21章 ふたつ目の太陽
「お待ちしておりました。」
アディールたちを迎え入れた車掌は丁寧に頭を下げた。
「私は時の車掌ゼーベス。エテーネの民のあなたがたを過去へとお連れ致します。」
アディールたちが乗り込んだ列車はすでに、いつも乗っている大陸間移動鉄道の列車とは違っていた。見た目は同じでも、乗っている乗客はアディールたちだけ。その行く先は、もはや今まで行ったアストルティアのどの駅でもない。500年前のグレン。
「かしこまりました。」
車掌はまた丁寧に頭を下げ、指をパチンと鳴らす。すると、列車が浮かび上がったような感じがした。思いもよらぬ重力の変化に、アディールたちはよろけてしまう。
「浮かんでおかないと、後から来る列車とぶつかってしまうといけませんので。」
ゼーベスはそう言って、また指をパチンと鳴らした。途端、今度は猛スピードで前進するのを感じた。アディールたちは、さっきとは垂直方向、横向きの慣性の力に押されて車両の後方へとよろめく。後から来る列車とぶつかるどころか、先に行く列車に追いついて衝突してしまうのではないかと思うほどの速度。
列車の窓からは猛スピードで過ぎ去るグレンの国のごつごつした岩々。しかし、それを見ることができたのも長い時間ではなかった。景色がフッと光ったかと思うと、もう列車は駅へと到着している。今のが、まさに時空を越えた瞬間なのだと、アディールたちは理解した。
「お待たせ致しました。」ゼーベスは手で出口を示しながら、また丁寧に頭を下げる。「500年前のグレンへと到着致しました。」下げた頭は、アディールたちが列車を降りて、駅を出るまで、そのままだった。
アディールたちが駅から出ると、空には灼熱の巨大な球体が浮かんでいる。
「おい!お前!」
アディールたちのことを呼ぶ声。この時代のこの国に住む人間。中年の男だった。
「なにをボサッとしてるんだ!早くこっちへ非難しろ!」
中年の男は、アディールの手を引いて、教会の中へと走って連れ込んだ。それに続いて、キサラギとドドルとパルポスも教会に走り込む。教会の扉がバタンと閉められると、その少し後に、ゴォーと扉の向こうから盛る炎のような音が聞こえた。
しばらくの後「どうです?いつわりの太陽は去りましたか?」と教会の神父が問うと「どうやら行ったみたいです。」とさっきの中年男が言って、扉をゆっくりと開けた。扉の外からは、ぶすぶすと何かがやけるようなにおいがしてくる。
「今のが・・・ふたつ目の太陽、レイダメテス!」つぶやき、とは言えないほどの大きなアディールの声。
「お前たち、どこから来たんだ?」と中年男。「レイダメテスのことを知りながら、ボサッとつっ立てたのはどういうことだ。」
未来から来た、とは言うわけにもいかない。ウェディへと生き返しを受けたときに、もとは人間だったのだと言えなかった。同じように、今また、未来から来たとも言えない。言っても理解してもらえるとも思えない。
アディールが何も言わないでいると「まあいい。」と中年男が口を開いた。別にアディールたちがどこから来たのかを知りたがっているわけではなさそうである。「アレが現れて1年。このグレンが最後の砦だ。気をつけることだ。ほらよ。」そう言って教会の扉を大きく開いた。促されるままに、アディールは軽く一礼して教会を出た。その灼熱の太陽は、今は見えなくなっている。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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