カインの冒険日記 -137ページ目

カインの冒険日記

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「キサラギ、王様のほうは無事かい?」
 短剣を納めながらアディールが聞く。しかし、キサラギは首を横に振った。
「回復が間に合わなかったのか?」
 キサラギはその問いにも首を横に振った。
「そうではないのですわ。王様のキズは回復しましたわ。でも、魔瘴に侵された体はもとには戻りませんの。残念ながら、王様はもう・・・」
「いえ、王は助かります。あとはぼくがこのノートに書けばいいんです。」ラグアスだった。
 その声が聞こえたのか「くっくっく。」とイッドが伏したまま笑った。「まさか貴様らのような虫けらたちに・・・。だが、それも手遅れよ。王の命は時期に尽きる。王は死に、儀式は失敗する。そしてプクランドは滅びるのだ!」
 ラグアスはノートを開いてペンを取った。
「そのノートに何と願う?国を救い、王を救ってくれと願うか?貴様はすでにフォステイルの願いを叶えている。あとふたつの願いを書けば貴様の母アルウェと同じように、破滅と死が待つのみよ!それでも書けるか、王子よ!ぐあーっはっは!・・・ぐはっ・・・」イッドは魔瘴と化し、その霧は散り散りになって消えた。
「大丈夫だからね、お父さん。」ラグアスのペンがノートに触れる。
 と。
「待て、ラグアス。」と、意識を取り戻したプーポッパン王が言った。
「お父さん!」ラグアスのペンが止まった。
「しばらく見んうちに大きくなったな。・・・イッドのたくらみにまんまとしてやられた。旅人よ、おまえは真実を語っておったのだな。」
 王はラグアスとアディールに交互に顔を向ける。
「わしがおまえを信じていれば、フォステイルの言葉を信じていれば、このようなことには・・・」ゲホゲホと咳き込みながらも、王は続けた。「しかし、それでも、わしは予言を信じたくはないのだ。いや、当たるのだとしても、未来を知りたいとは思わんのだ。」
「お父さん、どうして・・・」
 ラグアスは王の手を握った。
 王の手には、細い鎖の輪がかかっている。鎖の輪は、小さな鈴に繋がっていた。
 ラグアスが王を揺すると、リン、と鈴が鳴った。「これは・・・?」
「これは引き寄せの鈴。アルウェの形見だ。」
 王はゆっくりと鈴を拾って、握った。「アルウェの予言はよく当たった。あいつは、わしの身に危険が迫ると、いつも教えてくれた。しかし、わしはそれを聞こうとはしなかった。ある時から、アルウェが予言する災いは全くわしには降りかからなくなった。わしは、ずっとアルウェの予言がはずれているのかと思っていた。しかし、そうではなかった。アルウェは引き寄せの鈴を持って、わしに降りかかる災いをすべて引き寄せていたのだ。そのときになってわしは知ったのだ。アルウェの予言が当たれば当たるほど、アルウェの身に不幸が訪れるのだと。予言さえしなければ、わしが受けるべき災いをアルウェは予言して自分のほうに引き寄せていたのだ。わしはアルウェからこの鈴を取り上げた。そして予言を禁じた。わしは、アルウェには不幸になってほしくなかったのだ。無論、おまえもだ、ラグアス。このような忌まわしき鈴をわしは不思議と捨てられなかった。もしかしたら、この鈴のせいで魔瘴に侵されたのかもしれん。イッドがわしに目をつけたのかもしれん。しかし、最後に役に立ってよかった。おまえが無事でよかった・・・」
「それでお父さんは予言を嫌っていたのですね!それでお父さんはぼくを守ってくれたのですね!でも大丈夫です。ノートがあるんです。お父さんは助かります。」
「ダメだ、ラグアス。すべてはわしの愚かさが招いたこと。尽きた命を戻すなど、天の理に反するようなことをしてはならん。それよりもプクランドを守ってくれ。頼む・・・ラグ・・・」
 動かなくなったプーポッパン王の手を握ったまま、ラグアスが言う。
「お父さん。このプクランド、ぼくが守ります。」
 そして、ノートにペンを走らせた。
「ふたつ目の願い。魔瘴がプクランドから消え去るように。」
 そう書き込まれたノートが光り、その光は部屋を包み、塔を包んだ。
 ノートのチカラで、正しい儀式を執り行ったように、塔が聖なる光を発し、プクランド中に広がる。
「これで魔瘴の脅威は去りました。プクランドは守られたんです。これでいいんですね、お父さん。」
 ラグアスはアディールに向き直った。「ありがとうアディールさん。ノートの願いはあとひとつ叶えられる。国は救われたんだ。ぼくの役目はもう終わりです。ぼくが生きているよりもお父さんが生きているほうが国のためになる。」
 ラグアスは何のためらいもなく、ノートに最後の願いを書き込んだ。
「お父さんが生き返りますように。」そして、誰にともなく言った。「さようなら。」
 しかし、王は生き返らなかった。ラグアスの身にもなにも起こらなかった。
「え?どうして?」
 ノートがキラキラと光っている。そして、ノートは形を変え、アルウェ王妃の姿になった。王妃は、記憶の中でも幻でもなく、そこに実在しているようにさえ見えた。
「ノートさんお願い。」アルウェがノートにペンを這わせている。「いつかラグアスが3つ目の願いを書こうとしたとき、ノートが消えてなくなりますように。これが私の最後のお願い。」書き終えたペンを置いて、アルウェは言った。「さよなら。」
 そして、アルウェはまたノートの形へと戻り、ノートが光りながら消えていく。その光はパラパラとプーポッパン王に降り注ぎ、ノートとともに、王の姿も消えてなくなった。
「お母さん。あなたが死んだのはぼくのためだったですね。ぼくを助けるために3つ目の願いを。お母さんは予知していたのですね。未来のぼくが3つ目の願いを書き込むことが。お父さん・・・お母さん・・・あなたがたは・・・こんなにも、ぼくに生きろと!」
 ラグアスは目を拭って振り返った。
「ふたりは命をかけてぼくとプクランドを守ってくれた。ぼくは、これから国のために尽力します。これからはノートではなくぼくの力で国を守りたい。アディールさん、あなたにお礼がしたい。あとでお城に来てください。」
 ラグアスは、そう言って儀式の間を後にした。

「しかしアディールさん。呪文の形はイメージの形、ですか。同じ呪文でも形が変われば使い方も変わるんですねぇ。ワタクシはただ強力な呪文を使おうとするばかりで、あまり考えたこともありませんでした。いつの間に覚えたんですか?」
「前にジュレー島の渡し守に教えてもらったんだ。ずっと練習してて、やっとできるようになったんだよ、パルポス。」






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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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