☆PGSについて:ASRM公式見解 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

PGS(最近ではPGT-Aと呼びます)について、ASRM(米国生殖医学会)から公式見解が発表されましたので、ご紹介致します。

 

Fertil Steril 2018; 109: 429(ASRM)doi: 10.1016/j.fertnstert.2018.01.002

要約:PGT-Aを実施することにより、単一胚移植が行われ、多胎妊娠が減少するメリットがありますが、本法には限界があることを忘れてはいけません。どのような方にメリットがあるかについて、年齢は38歳以上とされていますがデータが不足しています。反復流産には有用とされていますが、卵巣予備能低下の場合には有用性に疑問が残ります。day 5とday 6の胚盤胞で違いはありません。凍結融解操作や細胞採取によるダメージには賛否両論があります。モザイク胚の問題点は根本的な問題ですが、本法の原理からすると避けては通れない問題です。つまり、わずか4〜5個の胎盤になる細胞(TE細胞)から胎児になる細胞(ICM細胞)の染色体を予測し判断することによる限界です。実際にモザイク胚から健常な赤ちゃんが誕生したとする報告があり、胚の自己修復の可能性や検査自体の偽陽性(間違って異常と判断する)の可能性が考えられます。モザイク胚(とされた胚)の中には元気な赤ちゃんになる可能性の胚が含まれていますので、モザイク胚は廃棄すべきではないと考えます。また、胎盤になる細胞(=着床する細胞)を採取するため、正常胚でも着床率が低下します。したがって現在のところ、PGT-Aのメリットがある方の選択と方法には一定の見解は得られていません。PGT-Aの限界を考慮すると、それ以外の方法(タイムラプス、メタボロミクス、ゲノミクス、プロテオミクス、トランスクリプトミクスなど)との組み合わせが必要と考えます。

 

解説:日本ではPGS(PGT-A)を魔法のような検査として捉えている方が少なくないと思いますが、PGSが盛んに行われている海外では本法の限界を鑑み見直しがなされています。つまり、魔法でも何でもなく、限界を持ったひとつの検査にすぎないので、PGSだけで判断するのはやめたほうが良いと警鐘を鳴らしています。最近では、モザイク胚どころか異常胚とされた胚から健常な赤ちゃんが誕生したとの報告もあります。少なくとも言えることは、現状のPGSは完璧な検査ではないということです。

 

明日の記事で、この根拠となる論文の一部をご紹介します。

 

下記の記事を参照してください。

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い