PGS(PGT-A)の精度は? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、PGS(PGT-A)の精度についてヒトの胚盤胞で検討したものです。

 

Hum Reprod 2018; 33: 1342(ベルギー)doi: 10.1093/humrep/dey106

要約:提供していただいたPGT-A未実施の胚盤胞34個PGT-Aを実施し異常胚あるいはモザイク胚とされた胚盤胞24個を用い、TE細胞3箇所とICM細胞1箇所の計4箇所をNGS法にて分析し、一致率を比較検討しました(58個の胚盤胞で、58x4=232サンプルを分析)。なお、女性の年齢は、前者が23〜39歳、後者が23〜40歳でした。TE細胞とICM細胞のNGS結果の一致率は、前者が55.9%(19/34)、後者が70.8%(17/24)、合計62.1%(36/58)でした。また、後者において過去にモザイク胚と診断された胚の50%は今回のNGS結果と一致しませんでした。なお、モザイク胚は、女性年齢や胚のグレードとの関連を認めませんでした。

 

解説:現在PGT-Aの真価が問われています。本論文は、実際のヒト胚盤胞でPGT-Aの精度を検討したものであり、わずか数個のTE細胞からICM細胞の染色体を推定する現在の方法ではわずか2/3の精度しかないことを示しています。この理由には様々なことが考えられますが、①TE細胞の一部から全体のTE細胞を予測することはできない、②TE細胞とICM細胞の染色体は必ずしも同じではない、③染色体異常は自己修復される可能性がある(あるいは異常細胞はICMからTEへ分配される)、の3つが主になります。また、DNA増幅や手法による技術的な限界、あるいはモザイク胚をモザイク胚として認識できる診断精度の欠如も考えられます。今は現状の方法で行くしかありませんので、臨床で実用的なクライテリアの確立と施設間での判断基準の標準化が必要です。

 

下記の記事を参照してください。

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い