。結果的に滅びてしまうのかもしれんが、そこまで私が面倒見てやる義理もない。」

「あんたの・・・あんたの正義はどこにあるんだ?」

「正義か。私も人間に味方したこともあった。魔物を倒すのが正義だと、そのときは思っていたさ。別にそれが間違っていたと思っているわけじゃない。しかし、立場が変われば正義も変わる。そう言うのならば聞くが、お前の正義はどこにあるのだ?」

「冥王は・・・僕たちの村、エテーネを滅ぼしたんだ。それだけじゃない。エテーネの血を根絶やしにした。」

「だから冥王を倒すというのか。しかしそれは正義とは言わない。私怨だ。お前の私怨がたまたま冥王に向いているにすぎない。私の私怨が人間に向いているとしたら、お前には私の考えを否定する要素はひとつもないはずだ。ついでに言うと、冥王は私怨に囚われない。人間よりもよっぽどよいぞ?」

「人間に・・・なにかされたのか?人間を憎むわけがあるというのか?」

「言ったはずだ。確かに私には人間に愛想を尽かす理由がある。だが憎んでいるわけではない。さっきは私怨があるようなたとえ話をしたが、そういう感情ではない。私が言っているのは、もっと本質的なことだ。人間は掌を返すが、冥王は返さない。誰だって裏切らない者のために働きたいものだ。誰だって必要とされる者のために働きたいものだ。」

「だけど・・・」

「話して解決することでもない。もしお前が自分の言葉の正当性を示したいのなら、その実力をもって私を止めることだ。どちらが正当かは、勝ったときに決まる。しかし、勝つために手段を選ばなかったのだ、などと後から言われては不愉快だからな。こうして、まずは顔を見せに来たというわけだ。ピュージュの報告によると生き返しはふたりということだったが、どうやら仲間が増えたようだな。よい収穫だった。私はメギストリスに戻る。私を止めたくばメギストリスへ来い、アディール。仕事が終わるまでは待ってやる。」

 そしてベルンハルトは懐から取り出した石を高く掲げ、飛び立って空に消えた。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】


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