本論文は、PGT-A(着床前スクリーニング検査)の際に顕微授精は必須ではないことを示しています。
Hum Reprod 2020; 35: 317(UAE)doi: 10.1093/humrep/deaa002
要約:2018〜2019年にPGT-Aを実施する30組のアラブ人夫婦(18〜40歳、BMI<30、10個以上採卵、精液所見正常、新鮮射出精子使用)を対象に、体外受精と顕微授精に半々に分けて受精させ、タイムラプス培養器で培養し、胚盤胞の染色体分析をNGS法で行い、培養成績を前方視的に検討しました。合計568個の卵の内訳は、体外受精283個、顕微授精285個。結果は下記の通り。
1人平均 体外受精 顕微授精 P値
実施数 9.4個 9.5個 NS
正常受精数 6.1個 6.3個 NS
変性卵数 0.1個 0.7個 <0.0001
3PN数 0.9個 0.2個 0.005
良好初期胚率 74.3% 77.8% NS
胚盤胞率 80.4% 70.8% NS
生検胚盤胞数 4.0個 3.9個 NS
正常胚盤胞数 2.0個 1.9個 NS
正常胚率 49.8% 44.1% NS
*NS=有意差なし
解説:かつてPGT-A実施の際には顕微授精が必須であるとされていました。体外受精の場合には受精しなかった精子が透明体に結合していますが、これら余分な精子の存在によるDNAのコンタミ(contamination=異物混入)を避けるのが顕微授精が必須とされた最大の理由です。しかし、胚盤胞のTE生検による精子DNAのコンタミは生じないあるいは精子DNAが増幅されないことが報告され、体外受精でPGT-Aが実施されるようになりました。ただし、過去の論文は全て後方視的検討のみであり、前方視的検討がなされていませんでした。本論文はこのような背景の元に行われた前方視的検討であり、体外受精と顕微授精は同等の成績のため、PGT-Aの際に顕微授精は必須ではないことを示しています(つまり精液所見が良好であれば体外受精で良いことになります)。なお、変性卵が顕微授精で有意に多く、3PNが体外受精で有意に多いのは表裏一体の現象です。
下記の記事を参照してください。
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2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解」
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2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?」
2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について」
2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」
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