モザイク胚100周期の移植経験 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、モザイク胚100周期の移植経験の報告です。

 

Fertil Steril 2019; 111: 280(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.10.019

Fertil Steril 2019; 111: 253(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.12.012

要約:2016〜2018年59名で計100周期モザイク胚を移植しました(単一胚移植50周期、2個胚移植26周期、3個胚移植6周期、正常胚と抱き合わせで移植18周期)。なお、モザイク胚は20〜80%異常細胞が含まれているものとし、NGS法で分析しました。移植しなかったモザイク胚は複数箇所から細胞を採取しNGS法で分析しました。臨床妊娠率はモザイク胚38.0%、正常胚49.6%、心拍陽性率はモザイク胚30.0%、正常胚47.1%でした。モザイク胚で心拍確認できた30例のうち19件が出産し、11件で妊娠継続中です。23週で破水し死産になった1例には胎児異常を認めませんでした。NIPTを実施した7件全て正常であり、羊水検査を実施した11件のうち8件は正常でしたが、1件で均衡型転座(正常扱い)、2件で染色体の微小欠失を認めました。モザイク胚で妊娠が上手く行っているのは、単一染色体の一部のモザイク(segmental mosaic)と若年(34歳以下)であり、モザイクの程度(異常細胞率、ロス/ゲイン)にはよりませんでした。なお、正常胚では年齢による成功率に違いはありません。また、モザイク胚では複数箇所の細胞採取した結果の一致率が低下していました。TE細胞とICM細胞の細胞分裂とアポトーシスを確認したところ、正常胚よりモザイク胚でTE細胞とICM細胞の細胞分裂とアポトーシスが有意に高くなっていました。

 

解説:モザイク胚の取り扱いに関しては世界的にも意見がまとまっていません。本論文は、モザイク胚100周期の移植経験の報告であり、これまでで最多の件数になります。結論的なことは言えませんが、モザイクの程度は関係なく、segmental mosaic34歳以下の場合には移植のメリットがあるかもしれないとしています。また、モザイク胚ではTE細胞とICM細胞の細胞分裂とアポトーシスが多いため、NGS結果にバラツキが生じてしまい、正しい判断ができなくなると考えられます。コメントでは、モザイク胚に惑わされないためには、もっと多くのデータが必要であるとしています。

 

下記の記事を参照してください。

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い