源氏物語イラスト訳【末摘花183】垂氷☆むむ笑
「朝日さす軒の垂氷は解けながらなどかつららの結ぼほるらむ」
とのたまへど、ただ「むむ」とうち笑ひて、いと口重げなるもいとほしければ、出でたまひぬ。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君(末摘花)との初夜を終えた光源氏。なんだか思っていたのと違って、幻滅したものの、縁があって逢瀬を迎えたのだから、一生彼女の面倒をみようと心に決めます。彼女の人となりを確かめようと、雪明かりのもと、彼女の容姿を初めて目にしました。
源氏物語イラスト訳
「朝日さす軒の垂氷は解けながら
訳)「朝日がさしている軒のつららは解けたけれども、
などかつららの結ぼほるらむ」とのたまへど、
訳)どうしてあなたの心には氷が張っているのだろう か」とおっしゃるけれど、
ただ「むむ」とうち笑ひて、
訳)ただ「ふふ」とちょっと笑って、
いと口重げなるもいとほしければ、出でたまひぬ。
訳)とても口が重そうなのも気の毒なので、出立なさった。
【古文】
「朝日さす軒の垂氷は解けながらなどかつららの結ぼほるらむ」
とのたまへど、ただ「むむ」とうち笑ひて、いと口重げなるもいとほしければ、出でたまひぬ。
【訳】
「朝日がさしている軒のつららは解けたけれども、
どうしてあなたの心には氷が張っているのだろう か」
とおっしゃるけれど、ただ「ふふ」とちょっと笑って、とても口が重そうなのも気の毒なので、出立なさった。
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■【朝日(あさひ)】…朝の日の光
■【さす】…差し込む
■【軒(のき)】…屋根の下端が建物の外にさし出た部分
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【垂氷(たるひ)】…つらら
■【は】…取り立ての係助詞
■【解(と)け】…カ行下二段動詞「解く」連用形
■【ながら】…逆接の接続助詞
■【など】…どうして
■【か】…疑問の係助詞(結び;「らむ」)
■【つらら】…平らに張っている氷。つらら
■【の】…主格の格助詞
■【結ぼほる】…(氷などが)できる
■【らむ】…現在の原因推量の助動詞「らむ」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【のたまへ】…ハ行四段動詞「のたまふ」已然形
※【のたまふ】…「言ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
■【ど】…逆接の接続助詞
■【ただ】…ただひたすら
■【むむ】…うふふ。うむ
■【と】…引用の格助詞
■【うち~】…ちょっと~(接頭語)
■【て】…単純接続の接続助詞
■【いと】…とても
■【重げなる】…ナリ活用形容動詞「重げなり」連体形
※【重(おも)げなり】…口が重そうである
■【も】…強意の係助詞
■【いとほしけれ】…シク活用形容詞「いとほし」已然形
※【いとほし】…気の毒だ
■【ば】…順接確定条件の接続助詞
■【出で】…ダ行下二段動詞「いづ」連用形
※【出(い)づ】…出立する。出る
■【たまひ】…ハ行四段動詞「のたまふ」連用形
※【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
■【ぬ】…完了の助動詞「ぬ」終止形
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【本日の源氏物語】
「垂氷(たるひ)」とは、「つらら」のことですが、「垂」のニュアンスから、末摘花のゾウのように垂れた鼻の見立てであることがイメージできますね。
また、和歌アイテム「つらら」ですが、光源氏が直前に言い放った「つらう」という言葉を「言付け(口実)」として、「つらら」にかこつけて、末摘花の打ち解けがたい心を比喩しているのでしょう。
末摘花は、その贈歌を聞いても、ただ「むむ」と笑うだけで、返歌をしなかったのですね。
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