源氏物語イラスト訳【末摘花213】なつかしき色ともなしに末摘花
「なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ
色濃き鼻と見しかども」
など、書きけがしたまふ。
【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君(末摘花)と逢瀬を迎えた光源氏。返歌もできない教養のなさや、雪明かりの朝に見た彼女の容貌に驚き、幻滅します。しかし、縁があって逢瀬を迎えたのだから、一生彼女の面倒をみようと心に決めます。光源氏19歳。年末のある日、末摘花から、へたな和歌と野暮ったい衣装が届きました。
源氏物語イラスト訳
「なつかしき色ともなしに何にこの
訳)「心惹かれる色というわけでもないのに、どうしてこんな、
すゑつむ花を袖に触れけむ
訳)末摘花のような女を袖に触れ(手を出し)たのだろうか。
色濃き鼻と見しかども」など、書きけがしたまふ。
訳)『色の濃い「はな」』だと見なしていたのだけれど…」などと、書き汚しなさる。
【古文】
「なつかしき色ともなしに何にこのすゑつむ花を袖に触れけむ
色濃き鼻と見しかども」
など、書きけがしたまふ。
【訳】
「心惹かれる色というわけでもないのに、どうしてこんな、
末摘花のような女を袖に触れ(手を出し)たのだろうか。
『色の濃い「はな」』だと見なしていたのだけれど…」
などと、書き汚しなさる。
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■【なつかしき】…シク活用形容詞「なつかし」連体形
※【なつかし】…心惹かれる。親しみ深い
■【と】…引用の格助詞
■【も】…強意の係助詞
■【なしに】…ないのに
※【に】…逆接の接続助詞
■【何に】…どうして~か
■【すゑつむ花】…末摘花。紅花のこと。ここでは、常陸姫君の見立て
■【を】…対象の格助詞
■【袖に触る】…袖に触れる。(女に)手を出す、の意
■【けむ】…過去の原因推量の助動詞「けむ」連体形
■【色濃き鼻】…「鼻」と「花」を掛けている。「紅を色濃き花と見しかども人をあくだにうつろひにけり」(出典未詳)の引き歌
※【濃き】…ク活用形容詞「濃(こ)し」連体形
■【と】…引用の格助詞
■【見】…マ行上一段動詞「見る」連用形
■【しか】…過去の助動詞「き」已然形
■【ども】…逆接の接続助詞
■【など】…引用の副助詞
■【書きけがし】…サ行四段動詞「書き汚す」連用形
■【たまふ】…尊敬の補助動詞(作者⇒光源氏)
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【本日の源氏物語】
末摘花から、どうしようもなく野暮ったい和歌や衣装をもらった光源氏――。
この贈り物のセンスに呆れて、いたずら書きの手習いで書かれたこの和歌をきっかけに、常陸宮の姫君を「末摘花」として揶揄されることになります。
これは、『源氏釈』等によると、
「紅を色濃き花と見しかども人をあくだにうつろひにけり」(出典未詳)
の引き歌とされています。
紅花は色の濃い花と思っていたけれど、人を満足させることさえなく、灰汁(あく)にあたったように移り変わってしまった
貴女を実際に見て、心変わりしてしまった――
――このような〈見立て〉の和歌ですね。
光源氏は、この和歌をイメージしつつ、「色濃き〈鼻〉」とすることで、末摘花の〈鼻〉のイメージを蘇らせているんです。
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