『源氏物語』☆和歌一覧☆ | 【受験古文速読法】源氏物語イラスト訳

『源氏物語』☆和歌一覧☆

【1.桐壺】

 

限りとてわかるる道のかなしきにいかまほしきは命なりけり

 

宮城野の露吹き結ぶ風の音に小萩が本を思ひこそやれ

 

鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜あかずふる涙かな

 

いとどしく虫の音しげき浅茅生に露をき添ふる雲の上人

 

荒き風ふせぎし蔭の枯しより小萩がうへぞ静心なき

 

尋ねゆくまぼろしもがなつてにても玉のありかをそこと知るべく

 

雲のうへも涙に暮るる秋の月いかで住むらむ浅茅生の宿

 

いときなき初元結ひに長き世を契る心は結びこめつや

 

結びつる心も深き元結ひに濃き紫の色すあせずは

 

【2.帚木】

 

手を折りてあひ見し事をかぞふればこれひとつやは君がうきふし

 

憂きふしを心ひとつにかぞへきてこや君が手をわかるべきをり

 

琴の音も月もえならぬ宿ながらつれなき人を引きやとめける

 

木枯らしに吹きあはすめる笛の音を引きとどむべきことの葉ぞなき

 

山がつの垣ほ荒るとも折々にあはれはかけよなでしこの露

 

咲きまじる色はいづれとわかねどもなほ常夏にしくものぞなき

 

うちはらふ袖も露けきとこなつにあらし吹きそふ秋も来にけり

 

ささがにのふるまひしるき夕暮れにひるま過ぐせと言ふがあやなさ

 

逢ふことの夜をし隔てぬ中ならばひるまも何かまばゆからまし

 

つれなきをうらみもはてぬしののめにとりあへぬまでおどろかすらむ

 

身のうさを嘆くにあかで明くる夜はとりかさねてぞねも泣かれける

 

見し夢を逢ふ夜ありやと嘆くまに目さへあはでぞころも経にける

 

帚木の心を知らで園原の道にあやなくまどひぬるかな

 

数ならぬ伏屋に生ふる名のうさにあるにもあらず消ゆる帚木

 

【3.空蝉】

 

空蝉の身をかへてける木のもとになほ人がらのなつかしきかな

 

空蝉の羽に置く露の木がくれて忍び忍びに濡るる袖かな

 

【4.夕顔】

 

心あてにそれかとぞ見る白露の光添へたる夕顔の花

 

寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔

 

咲く花にうつるてふ名はつつめども折らで過ぎうき今朝の朝顔

 

朝霧の晴れ間も待たぬけしきにて花に心をとめぬとぞ見る

 

優婆塞が行ふ道をしるべにて来む世も深き契りたがふな

 

さきの世の契り知らるる身のうさに行く末かねてたのみがたさよ

 

いにしへもかくやは人のまどひけむ我まだ知らぬしののめの道

 

山の端の心も知らでゆく月はうはの空にて影や絶えなむ

 

夕露に紐とく花は玉鉾のたよりに見えし縁にこそありけれ

 

光ありと見し夕顔のうは露はたそかれ時のそら目なりけり

 

見し人の煙を雲とながむれば夕べの空もむつましきかな

 

問はぬをもなどかと問はでほど経るにいかばかりかは思ひ乱るる

 

空蝉の世はうきものと知りにしをまた言の葉にかかる命を

 

ほのかにも軒端の萩を結ばずは露のかことを何にかけまし

 

ほのめかす風につけても下萩のなかばは霜に結ぼほれつつ

 

泣く泣くも今日はわが結ふ下紐をいづれの世にかとけて見るべき

 

逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな

 

蝉の羽も立ちかへてける夏衣かへすを見ても音は泣かれけり

 

過ぎにしも今日別るるも二道に行くかた知らぬ秋の暮れかな

 

【5.若紫】

 

をひたたむありかも知らぬ若草ををくらす露ぞ消えむそらなき

 

初草の生いゆく末も知らぬ間にいかでか露の消えんとすらむ

 

初草の若葉の上を見つるより 旅寝の袖も露ぞ乾かぬ

 

枕結ふ今宵ばかりの露けさを--深山の苔に比べざらなむ

 

吹きまよふ深山おろしに夢さめて涙もよほす滝の音かな

 

さしぐみに袖ぬらしける山水にすめる心はさはぎやはする

 

宮人に行て語らむ山桜風よりさきに来ても見るべく

 

優曇華の花待ち得たる心ちして深山桜に目こそ移らね

 

奥山の松のとぼそを まれに開けてまだ見ぬ花の顔を見るかな

 

夕まぐれほのかに花の色を見て今朝は霞の立ちぞわづらふ

 

まことにや花のあたりは立ち憂きと霞むる空の気色をも見む

 

面影は身をもはなれず山桜 心のかぎりとめて来しかど

 

嵐吹く尾の上の桜散らぬ間を心とめけるほどのはかなさ

 

あさか山浅くも人を思はぬになど山の井のかけ離るらむ

 

汲み初めてくやしと聞きし山の井の--浅きながらや影を見るべき

 

見ても又逢ふ夜まれなる夢のうちにやがてまぎるるわが身ともがな

 

世語りに人や伝へむたぐひなく--憂き身を覚めぬ夢になしても

 

いはけなき鶴の一声聞きしより葦間になづむ舟ぞえならぬ

 

手に摘みていつしかも見む紫の根にかよひける野辺の若草

 

あしわかの浦にみるめはかたくともこは立ちながら返る波かは

 

寄る波の心も知らでわかの浦に玉藻なびかむほどぞ浮きたる

 

朝ぼらけ霧たつそらのまよひにも行き過ぎがたき妹が門かな

 

立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは草の戸ざしに障りしもせじ

 

ねは見ねどあはれとぞ思ふ武蔵野の露わけわぶる草のゆかりを

 

かこつべきゆゑを知らねばおぼつかないかなる草のゆかりなるらむ

 

【6.末摘花】

 

もろともに大内山は出でつれど入るかた見せぬいさよひの月

 

さとわかぬかげをば見れどゆく月のいるさの山をたれかたづぬる

 

いくそたび君がしじまにまけぬらむ--ものな言ひそと言はぬ頼みに

 

かねつきてとぢめむことはさすがにてこたえまうきぞかつはあやなき

 

言はぬをも言ふにまさると知りながらおしこめたるは苦しかりけり

 

夕霧のはるるけしきもまだ見ぬにいぶせさそふる宵の雨かな

 

晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ同じ心に眺めせずとも

 

朝日さす軒の垂氷は解けながらなどかつららの結ぼほるらむ

 

ふりにける頭の雪を見る人もおとらずぬらすあさの袖かな

 

唐衣君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつつのみ

 

なつかしき色ともなしになににこのすゑつむ花を袖にふれけむ

 

くれなゐのひと花ごろも薄くともひたすらくたす名をしたてずは

 

あはぬ夜をへだつるなかのころもでに重ねていとど見もし見よとや

 

紅の花ぞあやなくうとまるる梅の立ち枝はなつかしけれど

 

【7.紅葉賀】

 

もの思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の袖うちふりし心知りきや

 

から人の袖ふることはとをけれど立ちゐにつけてあはれとは見き

 

■いかさまに昔結べる契りにてこの世にかかるなかの隔てぞ