☆PGTで異常胚あるいはモザイク胚と診断された胚の正常胚率は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、NGS法によるPGTで異常胚あるいはモザイク胚と診断された胚をSNP array法で再検査した結果を示しています。

 

Fertil Steril 2023; 120: 1161(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.08.010

要約:正常胚でない100個の胚盤胞を提供していただきました。内訳は、TE細胞(胎盤になる細胞)の次世代シーケンス(NGS法)によるPGT-Aで、ひとつの染色体全体での完全異数性が40個(WA = Whole Aneuploidy)、ひとつの染色体全体でのモザイクが20個(WM = Whole Mosaic)、ひとつの染色体の一部での完全異数性が20個(SA = Segmantal Aneuploidy)、ひとつの染色体の一部でのモザイクが20個(SM = Segmantal Mosaic)。3箇所のTE細胞と、残りの胚盤胞の細胞をSNP array法再検査しました。再検査は無作為化され、モザイクレポートを行わずに評価しました。結果は下記の通り(前後の診断で変化がない部分を青字表示、正常胚を赤字表示)。

 

             再検査(SNP array)診断

         正常   WA   WM   SA   SM

NGS診断WA胚  5%   95%   0%   0%   0%

NGS診断WM胚  35%  15%   25%   10%  15%

NGS診断SA胚  30%   0%   5%   45%  20%

NGS診断SM胚  65%   0%   10%   10%  15%

 

NGS診断で完全異数性胚の13%(2/40+6/20=8/60)、モザイク胚の50%(7/20+13/20=20/40)で正倍数性(正常)を示しました(つまり72個が異常あるいはモザイク)。

 

解説:PGT-Aは良好胚を選択することにより、単一胚移植の促進と多胎妊娠リスクの低下が見込まれます。しかし、採取した細胞が胚全体を表していない場合や検査自体が不正確な場合には、赤ちゃんになれる胚の廃棄につながる可能性があります。NGS法の解像度が向上するにつれて、モザイク胚や部分的異数性胚が認められるようになり、その取り扱いに注意が必要ですが、世界的に定められた基準はありません。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、WA胚は95%の確率でWA胚(異常胚)ですが、WM胚、SA胚、SM胚には赤ちゃんになれる胚が少なからず(6/20+7/20+13/20=26/60、43%)含まれていることを示しています。とても貴重な情報だと思います。

 

PGTについては下記の記事を参照してください。

2023.11.19「☆モザイク胚の取り扱いについて:ASRMの見解

2023.11.18「☆モザイク胚移植の予後調査

2023.10.18「☆PGTの臨床成績:日本の多施設共同研究

2023.10.5「☆4PN由来正常胚移植で健常児出産

2023.9.28「☆年齢によるモザイク現象の頻度の違い

2023.9.23「卵巣反応不良(POR)での正常胚獲得率

2023.9.9「☆PGT-Aによる単胎妊娠の周産期予後

2023.8.10「☆母体年齢は正常胚移植の妊娠成績に影響するか:メタアナリシス

2023.8.7「胚盤胞の液胞の有無と正常胚率の関係

2023.5.25「☆モザイク胚のカットオフ値は、20~80%より30~70%が良い

2023.3.27「☆低頻度モザイク胚移植で胎児異常

2023.1.25「カオティック(chaotic)異常胚で健常児出産!?

2022.12.25「☆☆PGTは有効か否か

2022.11.27「不育症患者における染色体異常の有無による妊娠成績:メタアナリシス

2022.11.25「☆若年の卵子凍結と高齢の採卵PGTどちらが良い?

2022.10.18「☆PGTは37歳以下では累積出産率は改善しない

2022.9.25「☆初回採卵PGTで異常胚のみだった場合の2回目採卵PGTの結果は良好!

2022.7.3「☆異常胚やモザイク胚移植で8名誕生

2022.4.10「☆胚盤胞にならないのは染色体異常のせい?

2022.3.29「PGTによる周産期リスクは?

2022.2.5「☆新しい発想の着床前診断法:マウスでの検討

2021.11.18「☆モザイク胚の取り扱いについて

2021.5.12「niPGTの診断精度は?

2021.5.4「☆非侵襲性PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2021.5.3「☆モザイク胚移植1000個の成績

2021.4.9「PGTのバイオプシーによるマイナス効果はあるか?

2021.2.10「PGT-Aの母子への影響は?

2021.1.19「☆真の着床障害は本当は少ない!?

2020.12.4「☆PGT-Aは正しく妊娠予後を予測できるのか?

2020.11.4「PGT-A胚は妊娠判定日のhCGが低くなる

2020.9.13「PGT-Aの際の新しいバイオプシー方法

2020.7.3「☆PGT-A:バイオプシー方法による違い

2020.5.19「☆PGT-Aはメリットが誇張され、デメリットが過小評価されている

2020.3.27「PGT-Aの際に顕微授精は必須ではない

2020.1.29「☆PGT-Aで出産率は改善するか

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2