源氏イラスト訳【若紫263】危惧
「消えむ空なき」とありし夕べ思し出でられて、恋しくも、また、見ば劣りやせむと、さすがにあやふし。
「手に摘みていつしかも見む紫の根にかよひける野辺の若草」
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【源氏物語イラスト訳】
「消えむ空なき」とありし夕べ思し出でられて、
訳)尼君が「消えていくような空がない(死ぬに死ねない)」とあった夕暮れを思い出しなさずにいられなくて、
恋しくも、また、見ば劣りやせむと、さすがにあやふし。
訳)恋しくもあり、また、逢えば見劣りがするだろう かと、やはり不安である。
「手に摘みていつしかも見む
訳)「手に摘んで早く逢瀬を迎えよう。
紫の根にかよひける野辺の若草」
訳)紫草の根元につながっていた野辺の若草を」
【古文】
「消えむ空なき」とありし夕べ思し出でられて、恋しくも、また、見ば劣りやせむと、さすがにあやふし。
「手に摘みていつしかも見む紫の根にかよひける野辺の若草」
【訳】
尼君が「消えていくような空がない(死ぬに死ねない)」とあった夕暮れを思い出しなさずにいられなくて、恋しくもあり、また、逢えば見劣りがするだろう かと、やはり不安である。
「手に摘んで早く逢瀬を迎えよう。
紫草の根元につながっていた野辺の若草を」
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■【消え】…ヤ行下二段動詞「消ゆ」未然形
■【む】…婉曲の助動詞「む」連体形
■【なき】…ク活用形容詞「無し」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【あり】…ラ変動詞「あり」連用形
■【し】…過去の助動詞「き」連体形
■【夕べ】…夕暮れ
■【思(おぼ)し~】…お気持ちが~
※【思(おぼ)す】…「思ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
※【思ひ出(い)づ】…思い出しなさる
■【られ】…自発の助動詞「らる」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【恋しく】…シク活用形容詞「恋し」連用形
■【も】…強意の係助詞
■【また】…また。並びに
■【見】…マ行上一段動詞「見る」未然形
※【見る】…逢う。男女関係を結ぶ
■【未然形+ば】…順接仮定条件の接続助詞
■【劣り】…見劣り
■【や】…疑問の係助詞
■【せ】…サ変動詞「す」未然形
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【さすがに】…そうはいってもやはり
■【あやふし】…不安だ
■【に】…手段の格助詞
■【摘み】…マ行四段動詞「摘む」連用形
■【て】…単純接続の接続助詞
■【いつしか】…早く
■【も】…強意の係助詞
■【見】…マ行上一段動詞「見る」未然形
※【見る】…逢う。男女関係を結ぶ
■【む】…意志の助動詞「む」終止形
■【紫】…紫草。ここでは、藤壺宮の見立て
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【根(ね)】…もと。根っこ
■【に】…帰着点の格助詞
■【かよひ】…ハ行四段動詞「かよふ」連用形
※【かよふ】…通じている。つながっている
■【ける】…過去の助動詞「けり」連体形
■【野辺】…野原
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【若草】…若紫の見立て
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「消えむ空なき」というのは、
光源氏が初めて尼君と若紫を垣間見たとき
尼君が詠んだ和歌の一部です。
早く、若紫を手に入れたい、と
恋しく思う気持ちもあるものの――
もし、実際に逢ってみたら
幻滅をするかもしれない…と、
危惧もしているんですね。
ところでこの和歌、
尼君や若紫が見たら
なんて思うでしょうか…ね。
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