源氏物語イラスト訳【紅葉賀186】好ましう
好ましう若やぎてもてなしたるうはべこそ、さりもありけれ、五十七、八の人の、うちとけてもの言ひ騒げるけはひ、えならぬ二十の若人たちの御なかにてもの怖ぢしたる、いとつきなし。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は、年増にして色好みの源典侍(げんのないしのすけ)にちょっかいを出したのを、義兄の頭中将に気づかれ、密会中に乗り込まれてしまいます。
源氏物語イラスト訳
好ましう若やぎてもてなしたるうはべこそ、さりもありけれ、
訳)好ましく若づくりして振る舞っている表面だけは、まあ見られたものであった が、
五十七、八の人の、うちとけてもの言ひ騒げるけはひ、
訳)五十七、八歳の女が、だらしない格好で何か言い騒いでいる様子、
えならぬ二十の若人たちの御なかにてもの怖ぢしたる、
訳)何とも言えず素晴らしい二十代の若者たちの間で怖がっているのは、
いとつきなし。
訳)とても不似合いだ。
【古文】
好ましう若やぎてもてなしたるうはべこそ、さりもありけれ、五十七、八の人の、うちとけてもの言ひ騒げるけはひ、えならぬ二十の若人たちの御なかにてもの怖ぢしたる、いとつきなし。
【訳】
好ましく若づくりして振る舞っている表面だけは、まあ見られたものであった が、五十七、八歳の女が、だらしない格好で何か言い騒いでいる様子は、何とも言えず素晴らしい二十代の若者たちの間で怖がっているのは、とても不似合いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【好ましう】…シク活用形容詞「好まし」連用形ウ音便
■【若やぐ】…若作りする
■【て】…単純接続の接続助詞
■【もてなす】…振る舞う
■【たる】…存続の助動詞「たり」連体形
■【うはべ】…表面
■【こそ~けれ、】…係り結びの逆接用法
■【さりもあり】…いかにももっともだ
■【けれ】…過去の助動詞「けり」已然形
■【五十七、八の人】…57,58歳の女。源典侍をさす
■【の】…主格の格助詞
■【うちとく】…気を許す。くつろいだ格好をする
■【て】…単純接続の接続助詞
■【もの】…何か
■【言ひ騒げ】…ガ行四段動詞「言ひ騒ぐ」已然形
■【る】…存続の助動詞「り」連体形
■【けはひ】…ようす
■【えならぬ】…何とも言えずずばらしい
■【二十(はたち)の若人(わかうど)たち】…20前後のの若者たち。ここでは光源氏と頭中将をさす
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【御なか】…中。間(「御」は尊敬の接頭語)
■【にて】…場所の格助詞
■【もの怖(お)ぢ】…怖がること
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【たる】…存続の助動詞「たり」連体形
■【いと】…とても
■【つきなし】…不似合いだ。ふさわしくない
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここで、『源氏物語』の作者・紫式部の客観的感想が入ります。
60歳前の女が、20歳前後の若い貴公子の間に挟まれて、あたふたとしている様子は、醜態そのものだと言うんですね。
「つきなし」は、「ふさわしくない」という意味の重要古語。若い男たちと老女のやりとりの様子を、この一語で端的にあらわしていますね!
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。
>>次へ