Q&A1786 ナットクラッカーによると思われる左卵巣静脈瘤があります | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q   ナットクラッカーが原因と思われる左卵巣静脈瘤があります。

1人目の妊娠時、腹膜開放式術と呼ばれるとある都内の大学病院の先生にしかできない流早産防止の手術を受けました。この度第二子を希望しておりますが、妊娠により血流が増えることから、妊娠時の血管の変化が懸念され、また腹膜開放式の際静脈瘤が邪魔になってしまう可能性があるため、同病院の心臓血管外科の先生による開腹手術を希望するか悩んでおります。その病院では今回のような手術の症例はなく初めての手術になります。またナットクラッカーによる症状も乏しいことから、積極的に手術はすすめられていませんが、妊娠後どうなるのかが予測がつかないため希望すればやる、という形です。
ナットクラッカーで静脈瘤ができてしまった場合、妊娠後危険な状態になりうる可能性は高いのでしょうか。またステント術を行えばその後妊娠に影響はないものでしょうか。3DCTの画像ではかなり太い静脈瘤ができておりました。

 

A 腹膜開放式頸管縫縮術は、通常の頸管縫縮術が困難な場合に行われる特殊な術式です。膣式に前後の腹膜を開放し、内子宮口の高さでシロッカー術を行うものです。かなり狭い視野で行う手術であることから、近くにある臓器や血管の損傷を懸念されているのだと思います。おそらく画像診断上、左卵巣静脈瘤が内子宮口の高さ付近にあるものと推測されますが、もし腹膜開放式頸管縫縮術中に左卵巣静脈瘤を損傷したら、生命をも脅かす重篤な状態になることが予測されます。記載された情報からは推測しかできませんが、安全策を取るのなら、あらかじめステントを入れるか静脈瘤のオペをしておくのが良いのでしょう。しかし、無症状の方にそれを実施する必要があるかどうかについては何とも言えません。また、ナットクラッカー症候群と妊娠に関する論文を検索しましたところ、下記のレビューを見つけましたのでご紹介します。

 

J Matern Fetal Neonatal Med 2010; 23: 589(スペイン) doi: 10.1080/14767050903189008

要約:ナットクラッカー症候群と妊娠に関する論文は症例報告として4編ありますが、どのように管理すべきかについての指針を示したものはありません。したがって、ステントを入れるべきかについても結論は得られていません。ただし、ステントを入れたナットクラッカー症候群合併妊娠では、ハイリスク妊娠としての管理が必要でしょう。

 

下記の記事を参照してください。

2017.7.20「ナットクラッカー症候群と不妊の関係は?

 

なお、このQ&Aは、約4〜5ヶ月前の質問にお答えしております。