源氏物語イラスト訳【末摘花111】玉襷
「いくそたび君がしじまにまけぬらむものな言ひそと言はぬ頼みに
のたまひも捨ててよかし。玉だすき苦し」
とのたまふ。
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【これまでのあらすじ】
故常陸宮の姫君の噂を聞いた光源氏は、「零落した悲劇の姫君」という幻想に憧れと好奇心を抱き、大輔命婦に手引きを頼んでようやく逢瀬を迎えます。
【源氏物語イラスト訳】
「いくそたび君がしじまにまけぬらむ
訳)「何十回もあなたの沈黙に負けてしまったことだろうか。
ものな言ひそと言はぬ頼みに
訳)ものを言うなとあなたが言わないことを頼みとして
のたまひも捨ててよかし。
訳)お言葉としても私を見捨ててしまってくださいよ。
玉だすき苦し」とのたまふ。
訳)たすきのようなどっちつかずの状態では苦しい」とおっしゃる。
【古文】
「いくそたび君がしじまにまけぬらむものな言ひそと言はぬ頼みに
のたまひも捨ててよかし。玉だすき苦し」
とのたまふ。
【訳】
「何十回もあなたの沈黙に負けてしまったことだろうか。
ものを言うなとあなたが言わないことを頼みとして
お言葉としても私を見捨ててしまってくださいよ。たすきのようなどっちつかずの状態では苦しい」
とおっしゃる。
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■【いくそたび(幾十度)】…何十回も。何度も
■【君】…あなた。末摘花のこと
■【が】…連体修飾格の格助詞
■【しじま(無言)】…沈黙。無言
■【に】…対象の格助詞
■【まけ】…カ行下二段動詞「負く」連用形
■【ぬ】…完了の助動詞「ぬ」終止形
■【らむ】…現在推量の助動詞「らむ」連体形
■【もの】…物事。何か
■【な~そ】…~するな
※【な】…禁止を表す陳述の副詞
※【そ】…禁止の終助詞
■【言ひ】…ハ行四段動詞「言ふ」連用形
■【言は】…ハ行四段動詞「言ふ」未然形
■【ぬ】…打消の助動詞「ず」連体形
■【頼(たの)み】…あて。頼り
■【に】…資格の格助詞
■【のたまひ】…「のたまふ」の名詞化
※【のたまふ】…「言ふ」の尊敬語(光源氏⇒末摘花)
■【も】…強意の係助詞
■【捨(す)て】…タ行下二段動詞「捨つ」連用形
■【てよ】…完了の助動詞「つ」命令形
■【かし】…念押しの終助詞
■【玉だすき】…たすきの尊称。許可とも拒否ともとれる、どっちつかずの状態をさす
■【苦し】…シク活用形容詞「苦し」終止形
■【と】…引用の格助詞
■【のたまふ】…「言ふ」の尊敬語(作者⇒光源氏)
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「玉だすき」というのは、「たすき(襷)」の尊称です。
まるで、たすきが交差して絡み合うように、
事がかけ違って、わずらわしいたとえとして、よく用いられます。
ここでは、末摘花の返答がまるでどっちつかずの状態で、
OKなのか、NOなのか、はっきりさせてほしい、と
光源氏は訴えているのですね。
YouTubeにもちょっとずつ「イラスト訳」の動画をあげています。
日々の古文速読トレーニングにお役立てください。