☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、マウスモデルによりモザイク胚の淘汰の過程を明らかにしたものです。

 

Nat Commun 2016 Mar 29; 7: 11165(英国)doi: 10.1038/ncomms11165

要約:モザイクは受精後の数回の細胞分裂の間に生じますので、紡錘体形成チェックポイント阻害剤であるreversine4〜8細胞期に投与することで、人工的にマウスのモザイク胚を作成しました。完璧にreversineを受精卵に作用させると全ての細胞が異数性異常になります(=異常胚)。正常細胞とreversine処理細胞を1:1、1:3の割合で混合したキメラ受精卵はモザイク胚になります。これを正常胚と比較したところ、異常胚は生存できませんが、キメラ受精卵はキメラの割合によりその運命が変わりました。すなわち、正常:異常が1:1では正常マウスと変わりなく、1:3では一部のみ生存しました。キメラ受精卵のライブセルイメージ(生態観察)により、胎児になる細胞の異常細胞は細胞死に至り、胎盤になる細胞の異常細胞は増殖能を失うことが明らかになりました。この現象は、初期胚盤胞以降の発育過程で生じました。

 

解説:PGS(PGT-A)の結果からヒトでのモザイク胚は非常に多いことはよく知られていますが、実際に生まれてくる赤ちゃんの染色体は何ら問題がありません。つまり、どこかで自然淘汰が行われている訳です。それを明らかにした本論文は、素晴しい研究だと思います。マウスと人の胚発生はほぼ同じです。ヒトの受精卵では実験できませんから、まずはマウスの受精卵で実施した意義は非常に大きいと思います。ヒトでも同様な仕組みが働いていることは想像に難くありません。

 

下記の記事を参照してください。

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い