源氏物語イラスト訳【紅葉賀178】大人大人
おとなおとなしき人に、かく似げなきふるまひをして、見つけられむことは、恥づかしければ、
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は、年増にして色好みの源典侍(げんのないしのすけ)にちょっかいを出したのを、義兄の頭中将に気づかれてしまいました。
源氏物語イラスト訳
おとなおとなしき人に、
訳)いかにも大人びている人(修理大夫)に、
かく似げなきふるまひをして、見つけられむことは、
訳)このように似つかわしくない振る舞いをして、見つけられるとしたら、それは
恥づかしければ、
訳)何ともきまりが悪いので、
【古文】
おとなおとなしき人に、かく似げなきふるまひをして、見つけられむことは、恥づかしければ、
【訳】
いかにも大人びている人(修理大夫)に、このように似つかわしくない振る舞いをして、見つけられるとしたら、それは何ともきまりが悪いので、
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
■【おとなおとなしき】…シク活用形容詞「大人大人し」連体形
※【大人大人し】…いかにも大人びている
■【人】…ここでは、源典侍の夫である修理大夫(すりのかみ)をさす
■【に】…対象の格助詞
■【かく】…このような
■【似げなき】…ク活用形容詞「似げなし」連体形
※【にげなし】…似つかわしくない。ふさわしくない
■【ふるまひ】…振る舞い。行動
■【を】…対象の格助詞
■【し】…サ変動詞「す」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【見つけ】…カ行下二段動詞「見つく」未然形
■【られ】…受身の助動詞「らる」未然形
■【む】…仮定(婉曲)の助動詞「む」の連体形
■【は】…取り立ての係助詞
■【恥づかしけれ】…シク活用形容詞「恥づかし」已然形
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
若いときって、
何をしても、許されるようなところがあります。
…わたしも、若いときは、今思い出しても赤面するような、他人に言えないこと、いっぱいやらかしました。
それでも、だいたいは、許されてきたんですよね~。
天命を知るような年齢にさしかかって、
「若いから」で許されたりすることが、こんなにも多いんだって、ほんとうに痛感しています。
光源氏は、「若気の至り」で、いろんな女性遍歴にチャレンジしてるようですが、
「若いから許される」のとは、まったく正反対の人生観を持ってるみたいですね。
「若いから、許されない」
「おとなおとなしき人に」は、
「見つけられ」という部分にかかります。
修理大夫は、四位の官職で、このときの光源氏の官職(中将;四位)と、大差はないと思われます。
でも、源氏は、身分よりも年齢にこだわっていますね。
修理大夫のような大人大人しき(年配の)人に、自分の年に似つかわしくない振る舞いを、見つけられでもしたら――
恥ずかしぃ~!
若い光源氏が、年増の源典侍の情夫になっていることを知られるのが、「恥ずかしい」っていうことでしょうか。
この場面を読んで、わたしは、とある小説を思い出しました。
この小説のなかで、15歳の少年が、年齢差の女性と関係を持ってる場面が描かれていて衝撃的でしたが、
この小説の設定、『オディプス王』という古代ギリシヤの戯曲をモチーフにしてるらしいですね!
このような、衝撃的な年齢差の恋愛模様は、
いつの時代にも、どの国においても、あるもんですね。
したがって、今回の、光源氏の
「若いから、許されない」
という感覚は、「時代」というよりも、むしろ、
「光源氏のような人においては」
という方が、正しい気がします。
「若いのに、こんな年増の女と…」
という汚名は、
「光源氏ともあろう人が」
という冠詞をつけてこそ、成立するんじゃないでしょうか。
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。