カインの冒険日記 -96ページ目

カインの冒険日記

ページをめくれば、そこには物語がある。

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 青い空、白い雲、澄んだ海、美しい砂浜。
 ナルビアの町は絶海の孤島であると、町の入り口にいた女性が教えてくれた。遥か昔に、グランゼドーラという王国から海を越えて来た人々が作った町だとも。
 リリーネがエテーネの村のことを聞くと、その名前には覚えがある、と女性は言う。
「誰だったかしらね。エテーネのことを知っている人がいたと思うんだけど・・・ああ、そうそう!リリオルちゃんが知っているって言ってたわ!」
「リリオルちゃん?」リリーネは首をかしげた。
「ああ。あなたから見たら年上だろうから、リリオルちゃん、ってあなたが言うのは変な感じがするけど、リリオルちゃんはそこの細い道の奥の家に住んでいる女の子よ。」
 リリーネは、また一礼してから、リリオルの家があるという細い道の奥へと進む。そして、その家の前に立ち、扉を2度叩く。返事がないので、もう2度叩いた。
「はい。」と、中から声が聞こえた。女性の声。
 リリオルの声だろうか、とリリーネは思った。
「お父さん?空いてるわよ。」と、声は言った。
「あの。ごめんください。」と、リリーネが中に入ると「あら、お客さんだったのね。ごめんなさい。」と、部屋の隅のベッドの中から声が聞こえる。顔が少しだけこちらを向いている。
 リリーネがベッドに寄ると「近付かないで!」と女性は強く叫んだ。
「あ、ごめんなさい。私、少し熱があって。近付くとうつっちゃうかもしれないから・・・」今度は弱々しく言った。
「あの・・・リリオルさん?」
 リリーネの問いには、もう返事がない。眠ってしまったのかもしれない。ただ息づかいが荒いことだけがわかる。
 そんなときに、部屋の扉が勢いよく開いた。
「帰ったぞ、リリオル。」
 そう言って部屋に入って来たのは、さっきの中年の男、イッショウ。「ん?なんだ?お前はさっき外で会った奴だな。」
「あの、私リリオルさんならエテーネのことを知ってるんじゃないか、って聞いてきて。」と、リリーネ。
「リリオルが?」
 イッショウは、ベッドで寝息を立てるリリオルのほうに目をやる。「しかし、リリオルは、病に伏せっていて・・・、いや、そんな甘いもんじゃねぇ、難病で死にかかってるんだ。あんまり難しい話をリリオルにはさせねぇでくれ。」
 最初に見たときと全く違う、優しくも心配そうな目をイッショウはしていた。リリーネには強く当たっていたイッショウも、どうやらリリオルには優しく接したいと思っているように見受けられた。
「そうなんだ・・・」
 リリーネは、少しうつむきながら言い、ふたりから目を背けるように別の部屋の隅を向いた。と、そこにある大きな釜がリリーネの目に入る。「これは?」
「ほうほう。なるほど。その釜に興味を持ったのか。」イッショウは感心したような表情。「それは我が家に伝わる錬金釜。俺の命よりも大切な魔法の釜だ。そして、俺こそが選ばれし錬金術師ってわけだ。錬金術ってぇのはなぁ」
「知ってるよ。私も錬金が得意なんだ。」とリリーネがイッショウの言葉を遮るように言った。4勝628敗という輝かしい戦歴のことは、もう頭にはない。
「なんだと!?お前にも錬金ができるってぇのか!?」
 驚きの表情を見せたのは一瞬で、イッショウの顔は、すぐに、いぶかしんでいるものに変わる。「どうも信じられんなぁ。お前みたいなヒヨッコが錬金術を使えるはずがねぇ。」
「そんなことないもん!」と、リリーネが言い張るので「だったら証拠に、その錬金釜で上薬草を錬金してみやがれ!」とイッショウが釜を指差した。
「上薬草・・・?」とリリーネ。
「なんだ!?上薬草も知らねぇのか。お前いったい何が錬金できるんだ。」
「あ・・・」リリーネは言葉に詰まった。「えっと、ハツラツ豆とか、ご機嫌な帽子とか・・・。」
「なんだ、そりゃ?そんなワケのわかんねぇもんしか錬金できねぇのに、錬金術師を名乗るんじゃねぇ!」
 腕組みをしながらフンっと目をつぶるイッショウ。「だが、そこは大目に見てやろう。上薬草の錬金レシピはここにある。これを読めば作り方はわかるが、誰にでもできるってわけじゃねぇ。お前が本当に錬金術が使えるのかどうか、それを作ってみせろ。材料なら、これだ。」そう言ってイッショウは薬草を2枚取り出した。
「あ・・・うん。」と薬草を受け取ったリリーネは、その2枚を錬金釜に入れて「えいっ!」とおまじないをかける。と、ポンっと釜が開いた。中を覗くと、2枚の薬草が1枚になっている。最初に入れた薬草よりも、少し大きくなっているようにも見える。
「おお!?」
 イッショウは驚いて釜の中に手を突っ込んで、その薬草を取り出す。ジロジロと裏表を確認して「こ、これは確かに上薬草だ・・・。」と言ってリリーネに目を向けた。今までの軽視した目とは違って、真面目な表情をしている。
「まさか・・・まさかな。いや、これでハッキリした。チカラを失ってたのは俺のほうだった。」
 イッショウは視線を下げて悔しそうに話す。「俺もな、少し前まではこの釜を使ってなんでも錬金できていた。それが、あの日以来できなくなってしまってな・・・。最初は、この釜が壊れたのかと思った。いや、そう思いたかったんだ。俺のチカラがなくなったんじゃねぇ、釜が壊れたせいで錬金ができなくなったんだ、ってな。」床に向いていた視線をまたリリーネに戻した。「お前が錬金できたんだ。もう釜のせいになんてできねぇ。失われたのは、俺のチカラのほうだ。」
 時折、口を堅く結ぶイッショウの姿は、その悔しさを物語っていた。
「おい、ウマのホネ。」
 イッショウの言葉が、最初リリーネにはわからなかった。
「お前のことだよ、ウマのホネ。」
 2度言われて、リリーネは、それが自分のことだと気付く。
「私?」人差し指を自分の顔に向けるリリーネ。
「他に誰がいるってぇんだ。お前に頼みがある。」
 とても頼みごとをしているとは思えないようなふてぶてしい態度で、イッショウは言った。「そのリリオルはな、俺の娘でな。もうずっとメラゾ熱で苦しんでるんだ。」
「メラゾ熱?」リリーネは首をかしげる。
「メラゾ熱ってぇのは、大昔の恐ろしい病気でな。今では、もうその病気自体なくなってるんだ。だから、治療薬ってのもねぇ。」
「それじゃ、リリオルさんは・・・?」
「俺が素材集めを手伝わせたばっかりに、リリオルをこんな目に。」イッショウは床を強く蹴った。「いや、すまねぇ。俺が悪いんだ。俺のせいだってのはわかってるんだ。」その態度は、はじめのふてぶてしさからはだいぶ変わって、後悔を隠せないものになっている。「それでな。俺もなにもしなかったわけじゃねぇ。探しに探して、このメラゾ熱の薬のレシピを見つけたんだ。」机の上の、そのレシピには、目覚めの薬、レッドベリーと書かれている。「素材はここにある。だが、何度やっても、俺には錬金することができなかった。だから・・・だから、錬金ができるお前に、この薬を作ってほしいんだ。」イッショウはリリーネに頭を下げて「頼む。」と言った。
 最初の態度からは、思いもつかないような言動に、リリーネも困惑気味に「うん。やってみる。」と素材を釜に入れた。
 リリーネのおまじないによって、その薬は簡単に完成した。
「や、やってくれたか!!」イッショウの喜びようといえば、それはとてもナスビナーラを狩っていたのと同一人物とは思えないほど。よほどリリオルのことを大切に想っているのかが、リリーネにも伝わってくるようだった。
「リリオル。もう大丈夫だ。この薬を飲めば、明日には熱も下がって治ってるはずだ。」自分の手で薬を飲めないリリオルに、イッショウが代わりに口に注ぐ。「これも飲んどけ。」と水も注ぎ込んだ。
 ゴクリとリリオルの喉が鳴り、リリオルはまたすーすーと寝息を立てた。
「ありがてぇ。恩に着るぜ。もうウマのホネなんて呼べねぇな。」イッショウは少し考えて「よし!」と拳と掌をポンと合わせた。「お前のことは今から宿なしと呼ぶ。どうせ泊まるところがねぇんだろ。今夜はうちに泊まって行きやがれ。」




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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