☆PGT-A vs 形態学的選別：多施設ランダム化試験

本論文は、PGT-A正常胚と形態学的選別による胚盤胞の妊娠成績を多施設ランダム化試験で実施したものです。

Fertil Steril 2019; 112: 1071（米国）doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.07

Fertil Steril 2019; 112: 1046（米国）コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.08.102

Fertil Steril 2019; 112: 1013（米国）オピニオン doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.11.002

要約：米国、英国、カナダ、オーストラリアの34施設で採卵し単一胚盤胞移植を実施する25〜40歳の女性661名（平均年齢33.7歳）を対象に、PGT-Aによる選別（330名）と通常の形態学的選別（331名）の妊娠成績の違いをランダム化試験により実施しました（STARスタディ）。なお、採卵から6日目までにbiopsy可能な良好胚盤胞が2個以上ある方のみを対象としました。結果は下記の通り（妊娠継続率は妊娠20週以上とする）。

妊娠継続率　　PGT-A群　　　形態学的選別群　　　P

<35歳　　　　　49.3%　　　　　53.0%　　　　　NS　

35〜40歳　　　50.8%　　　　　37.2%　　　　　0.03

全体　　　　　　50.0%　　　　　45.7%　　　　　NS

NS=有意差なし　

流産率　　　　PGT-A群　　　形態学的選別群　　　P

<35歳　　　　　11.2%　　　　　8.3%　　　　　NS　

35〜40歳　　　8.2%　　　　　11.0%　　　　　NS

全体　　　　　　9.9%　　　　　9.6%　　　　　NS

NS=有意差なし　

解説：海外ではPGT-Aが盛んに行われておりますが、PGT-Aのメリットが享受されるのはどのような方なのかについては、賛否両論があり未だ結論が得られていません。本論文は、40歳以下の女性に限定し、biopsy可能な良好胚盤胞が2個以上できる方、すなわち比較的妊娠しやすい方を対象に、PGT-A正常胚と形態学的選別による胚盤胞の妊娠成績を多施設ランダム化試験で実施したものです。その結果、35歳未満ではPGT-Aのメリットはなく、35〜40歳の方でPGT-Aの優位性をわずかに認めています。本論文の結論は、大変センセーショナルだった様子で、コメントとオピニオンが同時に掲載されました。

コメントでは、本論文の条件設定が厳しいため、選択バイアスがかかっていることを指摘しています。すなわちbiopsy可能な良好胚盤胞が2個以上できる方は、本論文では平均15個採卵できていました。さらに、35歳未満の方の13.7%、35〜40歳の方の20.5%はbiopsy可能な良好胚盤胞が2個未満だったため、本論文の検討からは除外されていました。このように、妊娠するために極めて条件の良い方が対象になった研究であることに注目すべきとしています。

オピニオンでは、本論文の結果は、PGT-Aによる胚のダメージの理由以外には考えられないとし、胚のロスを計算し、35歳未満の方では52.8%、35〜40歳の方では48.0%の胚がロス（本来赤ちゃんになるはずだった胚）したと明記しています。およそ半数がPGT-Aのダメージによりロスするのであれば、PGT-Aしなければ4個の胚盤胞移植により2人の赤ちゃんが誕生し、PGT-Aすると4個の胚盤胞から2個の正常胚ができ1人の赤ちゃんが誕生する、つまりPGT-Aしない方が成績が良いことになります。従って、PGT-Aのメリットばかり強調するのではなく、デメリットも伝えるべきであるとしています。

以上のように、PGT-Aは夢のような検査ではなく、発展途上の検査に過ぎません。将来的には、胚のダメージがないPGT-Aの登場を期待したいものです。

下記の記事を参照してください。

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故？」

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ」

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能　その２」

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能　その１」

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非」

2019.7.5「PGT-Aの正確性は？」

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は？」

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験」

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は？」

2019.1.29「染色体一部モザイク（segmental mosaic）の取り扱い」