源氏物語イラスト訳【若紫216】世語り
「世語りに人や伝へむたぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても」
思し乱れたるさまも、いと道理にかたじけなし。
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【源氏物語イラスト訳】
「世語りに人や伝へむ
訳)「世間の語り草として人が語り伝えるのでしょう か、
たぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても」
訳)比べるものがないほど辛い我が身を、目覚めることのない夢の中のことにするとしても」
思し乱れたるさまも、いと道理にかたじけなし。
訳)お気持ちが乱れなさっている様子も、本当にもっともなことで恐れ多い。
【古文】
「世語りに人や伝へむたぐひなく憂き身を覚めぬ夢になしても」
思し乱れたるさまも、いと道理にかたじけなし。
【訳】
「世間の語り草として人が語り伝えるのでしょう か、
比べるものがないほど辛い我が身を、目覚めることのない夢の中のことにするとしても」
お気持ちが乱れなさっている様子も、本当にもっともなことで恐れ多い。
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■【世語(よがた)り】…世間の語り草
■【に】…資格の格助詞
■【人】…世間の人々
■【や】…疑問の係助詞
■【伝へ】…ハ行下二段動詞「伝ふ」未然形
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【たぐひなく】…ク活用形容詞「類なし」連用形
※【類(たぐひ)無し】…比べるもののない
■【憂(う)き】…ク活用形容詞「憂し」連体形
■【身(み)】…我が身(※和歌中では自分自身に用いる)
■【を】…対象の格助詞
■【覚(さ)め】…マ行下二段動詞「覚む」未然形
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【に】…動作の結果の格助詞
■【なし】…サ行四段動詞「為す」連用形
※【為(な)す】…する
■【ても】…たとえ~としても(連語)
■【て】…単純接続の接続助詞
■【も】…強意の係助詞
■【思(おぼ)し乱(みだ)る】…お気持ちが乱れなさる
※【思す】…「思ふ」の尊敬語(作者⇒藤壺宮)
※【乱れ】…ラ行下二段動詞「乱る」連用形
■【たる】…完了(存続)の助動詞「たり」の連体形
■【さま】…様子
■【も】…強意の係助詞
■【いと】…たいそう。ほんとうに。とても
■【道理(どうり)なり】…もっともなことだ
※【に】…ナリ活用形容動詞「道理なり」連用形活用語尾
■【かたじけなし】…恐れ多い。もったいない
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光源氏の最愛の女性、藤壺宮から、光源氏に対する返歌です。
贈答歌は、男の和歌を受け、その中のフレーズや単語を一つのキーワードとして、返歌ではその語を中心とした和歌の世界をくり広げます。
今回の藤壺の返歌は、「夢」というキーワードを使っています。
光源氏が、この逢瀬を「夢のような出来事」として、いつまでも続いてほしいものと捉えているのに対して、
藤壺宮は、たとえ現実とは程遠い夢のような出来事ではあっても、この逢瀬の事実は消えないことを憂えているのです。
道ならぬ恋、あってはならない逢瀬――。
もし、世間に知られてしまったら…と恐れおののいているのですね。