源氏物語イラスト訳【若紫206】御返し
御返し、
「汲み初めてくやしと聞きし山の井の浅きながらや影を見るべき」
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【源氏物語イラスト訳】
御返し、「汲み初めてくやしと聞きし山の井の
訳)そのご返歌として、「薄情な相手の意を汲んで契りを結んで後悔したと聞きました浅い山の井のように、
浅きながらや影を見るべき」
訳)浅いお心のままでは、孫娘の姿を見ることができるでしょうか、いいえ差し上げられません」
【古文】
「あさか山浅くも人を思はぬになど山の井のかけ離るらむ」
御返し、
「汲み初めてくやしと聞きし山の井の浅きながらや影を見るべき」
【訳】
「浅香山ではないが、浅い気持ちで彼女のことを思っているのではないのに、どうして山の井戸に影が宿らないようにわたしからかけ離れていらっしゃるのでしょうか」
そのご返歌として、
「薄情な相手の意を汲んで契りを結んで後悔したと聞きました浅い山の井のように、浅いお心のままでは、孫娘の姿を見ることができるでしょうか、いいえ差し上げられません」
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■【御】…尊敬の接頭語(作者⇒尼君)
■【返し】…返歌
■【汲み初む】…意を汲んで初めて契りを交わす
■【て】…単純接続の接続助詞
■【くやし】…悔しい。後悔される
■【と】…引用の格助詞
■【聞き】…カ行四段動詞「聞く」連用形
■【し】…過去の助動詞「き」連体形
■【山の井】…底が浅い山の井戸
■【の】…比喩の格助詞
■【浅き】…ク活用形容詞「浅し」連体形
■【ながら】…~のままで(継続の接続助詞)
■【や】…反語の係助詞(係り結びの法則)
■【影(かげ)】…(若紫の)姿
■【を】…対象の格助詞
■【見る】…マ行上一段動詞「見る」終止形
■【べき】…可能の助動詞「べし」連体形(係り結び)
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相聞歌では、
女性の側は、とりあえずプロポーズを断るのが
和歌の常道です。
尼君は、光源氏の「山の井」というキーワードを
あなたの「浅い気持ち」に見立て、
『大和物語』に出てくる「安積山」のエピソードを
お断りの理由としたようですね。
ちなみに、そのエピソードとは、こんな感じです。
昔、ある大納言家にとても美しい姫がいて、大切に育てられていました。ある時、おそば仕えの男が姫の姿を見て一目惚れしてしまい、彼女を盗んで逃げ、安積(あさか)山の山中に庵を作り、一緒に暮らしました。男は里に出て食べ物などを手に入れて帰り、女に食べさせていました。が、男が出かけると、ただ独り心細く帰りを待ち続ける、そんな生活が何年も続いて、女は懐妊しました。
ある日、いつものように男は出かけ、そのまま何日も帰ってきませんでした。女は待ちわび、山の泉のところまで歩いていくと、水面に自分の姿が映りました。かつての自分とは似ても似つかない見苦しい姿。女は、恥ずかしさでいたたまれない気持ちになり、この和歌を詠んだのです。。
あさか山影さへ見ゆる山の井の浅くは人を思ふものかは
(安積山の影までも映す山の泉に、あさましい私が映る。私の心は、こんな泉よりずっと深くあなたを慕っているのに…)
女は、歌をかたわらの木に書きつけ、庵に戻って、悲しみのあまり息絶えたのでした…。