源氏物語イラスト訳【若紫217】命婦の君
命婦の君ぞ、御直衣などは、かき集め持て来たる。
殿におはして、泣き寝に臥し暮らしたまひつ。御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば、
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【源氏物語イラスト訳】
命婦の君ぞ、御直衣などは、かき集め持て来たる。
訳)命婦の君が、源氏の君のお直衣などを、かき集めて持って来てしまった。
殿におはして、
訳)お邸にお帰りになって、
泣き寝に臥し暮らしたまひつ。
訳)泣きながら寝る状態で横になって過ごしなさった。
御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば、
訳)お手紙なども、いつものように、お目に入れなさら ない主旨の報告ばかりがあるので、
【古文】
命婦の君ぞ、御直衣などは、かき集め持て来たる。
殿におはして、泣き寝に臥し暮らしたまひつ。御文なども、例の、御覧じ入れぬよしのみあれば、
【訳】
命婦の君が、源氏の君のお直衣などを、かき集めて持って来てしまった。
お邸にお帰りになって、泣きながら寝る状態で横になって過ごしなさった。お手紙なども、いつものように、お目に入れなさら ない主旨の報告ばかりがあるので、
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■【命婦(みょうぶ)の君】…藤壺宮付きの女房
■【ぞ】…強意の係助詞
■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒光源氏)
■【直衣(のうし)】…男の装束
■【など】…例示の副助詞
■【は】…強意の係助詞
■【かき集め】…マ行下二段動詞「かき集む」連用形
■【持て来(き)】…カ変動詞「持てく」の連用形
■【たる】…完了の助動詞「たり」連体形
■【殿(との)】…邸宅。ここでは光源氏の里邸をさす
■【に】…場所の格助詞
■【おはし】…サ変動詞「おはす」連用形
※【おはす】…「行く」の尊敬(作者⇒光源氏)
■【て】…単純接続の接続助詞
■【泣き寝】…泣きながら寝ること
■【に】…状態の格助詞
■【臥(ふ)す】…横になる
■【暮らす】…過ごす。日々を送る
■【たまひ】…ハ行四段動詞「たまふ」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【つ】…完了の助動詞「つ」終止形
■【御―】…尊敬の接頭語(作者⇒光源氏)
■【文(ふみ)】…手紙
■【など】…例示の副助詞
■【も】…強意の係助詞
■【例(れい)の】…いつものように
■【御覧じ入る】…ご覧になる。御目に入れる
※【御覧じ】…サ変動詞「御覧ず」連用形
※【御覧ず】…「見る」の尊敬(作者⇒藤壺宮)
※【見入る】…目に入れる。見る
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【よし(由)】…旨。こと。ここでは、そのような状況報告
■【のみ】…限定の副助詞
■【あれ】…ラ変動詞「あり」已然形
■【已然形+ば】…順接確定条件(原因・理由)の接続助詞
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光源氏の最愛の女性、藤壺宮から、光源氏に対する返歌です。
贈答歌は、男の和歌を受け、その中のフレーズや単語を一つのキーワードとして、返歌ではその語を中心とした和歌の世界をくり広げます。
今回の藤壺の返歌は、「夢」というキーワードを使っています。
光源氏が、この逢瀬を「夢のような出来事」として、いつまでも続いてほしいものと捉えているのに対して、
藤壺宮は、たとえ現実とは程遠い夢のような出来事ではあっても、この逢瀬の事実は消えないことを憂えているのです。
道ならぬ恋、あってはならない逢瀬――。
もし、世間に知られてしまったら…と恐れおののいているのですね。