【夕顔382-2】和歌の解釈☆オリジナル問題☆
イラスト解釈では
源氏物語イラスト訳で出てきた古文の
入試対応オリジナル問題を掲載しています☆
源氏物語イラスト解釈
【これまでのあらすじ】
天皇(桐壺帝)の御子として産まれ、容姿・才能ともすぐれていた光の君は、幼くして母(桐壺更衣)を亡くし、臣籍に降下、「源氏」姓を賜り、左大臣の娘葵(あおい)の上を正妻にもらいました。一方、帝の後妻である、亡き母によく似た藤壺宮(ふじつぼのみや)への恋慕、そして、中流の女空蝉(うつせみ)との一夜限りの情事、プライドの高い六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)との逢瀬…。光源氏は尽きせぬ恋を重ねていくのでした。
ただ今、「4.夕顔」の巻です。17歳の光源氏は、五条にひっそり住まう夕顔の君に恋をし、彼女を廃院に誘いますが、夕顔は物の怪に襲われ急死してしまいます。失意の中、喪も明け、光源氏はかつて関係のあった人妻の空蝉へも想いを馳せるのでした。
【今回の源氏物語】
小君して、「死に返り思ふ心は、知りたまへりや」と言ひ遣はす。
「ほのかにも軒端の荻を結ばずは
露のかことを何にかけまし」
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☆ 古文オリジナル問題~和歌の解釈~☆
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小君して、「死に返り思ふ心は、知りたまへりや」と言ひ遣はす。
「ほのかにも軒端の荻を結ばずは
露のかことを何にかけまし」
問)上の和歌の説明として正しくないものを、次の中から1つ選べ。
1.「ほのかにも」は「軒」を導き出す枕詞である。
2.「荻を結ぶ」は契りを結ぶことの象徴表現である。
3.「ずは」は、「~なかったなら」という仮定条件を表す。
4.「結ぶ」「掛く」は、「露」の縁語である。
5.「かこと」は「かごと(託言)」の清音化で、恨み言をいう。
和歌のポイントは、
⑴ 修辞(枕詞・掛詞・序詞・縁語・本歌取りなど)
⑵ 誰から誰に対して、どんな気持ちで詠んだ歌か。
⑶ 文法事項に注意し、一語一語の解釈
これらのことをふまえて
丁寧に解釈していきましょう。
【ほのかなり(仄かなり)】
【形容動詞:ナリ活用】
①(光・色・形などが)わずかに見える様子。うっすらとしている。ぼんやりとしている
②(音・声などが)わずかに聞こえる様子。かすかである
*『全訳古語例解辞典(小学館)』より
「ほのかに」というのは
光源氏と軒端荻の逢瀬が「仄か」だったんですね。
逢い引きの最中は、
「あなただけ」と言っていた光源氏でしたが
結局、後朝の文も送らなかったはず!?
(`・д´・ ;)
…そんな、一夜限りの逢い引きを
「ほのかにも」と表現しているんですよ!
■本歌取り
2.「荻を結ぶ」は契りを結ぶことの象徴表現である。
「荻(をぎ)」というのは、草の名で
秋が季節の、ススキよりも少し大きい
水辺や湿地に生えている植物です。
秋風に吹かれて葉がすれ合う音を
和歌や俳句によく詠みます。
それにちなんで
「荻を結ぶ」という表現は
「男女の契りを結ぶ」ことの象徴表現として
和歌や俳句などによく詠まれているんですよ。
3.「ずは」は、「~なかったなら」という仮定条件を表す。
これ、漢文や中世以降では
「―ずんば」という形でも用いられます。
これは、打消「ず」の未然形に接続助詞「ば」が付いた
「―ずば」の清音化したものと
習ったような気がしますが…
『万葉集』では清音の万葉仮名で表記されており
謡曲では「ズワ」と発音されていることなどから
「ず」=打消の助動詞「ず」の連用形
「は」=とりたての係助詞「は」
という連語だと、辞書ではなっているようです。
【ずは】
【連語:打消の助動詞+係助詞「は」】
①~ではなくて。~しないで。~もせずに
②(もし)~ないと。~なかったなら。~ないとすると
*『全訳古語例解辞典(小学館)』より
※前に「ずば」で説明書いちゃってたかも失礼;;
(;゚;∀;゚;)
4.「結ぶ」「掛く」は、「露」の縁語である。
縁語というのは
関連の深い語を併せ用いることによって
表現効果を高める修辞法です。
ここでは、「露(つゆ)」に縁のある
「結ぶ」「掛く」を用いることにより
はかない印象を強めているのですね。
ジャパンナレッジ「季節のことば~露~」によると、
「『露が降りる』という表現は、大気中の水蒸気がものの表面に結露するので、屋根の下などにはできにくいところから生まれたと思われるが、
ほかにも露は『置く』『結ぶ』『消ゆ』『散る』『乱る』など多くの動詞を伴い、掛詞や縁語も多彩である。」
とあります。
また、
「露ははかなきものの象徴でありながら、一方で『菊の露』『蓮の露』といった用例では不老長寿、極楽往生の喩えにも使われた点がたいへん興味深い。この世においては、限りなくはかないものを表わすがゆえに、それが反転して、逆にあの世に向かっては永遠の象徴でもあり得るという両面性をもっているのである。」
とあることから、
ほのか⇒荻を結ぶ
露のかこと⇒掛く
このあたりのイメージが
はかない2人の逢瀬⇒永遠の愛
という印象を持たせているように思えるのは
深読みのしすぎでしょうか;;
(;゚;∀;゚;)
5.「かこと」は「かごと(託言)」の清音化で、恨み言をいう。
【かごと(託言)】
【名詞】
①他にかこつけて言うことば。言い訳。口実
②他にかこつけて言う恨み嘆くことば。恨み言。愚痴
*『全訳古語例解辞典(小学館)』より
男女の交わす和歌において
「あなたが私を思ってくれない」と恨みごとを言うのは
平安時代の常套表現です。
たとえ「ほのか」な、
一夜限りの逢瀬だったとはいえ
軒端の荻(=契り)を結んだのだから
他の男(=蔵人少将)を通わせることに
「かこと(=恨みごと)」を言う権利はありますよ!
ということを、
反実仮想を用いて表現しているんですね!
【答え】…1