源氏物語イラスト訳【紅葉賀179】わづらはし | 【受験古文速読法】源氏物語イラスト訳

源氏物語イラスト訳【紅葉賀179】わづらはし

「あな、わづらはし。出でなむよ。蜘蛛のふるまひは、しるかりつらむものを。心憂く、すかしたまひけるよ」

とて、直衣ばかりを取りて、屏風のうしろに入りたまひぬ。

 

【これまでのあらすじ】

桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。

光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は、年増にして色好みの源典侍(げんのないしのすけ)にちょっかいを出したのを、義兄の頭中将に気づかれてしまいました。

 

 

源氏物語イラスト訳 

 

 

あなわづらはし出で

訳)ああ面倒だもう退出する つもりです

 

 

蜘蛛ふるまひは、しるかりらむものを

訳)蜘蛛ふるまい』、つまり彼氏来るということは、はっきりしてだろう

 

 

心憂くすかしたまひけるとて

訳)嫌なことにだまして誘いなさっのだ言っ

 

 

直衣ばかり取り屏風うしろ入りたまひ

訳)直衣だけ手に取っ屏風後ろ入りなさっ

 

 

【古文】

あなわづらはし出で蜘蛛ふるまひは、しるかりらむものを心憂くすかしたまひける

とて直衣ばかり取り屏風うしろ入りたまひ

 

【訳】

ああ面倒だもう退出する つもりです。『蜘蛛ふるまい』、つまり彼氏来るということは、はっきりしてだろう嫌なことにだまして誘いなさっのだ

言っ直衣だけ手に取っ屏風後ろ入りなさっ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

■【あな】…ああ感動詞

■【わづらはし】…面倒だ。やっかいだ。複雑だ

■【出で】…ダ行下二段動詞「いづ」連用形

■【な】…強意の助動詞「ぬ」未然形

■【む】…意志の助動詞「む」終止形

■【よ】…念押しの間投助詞

■【蜘蛛のふるまひ】…「わがせこが来べき宵なりささがにの蜘蛛のふるまひかねてしるしも」(古今集、衣通姫)の引き歌。恋人が来ることを暗示する。

■【は】…取り立ての係助詞

■【しるかり】…ク活用形容詞「著し」連用形

※【著(しる)し】…はっきりしている

■【つ】…完了の助動詞「つ」終止形

■【らむ】…現在推量の助動詞「らむ」連体形

■【ものを】…逆接的詠嘆用法の終助詞

■【心憂く】…ク活用形容詞「こころうし」連用形

■【心憂し】…つらい。いやだ

■【すかす】…だます。だまして誘う

■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形

※【たまふ】…尊敬の補助動詞(光源氏⇒源典侍)

■【ける】…詠嘆の助動詞「けり」連体形

■【よ】…詠嘆の間投助詞

■【とて】…~と言って

※【と】…引用の格助詞

※【て】…単純接続の接続助詞

■【直衣(なほし)】…正服・礼服でない直(ただ)の服の意で、平服をいう。貴人の常用の略服

■【ばかり】…限定の副助詞

■【を】…対象の格助詞

■【取り】…ラ行四段動詞「取る」連用形

■【て】…単純接続の接続助詞

■【屏風(びやうぶ)】…室内に立て、装飾を兼ねて風を防ぎ、仕切りとする家具

■【の】…連体修飾格の格助詞

■【に】…場所の格助詞

■【入り】…ラ行四段動詞「いる」連用形

■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形

※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)

■【ぬ】…完了の助動詞「ぬ」終止形

 

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古文を勉強するとき、

『今昔物語』などの説話や、

『徒然草』などの随筆(エッセイ)は、

なんとなくでもカンタンに理解できるのですが、

 

『源氏物語』になると途端にムズかしくて、意味が分からなくなります。

 

いったい、なぜでしょうか???

 

 

 

 

もちろん、和歌が大きな難関ではありますが、

和歌のない、このような会話文や地の文の中にも、

「引き歌」という形で、和歌が登場する。

 

それが、『源氏物語』の最難所だと、

わたしは思います。

 

 

今回の、「蜘蛛のふるまひ、しるかり…」の部分が、

まさにその「引き歌」なんです。

 

これは、『古今和歌集』の

「わがせこが 来べき宵なり ささがにの 蜘蛛のふるまひ かねてしるしも」

という、衣通姫(そとおりひめ)の和歌です。

 

これ、以前、「雨夜の品定め」でも出てきたんですが、(※下のYouTubeに載せています↓)

 

衣通姫というのは、小野小町に通ずるといわれるほどの絶世の美女です。

※当時は、「和歌が上手い=絶世の美女」だったワケですが^^;

 

 

その昔、「蜘蛛が人の衣に着くと、客が訪れる、という俗信が中国にあったことを受けて、この衣通姫が、「蜘蛛が這ってるのは、恋人がやって来る証だわ」と詠んだのが、この歌なんです。

 

なので、当時は、

「蜘蛛が這いまわる」

 ⇒「恋人が来る」

という思考の流れが、通例だったようです。

 

 

光源氏の、この「蜘蛛のふるまひ、しるかりつらむ」というセリフには、

「蜘蛛が這っているから、あなたの恋人が来るってことは、はっきり分かっていたはずなのにね。」

 

という引き歌による皮肉。

 

ちなみに、源典侍の家は、本人いわく「東屋」なので、蜘蛛が這っていても当然か…!?

 

今なら、号泣悲鳴もんですが…^^;

 

 

 

 

 

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