カインの冒険日記 -103ページ目

カインの冒険日記

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 迷宮の最奥部には永遠の牢獄と呼ばれる小部屋があった。
 一足先に小部屋に辿り着いていたキャスランが、目を覚ましたバサグランデの前で跪く。
「愛しのバサグランデ様。ご復活おめでとうございます。」
 紅色の獅子の姿に白いたてがみ。そして、キャスランの4倍とも5倍ともあろうその巨体を包み込むほどの両翼。
 暴君はグオオとひとつ咆哮してから憎々しげに言った。
「なんと長きに渡り、暗い水底に押し込められていたことか。」
 バサリと両翼を広げるとその巨体はさらに大きく見える。「この世界を支配しようと思っていたが、もはやそんなことはどうでもいい。我が怒りは誰にも止められん。滅ぼしてくれる。もう蘇ることができないほどなっ!」

「完全に封印が解けてしまったようですね。」
 いつの間にか、セーリアがそこに立っていた。
 その後ろにはオーディス王子。「いつの間にかいなくなっていたと思ったら、ここにいたのかキャスラン。」
 そして、アディールたち。
「ほーう、ほうほう。封印の巫女か、会いたかったぞ。こちらから滅ぼしに行くつもりが、のこのことまた我が前に現れるとはな。我は長き時をムダにした。報いを受けよ!!」巨獅子は激しく咆えると、口から魔瘴の炎を吐き出した。
「危ない!」とオーディスが封印の巫女セーリアを抱いて跳び避ける。「セーリア、キミは下がっていてくれ。」オーディスはレイピアの柄に手をかけた。
「いいえ、王子。このままでは勝ち目がありません。私の歌でバサグランデのチカラを!」

・・・変わらぬ思いがここにあるなら、永遠のときを過ごせるだろう・・・

 セーリアの歌声もまたディオーレ女王のように澄んでいたが、バサグランデはそれには動じない。それどころか、ひと咆えして両翼を激しく広げ、その風圧でセーリアの歌を遮る。
「鈍ったか、巫女よ。その程度の歌で我を押さえることはできん。これで、もはや我を遮るものは何もない!」バサグランデは牙をむき出して怒りとも笑いとも見える雄叫びを上げた。

 そのとき。

・・・鉄の意志がここにあるなら、決して動かぬ山となろう・・・

 また別の歌声が聞こえた。忘れもしない、何度も何度も聞いた、ディオーレ女王の澄みきった歌声。

・・・ああ時よたたずみたまえ、変わらぬように動かぬように・・・

 グオゥ、とバサグランデの表情がゆがむ。「誰だっ!」
 それには答えず、カツカツという足音だけが近寄って来る。

・・・永遠のときを過ごせるならば、他に何も望むものはない・・・

 ディオーレがセーリアに並んだ。
 そして、ふたりは同時に、同じ旋律を繰り返した。

・・・永遠のときを過ごせるならば、他に何も望むものはない・・・

「待たせたな。」女王ディオーレは短く言った。
「母上!これほど早く準備が整うとは・・・もしや、最初からこうなることを予見していたのですか!?」オーディスはただただ驚くばかり。
「話は後だ。わらわとセーリア殿はこのまま唄い続ける。今なら、暴君バサグランデを倒すことができるやもしれぬ。」
「わかりました。僕が・・・僕が必ずバサグランデを倒します!」オーディスがレイピアを抜きバイキルトを唱えた。
「王子!僕たちも戦います!」アディールは短剣を構えた。剣をも折る短剣。ソードブレイカー。
「すまない、アディール君。」
「いや、僕たちにも戦う理由があるんだ。王子たち王族たちだけの問題じゃないんだ。」
「グォォォ!しかし、チカラが抑えられたとしても、お前たちなどにやられたりはせぬ!」バサグランデはガルル!と激しく咆哮した。その雄叫びに、部屋全体がビリビリと震える。
 真正面からそれを受けたオーディスは、まるで正拳で突かれたのごとく後方に吹き飛ばされて転倒してしまう。膝がガクガクと震えて立ち上がれない。
「グフフ。いま噛み殺しに行く。お前はそれまで腰を抜かしているがよい。」バサグランデはオーディスに向けてのしのしと歩く。
「いけない!」とアディールはバサグランデに立ちはだかり、押し返そうとするが、それで巨獅子の前進を止めることはできない。逆に暴君の左の手で跳ねのけられた。かろうじて盾でツメの直撃から身を守ったものの、その衝撃を受け流すことはできず、ザザーと側方に滑り飛ばされる。
「くっ!動け!僕の足!」オーディスは自分の足を叩いて自分を鼓舞する。
 グフフ、と笑いながら詰め寄って来る暴君に、ドドルが「王子!危ないぞ!ボミエ!」と唱えた。見えない糸がまとわりつくかのごとく、巨獅子の動きが鈍る。
「なんだ!?体の動きが重い?」バサグランデの歩みが緩んだおかげで、獅子の一撃をオーディスはかろうじてかわすことができた。
「ありがとう。えっと、キミは・・・ドドル君!」バサグランデから距離をおいたオーディスが屈伸をしながら礼を言い「もう大丈夫だ!」と言って巨獅子の左側にサッと回り込んだ。
 アディールは右からバサグランデに斬り付け、オーディスは左から暴君を突く。
「ググゥ、ちょこまかと煩わしい。これでどうだ!!」バサグランデはまた咆哮し、上方から黒い稲妻が降り注ぐ。
 サッと身をかわすオーディスとは逆に、今度はアディールに稲妻が直撃した。
「うわあぁ!」アディールは立ったままビクビクと痙攣を起こす。体が動かない。
「闇の稲妻。体が痺れて動くまい。しばらくそこで、忌まわしの王子たちが喰い殺されるのを見ているがいい。」グフフと低く笑って、また暴君はオーディスに向かって歩き出した。
「いけませんわ!」巨獅子が背を向けた隙にキサラギはアディールに走り寄る。「キアリ・・・」と唱えようとしたが、それは叶わなかった。巨獅子の尻尾がキサラギを打っていたのだ。「きゃ!」とキサラギがうずくまる。
「バカめ。背中なら安全とでも思ったか。」フンと鼻を鳴らし、暴君はまたオーディスに向けて足を進めた。
「どうせお前は僕が倒さなければならない。ならば、こちらに来てもらった方が好都合。」
 オーディスはライトフォース、と叫んでレイピアに光のチカラを纏わせた。「この一突きでお前を倒す!」オーディスは突進してレイピアを巨獅子の眉間に向けて突き出した。
 が、巨獅子は翼をバサリと顔の前にまで閉じる。翼を貫いたレイピアは、しかし獅子の眉間までは届いていない。
「グフフ。この翼にキズをつけたことまでは誉めてやろう。しかし、それもここまで。」巨獅子が牙をむき出しにして威嚇するように口を開いた。その喉の奥から紫色の光が見えたかと思うと、その閃光は一瞬にしてオーディス王子を焼き、焦がし、吹き飛ばす。同時にオーディスの持つレイピアも暴君の翼から抜け去った。
 動かなくなった王子を見たバサグランデは「グフフ。死んだか?次はお前たちだ、巫女よ。いつまで唄っているつもりだ。」
 バサグランデの目は、すでにディオーレとセーリアのほうに向けられていた。しかし、それでも、ふたりは唄うことをやめようとしない。
「ほほう。この状況でも唄うことを辞めぬとは。もはや我のチカラを抑える意味すらないであろうに。ふたりまとめて、そこの王子と同じ骸にしてやろう。」バサグランデはまた大きく口を開いた。魔獣の口から闇の閃光が飛び出す。
「そうはいきません!」と巫女たちの前にパルポスが立ち塞がり「メラミ!」と唱える。その杖から飛び出した火球が魔獣の閃光と衝突し、炎と闇が相殺された。
「ほうほう。我の閃光と同じほどの速度のメラミを使えるとは、大した術師よ。しかし、もう一度試してみるか?」巨獅子はまた口を開けた。
 今度は火球が暴君の口の中にまで飛んで来ていた。闇と炎はまた相殺されたが、それはバサグランデの口の中。「ガフッ!」と巨獅子がうなる。その巨獅子の口元をさらにパルポスのメラミが捕えた。
「ゴアッ!なんだと!?なんだその詠唱速度は!?」
「ワタクシも早詠みの訓練をしていたのですよ。どうやらあなたの閃光よりもワタクシの詠唱のほうが速いようですねぇ。」
「バカな!?」と暴君が言う間に、また火球が飛んで来ていた。「グハァ!」のけ反ったバサグランデが火球の発生位置を睨んだときには、そこにはもうパルポスの姿はなかった。のけ反った死角を走ってオーディス王子のところにまで辿り着いている。そしてすでに王子は、温かい光に包まれて立ち上がっていた。
「あなたの動きが遅いので、祝福の杖を使わせてもらいましたよ。」パルポスはバサグランデを挑発するように言った。
「ぐぬぅ!この我を愚弄するか!」
 パルポスはぴょこぴょこと跳ねてバサグランデの背中側に回り込むように壁沿いを走る。「どうやらワタクシの速度についてこれていないのではないですかねぇ?」
「キサマッ!いいだろう!お前のそのちょこまかとした足を止めてやろう!」バサグランデはまた激しく雄叫びを上げた。ビリビリとした空気の振動に、パルポスの動きが止まる。
「グハハ!腰が抜けたお前を噛み殺すなど造作もない。」バサグランデがパルポスにのしのしと踏み寄る。
「かかりましたねぇ。」しりもちをついたままパルポスがニヤリと笑った。「これでよいのですよ。作戦通りです。ワタクシばかりを追って背中を疎かにしたあなたの負けです。」
「なんだと!?」と言う暴君の背後では、すでにオーディスのレイピアが弧を描いていた。
「光のチカラを思い知れ!ギガスラッシュ!」横薙ぎの半円の軌道に光の残像が残る。そして、その残像はバサグランデの巨体の中をも通過している。
「グフハァオォォォ!」
 バサグランデの絶叫が響いた。
「バカな!バカな・・・我が・・・この我が敗れるなど・・・滅びるなどあり得ぬ・・・」
 獅子の巨体はドシンと床に倒れ、痙攣しながら、黒紫の霧と消えた。




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目次
序章:誕生【1】【2】
1章:エテーネの民【1】【2】
2章:旅立ち【1】【2】
3章:ランガーオの戦士【1】【2】【3】
4章:ジュレット【1】【2】
5章:グロリスの雫【1】【2】
6章:赤のエンブレム【1】【2】【3】
7章:港町【1】
8章:嘆きの妖剣士【1】【2】
9章:風の町アズラン【1】【2】
10章:世界樹の約束【1】
11章:ガラクタの城【1】【2】
12章:五人目の男【1】
13章:団長の策謀【1】【2】【3】【4】
14章:娯楽の島【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】
15章:三つの願い【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】
16章:太陽の石【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
17章:白き者【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】
18章:恵みの歌【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
19章:錬金術師【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
20章:時渡りの術者【1】【2】【3】【4】
21章:ふたつ目の太陽【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】
22章:冥府【1】【2】【3】【4】【5】【6】【7】【8】【9】【10】【11】【12】【13】
終章:レンダーシアヘ【1】【2】



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