源氏物語イラスト訳【末摘花43】十六夜
「ふり捨てさせたまへるつらさに、御送り仕うまつりつるは。
もろともに大内山は出でつれど入る方見せぬいさよひの月」
と恨むるもねたけれど、この君と見たまふ、すこしをかしうなりぬ。
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【源氏物語イラスト訳】
「ふり捨てさせたまへるつらさに、御送り仕うまつりつるは。
訳)「わたしを置きざりにしなさった薄情さに、お見送り申し上げたのですよ。
もろともに大内山は出でつれど
訳)一緒に皇居を退出したけれど、
入る方見せぬいさよひの月」と恨むるもねたけれど、
訳)入る先を見せない十六夜の月、それは貴方です」と恨み言を言うのも癪だけれど、
この君と見たまふ、すこしをかしうなりぬ。
訳)頭中将の君だとご覧になると、少しおかしくなった。
【古文】
「ふり捨てさせたまへるつらさに、御送り仕うまつりつるは。
もろともに大内山は出でつれど入る方見せぬいさよひの月」
と恨むるもねたけれど、この君と見たまふ、すこしをかしうなりぬ。
【訳】
「わたしを置きざりにしなさった薄情さに、お見送り申し上げたのですよ。
一緒に皇居を退出したけれど、
入る先を見せない十六夜の月、それは貴方です」
と恨み言を言うのも癪だけれど、頭中将の君だとご覧になると、少しおかしくなった。
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■【ふり捨て】…タ行下二段動詞「ふり捨つ」未然形
■【させ】…尊敬の助動詞「さす」連用形
■【たまへ】…ハ行四段動詞「たまふ」已然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(頭中将⇒光源氏)
■【る】…完了の助動詞「り」連体形
■【つらさ】…薄情さ
■【に】…原因の格助詞
■【御―】…尊敬の接頭語(頭中将⇒光源氏)
■【送る】…見送る
■【仕(つか)うまつり】…ラ行四段動詞「仕うまつる」連用形
※【仕うまつる】…謙譲の補助動詞(頭中将⇒光源氏)
■【つる】…完了の助動詞「つ」連体形
■【は】…詠嘆の係助詞(文末用法)
■【もろともに】…一緒に
■【大内山(おほうちやま)】…宇多法皇の御所となった御室(仁和寺)の裏山から意味が転じて内裏・宮中の意味として使われる。
■【は】…取り立ての係助詞
■【出で】…ダ行下二段動詞「出づ」連体形
■【つれ】…完了の助動詞「つ」已然形
■【ど】…逆接の接続助詞
■【入る方(いるかた)】…(月が)入る方向。(源氏の)行き先。
■【見せ】…サ行下二段動詞「見す」未然形
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【いさよひ(十六夜)の月】…陰暦十六日の夜の月。特に、陰暦八月十六日の夜の月。ここでは、光源氏を見立てている。
■【と】…引用の格助詞
■【恨(うら)む】…恨み言を言う
■【も】…添加の係助詞
■【ねたけれ】…ク活用形容詞「ねたし」已然形
※【ねたし】…しゃくだ。妬ましい
■【ど】…逆接の接続助詞
■【この君】…頭中将の君
■【と】…引用の格助詞
■【見たまふ】…ご覧になる
※【見】…マ行上一段動詞「見る」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【をかしう】…シク活用形容詞「をかし」連用形ウ音便
■【なり】…ラ行四段動詞「なる」連用形
■【ぬ】…完了の助動詞「ぬ」終止形
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光源氏が出てきたことに気づいた頭中将は、
即座に光源氏をつかまえて、恨み言を和歌に詠みかけます。
「ぬ」の識別は、できますでしょうか。
しかし、「見せ(サ行下二段)」は、未然形・連用形が同じ活用なので、
直前からは「ぬ」の識別ができません。
さらに、和歌の場合は、句読点がないため、直後のつながりも曖昧ですよね。
こういう場合は、文脈判断にたよるしかありませんが…、
和歌のラスト「いざよひの月」が体言止めで、最も言いたい部分。
したがって、そこにつながっていくはずの「「見せぬ」は、連体形でなければだめですよね。
このように、和歌というのは、どこが歌意なのかを見抜くことで、文法事項も根拠を見出せるのですよね。
ちなみに、「十六夜月」というのは、光源氏を見立てています。
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
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