源氏物語イラスト訳【末摘花115】すさび
「…言はぬをも言ふにまさると知りながらおしこめたるは苦しかりけり」
何やかやと、はかなきことなれど、をかしきさまにも、まめやかにものたまへど、何のかひなし。
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【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君の噂を聞いた光源氏は、「零落した悲劇の姫君」という幻想に憧れと好奇心を抱き、大輔命婦に手引きを頼んでようやく逢瀬を迎えます。
【源氏物語イラスト訳】
「…言はぬをも言ふにまさると知りながら
訳)「…何もおっしゃらないのは口に出して言うのにまさる場合があるとは知っているけれども、
おしこめたるは苦しかりけり」
訳)心に秘めて言葉に出さないでいるのは苦しいことだなぁ」
何やかやと、はかなきことなれど、
訳)あれやこれやと、何ということもない恋愛であるけれど、
をかしきさまにも、まめやかにものたまへど、何のかひなし。
訳)興味をもつようにも、まじめなようにもおっしゃるけれど、何の効果もない。
【古文】
「…言はぬをも言ふにまさると知りながらおしこめたるは苦しかりけり」
何やかやと、はかなきことなれど、をかしきさまにも、まめやかにものたまへど、何のかひなし。
【訳】
「…何もおっしゃらないのは口に出して言うのにまさる場合があるとは知っているけれども、
心に秘めて言葉に出さないでいるのは苦しいことだなぁ」
あれやこれやと、何ということもない恋愛であるけれど、興味をもつようにも、まじめなようにもおっしゃるけれど、何の効果もない。
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■【言は】…ハ行四段動詞「言ふ」未然形
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【を】…対象の格助詞
■【も】…強意の係助詞
■【言ふ】…ハ行四段動詞「言ふ」連体形
■【に】…対象の格助詞
■【まさる】…すぐれる。ひいでる
■【と】…引用の格助詞
■【知り】…ラ行四段動詞「知る」連用形
■【ながら】…逆接の接続助詞
■【おしこめ】…マ行下二段動詞「おしこむ」連用形
※【おしこむ】…心に秘めて、言葉に出さない
■【たる】…存続の助動詞「たり」連体形
■【は】…取り立ての係助詞
■【苦しかり】…ク活用形容詞「苦し」連用形
■【けり】…詠嘆の終助詞
■【何やかや】…あれやこれや
※【や】…間投助詞
■【と】…引用の格助詞
■【はかなき】…ク活用形容詞「はかなし」連体形
※【はかなし】…何ということもない。つまらない
■【なれ】…断定の助動詞「なり」已然形
■【ど】…逆接の接続助詞
■【をかしき】…シク活用形容詞「をかし」連体形
※【をかし】…興味深い
■【さま】…ようす
■【に】…状態の格助詞
■【も】…列挙の係助詞
■【まめやかに】…ナリ活用形容動詞「まめやかなり」連用形
※【まめやかなり】…まじめだ
■【も】…列挙の係助詞
■【のたまへ】…ハ行四段動詞「のたまふ」已然形
※【のたまふ】…「言ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
■【ど】…逆接の接続助詞
■【の】…連体修飾格の格助詞
■【かひ(甲斐)】…効果。ききめ
■【なし】…ク活用形容詞「なし」終止形
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「はかなし」というのは、光源氏の、末摘花に対する愛情の度合いです。
ちょっとした、すさびのような、とりとめもない恋愛――
けれども、ここまで来たら、「をかしき」さまにも、「まめやかに」も、光源氏は言葉を駆使して、口説き落とそうとしているのです。
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