カインの冒険日記 -106ページ目

カインの冒険日記

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 禁断の地、永遠の地下迷宮はヴェリナードより北西。その地下に厳重に閉ざされた封印の扉があった。
「ここの鍵もキャスランの占いで見つけたんだ。」
 オーディス王子は城にいるときとは違い、装備を整えていた。紫色に輝く魔法の鎧。そして、その上から赤いマントを羽織っている。
 王子は鍵を回して扉を開く。そして「これを見てほしい。」とアディールを中へと招いた。
 そこには水柱に捕えられた長い黒髪のウェディの姿があった。泉から突き上がった3本の水柱、そのひとつに閉じ込められた黒髪の女性は、ディオーレ女王の同じようなティアラを頭に乗せている。王家の者だということが窺い知れた。
「この女性は死んでいるわけじゃない。」オーディス王子がそう言うと、アディールが「じゃあ早く助けないと!」と言って泉に飛び込もうとする。
「待ってくれ!」とオーディス王子。「この水は永遠の水。中に入った者の時の流れを止めてしまうチカラがあるとわかった。つまり、彼女は生きたままこの水の柱の中に囚われているんだ。泉に入るとキミも時を止められてしまうかもしれない。」
「時を止める?」
 アディールの脳裏に時渡りのチカラのことがよぎる。しかし、止まった時の中からこの女性を救い出せるチカラがあるわけではない。そもそも、今のウェディの姿では、自由に時渡りの術を使うこともできない。「じゃあ、どうすれば?」
「キミが来れば何かが起こるかと思ったんだけどな。」
 オーディス王子はもう一度囚われの女性に目を向けた。「この女性の存在を隠すためにここは禁断の地とされたのだろう。キャスランの占いによれば、この女性は高貴な血を引く者であるらしい。おそらくヴェリナードの、つまり僕の血族ということになる。占いを聞いて城の図書室を調べたら古い書物が見つかった。ひとりの女王が行方知れずになったと書いてあった。とても偶然とは思えない。僕は彼女を助けなければならない。だけど、母上は何も教えてはくれない。」王子はアディールに目を移した。「占いが示したキミが来れば、何かが起こるかと思ったんだ。一体どうすればいいんだ。」

 一瞬の沈黙があった。
「オーディス王子。」沈黙を破ったのはキャスラン。「私の占いによると」
「キャスラン!次の占いが出たのか!?」
「はい。たった今。」そして「王家の者の唄う刹那の歌が、眠ったときを目覚めさせるだろう。」と言った。
「刹那の歌?恵みの歌のようなものか?しかし、その歌さえわかれば、水柱の中のこの女性を助けられるということなんだな?よし、キャスラン、アディール君!ヴェリナードへ戻ろう!母上が何か知っているかもしれない。」


 城へと戻ったオーディス王子は、女王の間に駆け込むなり「どうしたのだ、騒々しい。」というディオーレ女王の言葉を無視するように「母上!聞きたいことがあります!」と切り出した。「刹那の歌のことを教えてください!」
 女王は一瞬目を見開いて驚きの表情を見せたが、すぐにもとの冷静な表情を取り戻す。
「なぜお前が刹那の歌のことを知っている?」
「やはり。」
 王子は座したままの女王を見下ろすように「母上は禁断の地の女性が刹那の歌で救えることをご存知なのですね?」と言った。
「知っていればどうしたというのだ?お前には関係のないことだ。」玉座の女王はオーディス王子と目を合わせようとはしない。
「何故です!?なぜ助けようとしないのですか!?彼女は王家の者!それを見殺しにするのですか!?母上が刹那の歌を唄っていただければ助けられるというのに!王家を救おうとは思わないのですか!?」
 そう王子がまくし立てると、ディオーレ女王は急に立ち上がり、そして平手で王子の頬を打った。
「そのようなことを軽々しく言うな!」
 女王の口調は激しいものだった。「刹那の歌は王家に伝わる歌。1000年間唄うことを禁じられた歌。その禁を破るわけにはゆかぬ。そもそも・・・いや、言ってもせんなきこと。もうよい。下がれオーディス。」
「母上は・・・」
「確かにあの娘は王家の血を引く者。だが解き放つことはまかりならぬ。下がれと言っている。」
 そして女王はまた玉座へと腰を下ろした。
 オーディスは女王をキッと睨み、ぷいと顔を逸らせて、そして部屋を出た。そして、廊下で待っていたキャスランとアディールたちに言う。
「聞いてのとおりだ。母上は刹那の歌のことを教えてはくれない。もう母上には頼らない。僕が刹那の歌を唄えばいいことだ。」
「でも、王子は刹那の歌を唄えるんですか?」と、アディールが聞く。
「いや、今は唄うことができない。しかし、どこかに歌を継承できる場所があるはずなんだ。代々の王家の者は、みなその歌を受け継いでいるはずだ。王家の血を引く僕がその儀式を受けることができれば、きっと刹那の歌を歌うことができる。」
「もしかすると」と、キャスランが切り出す。「女王様以外にも歌のことを知っている人がいるかもしれません。」
「そうか。確かに、母上以外でも知っている人がいるかもしれない。もしかしたら父上が知っているかもしれないが、しかし母上が禁じたことを父上が教えてくれるとも思えない。となると、城の調査員。彼らなら、その継承の儀式についても調査しているのかもしれない。」

 オーディスは早足で調査団の詰所へと向かい、それにキャスランが小走りで続く。アディールたちもふたりを追って詰所へと進んだ。
 詰所の扉を開けると、本を数冊広げて「ふむふむ、なるほど、しかし」とぶつぶつとつぶやいている調査員がひとり。アディールたちが先ほど一言だけ声を交わした調査員だった。
「エリーゴ調査員。」と、オーディスが呼ぶ。
「はい。ああ、これは王子様。このようなところに、どうなされました?」と、調査員。
「聞きたいことがあるんだ。」
「なんでございましょう?」
「刹那の歌のことだ。」
 オーディスの言葉に、エリーゴ調査員の目が泳ぐ。
「さあ。私には何の事だかわかりかねます。」
「母上に口止めされているのだろう。しかし、知っていることがあれば教えてくれないか?」
「女王様はなんとおっしゃっているのです?」
「・・・母上は何も教えてはくれない。」
「でしたら、私から申し上げることはありません。私も存じ上げません。」
「頼む。誰にも言わない。いや、このことの責任は全部僕が取る。」そう言って王子は頭を下げた。
「王子様!私などにそのようなことをなさらないでください!」
 エリーゴ調査員が慌てたような口調で言うが、しかしオーディスはそれでも頭を上げない。「頼む。」と、もう一度言った。
「私は、よく仕事中に居眠りをしてしまうのです。」と、エリーゴ調査員が言う。
「調査員?」と、オーディスが顔を上げて不思議そうな声を出すと、調査員はこう続けた。
「今は誰もいないので、私は今から昼寝をしようと思うのです。もし誰かに見つかれば、叱責を受けてしまいます。しかし、王子様なら、きっとこのことを黙っていてくれるのだろうと思います。」
 調査員は開いていた数冊の書物をすべて閉じて、机の上に伏せた。そして「ぐうぐう。」と言う。「むにゃむにゃ、ブーナー熱帯雨林の南東に詩歌の遺跡。王位を継ぐと、そこで歌を継承なさる。ブーナー熱帯雨林は、ヴェリナードから東、ヴァース大山林をさらに東に。歌を継承するには、継承にふさわしい人物かどうか、詩歌の守り手の試練を受ける必要があります。どうぞ、しっかりとしたご準備をなさってから足をお運びください。ぐうぐう。」
「エリーゴ調査員・・・」
 オーディス王子は机に伏せる調査員に一礼してくるりと出口を向き「キャスラン、アディール君。エリーゴ調査員は仕事熱心な人だ。勤務中に居眠りをしたり寝言を言ったりする人ではない。いいね、このことは他言無用だ。」と言って城の出口へと走った。
「おいら、あの王子は好きだぞ。」とドドルが言い「なぜ女王と折りが合わないのかが不思議ですねぇ。」とパルポスが言う。「女王様には女王様の考えがあるのですわ、きっと。」キサラギが言うと「それに忘れちゃいけないのが悪魔神官だ。まだわからないことが多いけど、僕たちは王子について王子を守ろう。」とアディールも言い、4人は王子とキャスランを追った。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】




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