ゲルト海峡はグレンからランドン山脈へと通過点。グレンから北東にあるエルフたちの集落から、ずっと南下した場所にある。海峡は500年前も、現代と変わらぬ姿で存在していた。その海峡の岩をくり抜いた穴の中に、プクリポたちは身を留めていた。そのひとりに、またエルジュが突っかかっている。そのプクリポの姿をアディールたちは知っていた。端整な顔つきの白紫のロングヘアー。メギストリスの英雄。
「フォステイル!!」
アディールたちは4人同時に叫んでいた。
「きみたちは?ぼくのことを知っているのかい?」500年前のフォステイルがアディールたちのことを知るはずもない。
アディールは、ここでもまたベルンハルトの言葉を思い出していた。ベルンハルトはフォステイルのことを知っていた。フォステイルは、それを「知らない」と言ったが、メギストリスでのフォステイルは、ラグアス王子の仮の姿であった。真の英雄フォステイルは、この時代で、ベルンハルトとは四術師としての仲間であったのだ。
「でも、はじめて会ったのに不思議だ。きみとはどこかで会ったような気がする。いや、違う。またどこかで会う気がする。ぼくには予知のチカラがあるんだ。」知るはずもない500年後のことをフォステイルは予言していた。その予言が的中することも、もちろんアディールは知っている。フォステイルが、メギストリスという国を作り、その国の王となることも。
「そんな話はどうでもいい。」と遮るのはエルジュ。「プクリポの術師フォステイルよ。継承の儀を行ってもらおう。」
「・・・きみに試練を与えたいと思う。」
そういうフォステイルに「また試練か。それで、今度は何だ?」とエルジュ。
「氷鳥の羽、というものを探している。ランドンクイナという魔物が持つらしいのだけど。」
「それを持ってくれば儀を行ってもらえるんだな?」エルジュはまた走り出そうとした。
「待ってくれ、エルジュ!」アディールがエルジュを止める。「ひとりじゃ危ない。」
「誰が助けてくれなんて言った?ぼくは誰のチカラも借りない。」
そしてエルジュは、フンっと背を向けて、アディールに構わず走り去った。
「フォステイル。エルジュは子供だ。魔物から羽を取って持ち帰るなんて無茶だ。」と、アディールはフォステイルに言う。
「・・・そうかもしれないとも思う。でも、氷鳥の羽は、ぼくの故郷パルカラス王国の人々を救うためのもの。単なる試験というわけじゃないんだ。」端整なフォステイルが暗い面持ちになっている。
「そう・・・だったのか。よし、わかった。僕もそれを探して来るよ。」とアディール。
「えっ?でも・・・。」フォステイルは不思議そうな顔をする。
「故郷の人たちを助けたいんだろ?」
「そう・・・だけど、何故きみがそれを手伝ってくれるんだい?」エルフの術師ヤクルと同じ質問をフォステイルはした。
「僕たちはエルジュを助けに来たんだ。それに」それにフォステイルを放っておくことなんてできない。
アディールは海峡を出てランドンフットへと足を運ぶ。ダチョウのような魔物、ランドンクイナはそこにいた。アディールたちにとって、氷鳥の羽を手に入れることは容易なことだった。しかし、エルジュには荷が重い、とも思う。羽を持ったアディールは、エルジュの姿も探したが、結局見つけることができず、フォステイルの待つ岩屋へと戻った。
「ありがとう!」とフォステイルは喜んだ。「でもエルジュは?」心配するフォステイルの岩屋に、ちょうどエルジュも戻ってきた。高貴そうな服はところどころ破れ、顔は傷だらけ。「どうだった?」という表情のフォステイルに、エルジュはプイと目を背ける。「ダメだったのか。」とフォステイル。
「ああ、そうだよ!」半ば自暴自棄とも思えるような言葉をエルジュは発した。しかし、その言葉の中には、悔しさがにじみ出ている。本気だった、ということだけはアディールに伝わってきた。
「・・・まぁいいだろう。アディールたちのおかげで、ぼくの故郷は助かるかもしれない。それに免じて継承の儀を行おうと思う。」
フォステイルの儀はすぐに終わった。
「これできみには破邪舟を作り出す魔力が備わったはずだ。」とフォステイルは言った。
エルジュは自分の両手を見つめて言う。「これで・・・これで破邪舟を作れるのか・・・。よし!試してみる!」
エルジュがサッと地面に陣を描き、両手を突き出してそこにチカラを注ぎ込む。すると、ボンっと陣から小さな舟が飛び出した。ウェナ諸島の渡し守が使うよりもずっと小さな舟。アディールたちが乗りきれないほどの小さな舟。
「ううう・・・」手にチカラを込めながら「もうダメだ!」とエルジュが脱力した。と同時に、舟もまた消えてなくなる。「今の僕では、これが限界だ。」
「はは。はじめてにしては上出来だ。さすがベルンハルトのご子息だけはある。」フォステイルは手を叩いて、エルジュを称賛した。「疲れたろう。今日はここに泊まっていくといい。」
その夜。
岩の地面に座り、エルジュは空を見上げる。
「どうしたんだい?」とアディールがエルジュの隣りに座った。
「つくづくおかしな奴だな。頼んでもいないのにどこまでもついてきて。」アディールが何も言わないでいると、エルジュが続けた。「父さんはグランゼドーラの術師だったんだ。弟子も大勢して、信頼も厚かった。僕はその父さんの血を引いてるんだ。できないことなんて何もないと思ってた。今まで他人の苦しみなんて考えたこともないし、レイダメテスに乗り込もうとする父さんの気持ちも理解できなかった。だけど・・・少しわかった気がする・・・。」
シーンとした沈黙の間が少しあり「じゃあ僕は寝る。」とエルジュが立ち上がった時だった。
灼熱の太陽が姿を現した。
偽りの太陽レイダメテスは、ランドン山脈をかすめてグレンの方向へと進んでいる。
「あれは!」とエルジュが叫ぶ。「ダメだ、光の防壁なんかじゃ防ぎきれない!」そう言ってフォステイルに詰め寄る。「もう待っていられない!もうひとりの術師はどこにいるんだ!?」
「ランドンフットの北西の集落にいるガミルゴというオーガ。彼が最後の術師だ。」とフォステイルが答える。
「わかった!ありがとう!」エルジュはフォステイルに礼を言った。今までエルジュが他人に礼を言ったところを見たことはない。「行こう、アディール。」エルジュは少し走ってから振り向き「誘わなくっても、どうせついてくるんだろ。」と言ってまた走り出した。
「行こう、みんな。」とエルジュを追うアディール。
「エルジュ、変わりましたわね。」とキサラギがアディールに続いた。
「おいら、あいつのこと少し見直してもいいかなーって思ったぞ。」「ワタクシも、少し驚きました。」ドドルとパルポスも、キサラギと並んでアディールの後を走った。
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【目次】
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】
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