本論文は、胚盤胞(TE、ICM)と初期胚のPGT-Aを比較したものです。
Hum Reprod 2019; 34: 998(UAE)doi: 10.1093/humrep/dez055
要約:2016〜2017年に採卵を行った方から84個の胚を提供していただき、3日目初期胚から1個の割球を採取し、5日目胚盤胞のTE(胎盤になる細胞)4〜5個とICM(胎児になる細胞)5個以上を採取し、NGS法にて染色体分析を行いました。なお、女性の平均年齢33.9歳、1人平均2.2個の胚提供でした。結果は下記の通り、初期胚とICMのPGT-Aの不一致率は22.6%(19/84)、TEとICMの不一致率は7.1%(6/84)でした(不一致部分を赤字表示)。
胚盤胞TE 胚盤胞ICM
異常 正常 異常 正常
初期胚 異常 39 14 37 16
正常 1 30 3 28
胚盤胞ICM
異常 正常
胚盤胞TE 異常 37 3
正常 3 41
また、異常の場合のパターンを分析したところ、segmental mosaicがある場合に、一致率が低下する傾向がみられました。TEが異常でICMが正常だった3例のうち2例は、34〜99MBのsegmental mosaicがTEで見出されていました。残りの1例は138MBのsegmental mosaicが初期胚に認められていました。また、ICMが異常でTEが正常だった3例のうち2例は、50〜127MBのsegmental mosaicがICMで見出されていました。
解説:UAEでは法律により胚凍結が禁止されているため、移植しなかった全ての胚は廃棄になるようです。従って、3日目初期胚でのPGT-Aがメインであり、NGS結果を2日後に確認して正常胚を1個移植し、残りの胚を提供していただいた研究です。つまり、通常の診療の中に組み込まれた研究です。このような特殊な事情があって、本論文の研究が可能になりました。本論文は、従来通り、初期胚のPGT-Aの正確性は低いこと、胚盤胞のTEのPGT-Aの正確性は高いことを示しています。TEとICMのPGT-Aの不一致率が7.1%ありますが、多くの場合はsegmental mosaicですので、segmental mosaicの取り扱いにフォーカスを当てた検討が必要です。
下記の記事を参照してください。
2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?」
2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験」
2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?」
2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い」
2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派」
2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?」
2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について」
2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル」
2018.6.3「モザイク胚の特徴は?」
2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産」
2018.4.6「☆PGSの真価は?」
2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解」
2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2」
2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?」
2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について」
2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い」