源氏物語イラスト訳【末摘花223】返歌の真意
御返りたてまつりたれば、宮には、女房つどひて、見めでけり。
「逢はぬ夜をへだつるなかの衣手に重ねていとど見もし見よとや」
白き紙に、捨て書いたまへるしもぞ、なかなかをかしげなる。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君(末摘花)と逢瀬を迎えた光源氏。返歌もできない教養のなさや、雪明かりの朝に見た彼女の容貌に驚き、幻滅します。しかし、縁があって逢瀬を迎えたのだから、一生彼女の面倒をみようと心に決めます。光源氏19歳の年末、へたな和歌と元日に着る野暮ったい衣装が届き、光源氏は閉口します。命婦は贈り物を届けたことを後悔して退出しましたが、光源氏は翌日、宮中の命婦のもとに返事を持って来ました。
源氏物語イラスト訳
御返りたてまつりたれば、宮には、女房つどひて、見めでけり。
訳)お返事を差し上げたところ、姫宮の邸では、女房たちが集まって、見てほめていた。
「逢はぬ夜をへだつるなかの衣手に
訳)「逢わない夜が多いのに、さらに私たちの仲を隔てる 衣とは…。
重ねていとど見もし見よとや」
訳)その衣をますます重ねて逢瀬をしろということですか」
白き紙に、捨て書いたまへるしもぞ、なかなかをかしげなる。
訳)白い紙に、さりげなく書きなさっているのは、かえって趣きがある。
【古文】
御返りたてまつりたれば、宮には、女房つどひて、見めでけり。
「逢はぬ夜をへだつるなかの衣手に重ねていとど見もし見よとや」
白き紙に、捨て書いたまへるしもぞ、なかなかをかしげなる。
【訳】
お返事を差し上げたところ、姫宮の邸では、女房たちが集まって、見てほめていた。
「逢わない夜が多いのに、さらに私たちの仲を隔てる 衣とは…。
その衣をますます重ねて逢瀬をしろということですか」
白い紙に、さりげなく書きなさっているのは、かえって趣きがある。
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■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒光源氏)
■【返り】…(光源氏からの)返事
■【たてまつり】…ラ行四段動詞「たてまつる」連用形
※【たてまつる】…「与ふ」の謙譲語(作者⇒末摘花)
■【たれ】…完了の助動詞「たり」已然形
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
■【宮】…常陸宮邸
■【に】…場所の格助詞
■【は】…取り立ての係助詞
■【女房】…末摘花付きの女房たち
■【つどひ】…ハ行四段動詞「集ふ」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【見めで】…ダ行下二段動詞「みめづ」連用形
※【見めづ】…見てほめる
■【けり】…過去の助動詞「けり」終止形
■【逢は】…ハ行四段動詞「逢ふ」未然形
※【逢(あ)ふ】…男女関係を結ぶ。逢瀬を迎える
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【を】…対象の格助詞
■【へだつる】…タ行下二段動詞「隔つ」連体形
■【なか】…中(=間)と「男女の仲」の意を掛けている
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【衣手(ころもで)】…袖
■【に】…添加の格助詞
■【重ね】…ナ行下二段動詞「重(かさ)ぬ」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【いとど】…ますます
■【見もし見よ】…逢瀬を迎えろ
※【見る】…逢瀬を迎える。男女関係を結ぶ
※【も】…強意の係助詞
※【し】…サ変動詞「す」連用形(中止法)
※【見よ】…マ行上一段動詞「見る」命令形
■【と】…引用の格助詞
■【や】…疑問の係助詞(文末用法)
■【白き】…ク活用形容詞「白し」連体形
■【に】…場所の格助詞
■【捨て書い】…カ行四段動詞「捨て書く」連用形イ音便
※【捨て書く】…無造作に書く
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【る】…完了の助動詞「り」連体形
■【し】…強意の副助詞
■【も】…強意の係助詞
■【ぞ】…強意の係助詞(結び;「をかしげなる」)
■【なかなか】…かえって
■【をかしげなる】…ナリ活用形容動詞「をかしげなり」連体形
※【をかしげなり】…趣深い
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【本日の源氏物語】
光源氏の返歌です。
「逢はぬ夜を」からはじまり、「見もし見よとや」で終わっている、いわゆる男女関係を結ぶことがテーマの和歌ですね。
「衣手」というのは、末摘花からの贈り物のダサい衣装を指すのでしょう。
表面的な意味としては、「逢わない夜が続いているのに、さらに私たちの仲を隔てる衣を贈って来られたのですね」という、逢瀬の隔たりを憂える和歌に見えますが、…
「こんな野暮ったい衣装を贈ってこられては、さらに心が隔たってしまう」という真意が見え隠れしますよね;;
ただ、宮邸では、だれもこの真意を分からずに、「見めで」ていたようです。
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