源氏物語イラスト訳【末摘花44】掛詞
「人の思ひよらぬことよ」と憎む憎む、
「里わかぬかげをば見れどゆく月のいるさの山を誰れか尋ぬる
かう慕ひありかば、いかにせさせたまはむ」と聞こえたまふ。
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【源氏物語イラスト訳】
「人の思ひよらぬことよ」と憎む憎む、
訳)「人が思いも寄らぬことを、びっくりするではないか」と憎らしがりながら、
「里わかぬかげをば見れど
訳)「どの土地も分け隔てなく照らす月光は空に見えるけれど、
ゆく月のいるさの山を誰れか尋ぬる
訳)空をゆくその月が隠れる山(入佐山)まで誰が尋ねて来ようか、いやそんな人は貴方ぐらいですよ」
かう慕ひありかば、いかにせさせたまはむ」と聞こえたまふ。
訳)このようにわたしが後を付け回すならば、どうしなさるだろうか」と申し上げなさる。
【古文】
「人の思ひよらぬことよ」と憎む憎む、
「里わかぬかげをば見れどゆく月のいるさの山を誰れか尋ぬる
かう慕ひありかば、いかにせさせたまはむ」と聞こえたまふ。
【訳】
「人が思いも寄らぬことを、びっくりするではないか」と憎らしがりながら、
「どの土地も分け隔てなく照らす月光は空に見えるけれど、
空をゆくその月が隠れる山(入佐山)まで誰が尋ねて来ようか、いやそんな人は貴方ぐらいですよ」
このようにわたしが後を付け回すならば、どうしなさるだろうか」と申し上げなさる。
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■【人】…誰か。ここでは光源氏自身を指す
■【の】…主格の格助詞
■【思ひよら】…ラ行四段動詞「思ひよる」未然形
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連用形
■【よ】…詠嘆の間投助詞
■【と】…引用の格助詞
■【憎む憎む】…憎らしげな様子を強調した表現
■【里(さと)】…人里。なじみの土地
■【分か】…カ行四段動詞「分く」未然形
※【分く】…区別する。分け隔てする
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【かげ】…月光。光源氏の見立て
■【をば】…「を」の強調
※【を】…対象の格助詞
※【ば】…強意の係助詞「は」の濁音化
■【見れ】…マ行上一段動詞「見る」已然形
■【ど】…逆接の接続助詞
■【ゆく月】…空を渡ってゆく月。ここでは光源氏の見立て
■【の】…主格の格助詞
■【いるさの山】…「(月が)入る」意と「(兵庫県)入佐山」の掛詞
■【を】…対象の格助詞
■【誰(たれ)】…誰が~か、いや~ない(反語)
■【か】…反語の係助詞
■【尋ぬる】…ナ行下二段動詞「尋ぬ」連体形
※【尋(たづ)ぬ】…訪ねる
■【かう】…このように(「かく」のウ音便)
■【慕ひありか】…カ行四段動詞「慕ひありく」未然形
※【慕(した)ひありく】…あとをつけてまわる
■【ば】…順接仮定条件の接続助詞
■【いかに】…どう。どのように
■【せ】…サ変動詞「す」未然形
■【させ】…尊敬の助動詞「さす」連用形
■【たまは】…ハ行四段動詞「たまふ」未然形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(光源氏⇒頭中将)
■【む】…推量の助動詞「む」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【聞こえ】…ヤ行下二段動詞「聞こゆ」連用形
※【聞こゆ】…「言ふ」の謙譲語(作者⇒頭中将)
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
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頭中将のことを憎げに思った光源氏ですが、
さすが、風流人。ちゃんと和歌で返していますね!
頭中将の贈歌のなかで「入る」が出てきましたが、
この光源氏の答歌では、「いる」となっています。
こういうあたりで、「あ、掛詞だな」と見抜いてください。
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。