カインの冒険日記 -61ページ目

カインの冒険日記

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 第二戦は、はじめの戦いのように冥王は優勢を保てなくなっていた。アディールがすでに冥王の鎌の軌道を半ば見切ったということもあるが、前衛にアディールとキサラギ、後衛にパルポスとドドルという陣が功を奏していた。僧侶のキサラギが前衛に出てきたことをこれ幸いと冥王は大鎌を振りかざすが、その鎌をキサラギが三つ又の槍で防ぐ。はじめの棍とは強度が違い、冥界の鎌をもってしても切断することができなかった。しかも、攻撃の専門であるはずのパルポスが、逆に祝福の杖をもってしてアディールやキサラギの傷を回復している。前衛にいるにもかかわらず回復をやってのけるアディールに、後衛から執拗にボミオスをかけ続けるドドル。冥王にとっても身のこなしは生命線。ボミオスで素早さを奪われるのに無警戒というわけにもいかない。それではパルポスやドドルを攻撃しようとすると、今度は前衛のアディールやキサラギに押し返されて、後衛まで辿り着くことができない。ベリアルとは違い、地に足を着けずにふわりと浮いていることが逆に災いとなり、アディールとキサラギのふたりがかりには簡単に押し負けてしまう。ならば一足飛びでアディールたちの頭上を越えて、と行きたいところだが、真下からキサラギに槍で突き上げられてしまっては、防御のしようもない。一度見せた怪しい瞳にもすでに対策が為されていて、隣り合うアディールとキサラギは互いにツッコミとザメハでお互いのその眠りを瞬時に回復することができている。先の戦いとまったく違う戦術を施す4人に、一撃も受けてないにもかかわらず、冥王は翻弄されつつあった。
「ふ。ふふふ。ふはは!」苦し紛れか、冥王は笑った。「いやはや、ガラトアが警戒していた理由がようやくわかったぞ。その応用力こそ、貴様たちの最大の強みというわけか。なかなかにおもしろい戦い方をする。個々の能力だけを見て、少々侮っていたようだ。」冥王は身を翻してサッと下がった。
「観念したのか、冥王!?」
 アディールの言葉に冥王は「フッ。笑止な。」と答えた。
「興醒めもよいところだが、致しかたあるまい。」冥王は大鎌をブンと振るって空間を切り裂いた。「冥界の魔瘴よ。大いなる闇の根源よ。」斬り裂かれた空間の歪からは、黒紫の霧が流れ出して来る。「我にチカラを!」冥王がバッと両手両足を広げると、流れ出た魔瘴たちが巨大な手のような形に集まったかと思うと、急速に冥王の体に接近し、そして冥王ネルゲルを包みこんだ。いや、握り潰した。
「クックック・・・」握り潰された魔瘴の巨手の中から冥王の笑い声が聞こえた。「この闇の根源のチカラを取り入れ、我は真のチカラを発揮する。」そう言ったかと思うと、自分の体を握り込んだ巨大な闇の手を逆に吸い込み、冥王の体が巨大化してゆく。
「こ・・・これは・・・」
 アディールたちが驚くのも無理はない。今ネルゲルは、冥王とは似ても似付かぬ巨大な猿の姿へと変貌を遂げていた。ベリアルなどとは比べ物にならないほどの巨大な猿。アディールたちは、その巨大な猿のひざ元ほどにしかない。
「ぐはぁぁぁ。」緑色の体を持ったその巨猿からは翼が伸び、それがバサリと開く。銀色の髪と額のツノが、かろうじて冥王ネルゲルの面影を残しているだけだった。「我は冥界の王。そして、この真のチカラを開放した姿は冥獣王。冥獣王ネルゲルぞ!!」その咆哮はアディールたちの鼓膜を破らんばかり。「見よ、この強靭な肉体を!」冷徹な笑みなどもはやない、冥界の猛獣。
 巨猿のような猛獣は雄叫びを上げながら、アディールを潰そうと、踏み上げた足を突き下ろす。それを必死にかわしながら短剣で斬りつけるも、すねやひざをいくら斬っても冥獣王がひるむ様子はない。
「くっ!素早かった魔族の姿のときの姿とは違って、こんな攻撃避ける必要もないということか!」
 アディールが戸惑う間にも、今度は冥獣王の拳が天のような高さから振り下ろされる。ひと振りでキサラギとパルポスを同時に襲えるほどに、その拳は大きい。ズゴンと床をえぐる拳を紙一重で避けるキサラギとパルポス。
「こんなの・・・スクルトを使ったって防ぎきれませんわ!」飛び退きながら、キサラギが悲鳴にも似た声を上げた。
「おいらのムチも、アイツの体まで届かないぞ!」ドドルの振り上げるムチも、せいぜい冥獣王のひざか太もも程度の高さ。体に攻撃を加えるには至らない。
 しかし、接近戦しかできない者ばかりではない。
「ここはワタクシにお任せを。」とパルポスが進み出た。「呪文なら、あそこまで届くはずです。それっ!」パルポスの杖から飛び出したメラミは冥獣王の顔へと向かう。
 だが、一縷の望みをかけたその火球でさえも、冥獣王に傷をつけることはできなかった。
 冥獣王が、その巨大な右手を顔の前まで持っていってメラミを受け止め、握りつぶしたのだ。「ぐぁはは!無駄な事!この冥獣王の右手にはいかなる呪文も通用しない。」
「ではこれではどうですかしら!」とキサラギは三つ又の槍を冥獣王の額に向けて投げ上げた。
 しかし、今度はその槍を左手で受け止めて握り潰した。「左手にはいかなる打撃も通用しない。」冥界の鎌にすら耐えた三つ又の槍が、ぐにゃりと曲げられて、金属の塊となり、冥獣王の手からポイと床へと投げ捨てられた。
「そ・・・そんなことが・・・呪文も、打撃も・・・」パルポスがたじろぐ。
「完全無欠・・・ですの?」槍を失ったキサラギには、もう攻撃する術が残されていない。
 ぐはは、と獣のように笑いながら掌を振り下ろし、またアディールを襲う冥獣王。そしてそれを必死に回避しているアディール。回避しながらも、考えを巡らせているが、突破口を見出せないでいる。
「あ、アディール。あいつクモノ踏んでるんだけど・・・おいらたち、どうすれば・・・」
 確かにクモノの陣を踏んではいるが、その足元だけを蜘蛛の糸に絡められても、巨猿は一向に構う様子はない。冥獣王の手は、もはやこの部屋のどこにいても届く。歩く必要がそもそもないのだ。
「幸い、巨大化してスピードは落ちているけど・・・」アディールはそう言うも、しかしこちら側の、その素早さの利を活かすことができない。身のこなしに差があるとはいえ、いずれその一撃を受けるかもしれないのだ。お互いに傷を負わせてはいないが、とてもこう着しているとは言えない一方的な戦いになっていた。

 その一方的な戦いに救いの手が伸べられたのは、ややあってのことだった。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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