源氏物語イラスト訳【紅葉賀183】たれと知られで
「誰れと知られで出でなばや」と思せど、しどけなき姿にて、冠などうちゆがめて走らむうしろで思ふに、「いとをこなるべし」と、思しやすらふ。
【これまでのあらすじ】
桐壺帝の第二皇子として生まれた光源氏でしたが、源氏姓を賜り、臣下に降ります。亡き母の面影を追い求め、恋に渇望した光源氏は、父帝の妃である藤壺宮と不義密通に及び、懐妊させてしまいます。
光源氏18歳冬。藤壺宮は、光源氏との不義密通の御子を出産しました。源氏は、年増にして色好みの源典侍(げんのないしのすけ)にちょっかいを出したのを、義兄の頭中将に気づかれ、密会中に乗り込まれてしまいます。
源氏物語イラスト訳
「誰れと知られで出でなばや」と思せど、
訳)「誰とも知られないようにして退出してしまいたい」とお思いになるけれど、
しどけなき姿にて、冠などうちゆがめて走らむうしろで思ふに、
訳)だらしない恰好で、冠などをひん曲げて逃走するような後ろ姿を思うと、
「いとをこなるべし」と、思しやすらふ。
訳)「とても愚かに違いない」と、お気持ちがためらいなさる。
【古文】
「誰れと知られで出でなばや」と思せど、しどけなき姿にて、冠などうちゆがめて走らむうしろで思ふに、「いとをこなるべし」と、思しやすらふ。
【訳】
「誰とも知られないようにして退出してしまいたい」とお思いになるけれど、だらしない恰好で、冠などをひん曲げて逃走するような後ろ姿を思うと、「とても愚かに違いない」と、お気持ちがためらいなさる。
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■【と】…引用の格助詞
■【知ら】…ラ行四段動詞「知る」未然形
■【れ】…受身の助動詞「る」未然形
■【で】…打消接続の接続助詞
■【出で】…ダ行下二段動詞「いづ」連用形
■【な】…強意の助動詞「ぬ」未然形
■【ばや】…希望の終助詞
■【と】…引用の格助詞
■【思(おぼ)せ】…サ行四段動詞「おぼす」已然形
※【おぼす】…「思ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
■【ど】…逆接の接続助詞
■【しどけなき】…ク活用形容詞「しどけなし」連体形
※【しどけなし】…だらしない
■【にて】…状態の格助詞
■【冠(かうぶり)】…かんむり
■【など】…例示の副助詞
■【うちゆがむ】…(行為・形態などが)正しくなくなる。ゆがめる(「うち」は接頭語)
■【て】…単純接続の接続助詞
■【走る】…逃走する
■【む】…婉曲の助動詞「む」連体形
■【うしろで】…後ろ姿
■【に】…順接の接続助詞
■【いと】…とても
■【をこなり】…愚かである
■【べし】…推量の助動詞「べし」の終止形
■【と】…引用の格助詞
■【思(おぼ)し…】…お気持ちが~なさる
※【おぼす】…「思ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
■【やすらふ】…ためらう
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セフレの恋人とアバンチュールの最中。
相手の本命の恋人が訪ねてきたとき
あなたはどうしますか?
て、なかなかそんな経験はしないでしょうが、
光源氏ほどのプレイボーイならば、
よくあることだったのではないでしょうか。
今回、光源氏は、自分と分からないようにして
こっそりと出て行きたいと思います。
ですが、ここで光源氏は、第三者の視点になって考えます。
…もし、自分が、その恋人の立場なら、
本命の恋人から逃げるようにして、すごすごと出ていったジゴロ……。
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…なんて、情けないことでしょう!
そんなふうに、自分を第三者の目線で客観的に見た光源氏は、すごすご逃げ出すような態度を躊躇したんですね。
「やすらふ」というのは、古典では「ためらう・躊躇する」という意味の重要古語です。
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