☆PGT-Aで出産率は改善するか | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、PGT-Aで出産率が改善するか否かについて、日本産科婦人科学会が認定した日本の4つの施設で実施したパイロットスタディの報告です。

 

Hum Reprod 2019; 34: 2340(日本)doi: 10.1093/humrep/dez229

要約:2017〜2018年に、日本の4つの施設で採卵を行う方(35〜42歳)で、反復流産あるいは胚移植反復不成功の方を対象にPGT-Aを実施し、条件をマッチさせた対照群(PGT-A非実施)と妊娠成績を前方視的に比較しました。なお、35〜36歳、37〜38歳、39〜40歳、41〜42歳の各群が10名ずつになるようにしました。反復流産は少なくとも2回以上の流産があり、そのうち1回は流産胎児絨毛染色体異常を確認しているものとし、胚移植反復不成功は少なくとも3回以上の胚移植により一度も妊娠せず、過去の妊娠歴もない方としました。また、採卵は2回までで単一胚移植のみとし、PGT-AはCGH法で実施しました。結果は下記の通り。

 

反復流産    PGT-A実施群    PGT-A非実施群     P値   オッズ比

患者数        41         38        〜     〜

平均年齢   39.2歳(35〜42歳) 39.3歳(35〜42歳)   NS    〜

既往流産回数    2.56         2.47       NS    〜

正常胚率   29.2%(47/161)      〜        〜     〜

胚移植実施率 51.2%(21/41)   97.3%(37/38)    0.001   0.03

臨床妊娠率  66.7%(14/21)   29.7%(11/37)    0.008   5.14

化学流産率  12.5%(2/16)    45.0%(9/20)     0.03   0.14

流産率    14.3%(2/14)    20.0%(2/10)     NS    〜

子宮外妊娠率  7.1%(1/14)    9.1%(1/11)      NS    〜

出産率/移植  52.4%(11/21)   21.6%(8/37)    0.028   3.89

出産率/患者  26.8%(11/41)   21.1%(8/38)     NS    〜

 

胚移植反復不成功 PGT-A実施群    PGT-A非実施群     P値   オッズ比

患者数        42         50        〜     〜

平均年齢   38.6歳(35〜42歳) 38.7歳(35〜42歳)   NS    〜

既往胚移植回数   5.00         4.34        NS    〜

不妊期間     62.0ヶ月       62.7ヶ月       NS    〜

正常胚率   21.1%(42/199)      〜        〜     〜

胚移植実施率 57.1%(24/42)   82.0%(41/50)     0.01   0.29

臨床妊娠率  70.8%(17/24)   31.7%(13/41)    0.003   5.62

化学流産率  10.5%(2/19)    40.9%(9/22)     0.04   0.17

流産率    11.8%(2/17)     0%(0/13)      NS    〜

子宮外妊娠率  0%(0/17)      0%(0/13)      〜    〜

出産率/移植  62.5%(15/24)   31.7%(13/41)    0.016   3.75

出産率/患者  35.7%(15/42)   26.0%(13/50)     NS    〜

 

両者の染色体異常の内訳をみると、反復流産では2箇所のトリソミーが多く、胚移植反復不成功ではモノソミーが多く認められました。また、正常胚率は年齢とともに減少し、1個の正常胚を得るための採卵回数は、35〜38歳では1〜2回ですが、41〜42歳では5〜9回と計算されました。

 

解説:PGT-Aで出産率が改善するか否かについては様々な見解があり一定していません。そこで、ASRM(米国生殖医学会)もESHRE(欧州生殖医学会)も、全ての方にPGT-Aの実施は推奨されないとの見解を述べています。現在のところ、特定の母集団におけるPGT-Aの有用性については研究段階です。本論文は反復流産と胚移植反復不成功の方に対象を絞った前方視的検討であり、患者さんあたりの出産率はPGT-A実施の有無で変わりませんが、移植あたりの出産率はPGT-A実施により有意に改善することを示しています。つまり、移植すべき胚の選別により、移植回数が減少することになります。しかし、どちらの群も患者数が極めて少ない小規模の検討ですので、結論付けるのは慎むべきだとしています。

 

非常に重要な情報を示したデータだと思います。例えば、本論文の正常胚率はわずか20〜30%になりますが、海外の報告による正常胚率は、35〜36歳で65%、37〜38歳で55%、39〜40歳で45%、41〜42歳で30%(2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2」参照)ですから、反復流産や胚移植反復不成功の方では異常胚が極めて高い可能性があります。もう1点気になるのは、本論文がCGH法での検討であるため、NGS法での再検討も実施すべきでしょう。日本産科婦人科学会は、現在PGT認可の方向で進んでいますので、日本発信のデータが出てくることを期待します。

 

下記の記事を参照してください。

2020.1.10「正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要

2020.1.9「☆PGT-A vs 形態学的選別:多施設ランダム化試験

2019.10.30「世界の体外受精の成功率が低下しているのは何故?

2019.10.3「☆刺激周期も自然周期も正常胚率は同じ

2019.9.23「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その2

2019.9.21「☆7日目正常胚盤胞も十分妊娠可能 その1

2019.9.5「モザイク型の染色体を持つ夫婦のPGT-Aの是非

2019.7.5「PGT-Aの正確性は?

2019.5.13「胚盤胞のPGT-Aの正確性は?

2019.3.12「モザイク胚100周期の移植経験

2019.2.19「PGT-Aでメリットがある方は?

2019.1.29「染色体一部モザイク(segmental mosaic)の取り扱い

2018.8.19「☆PGT-A:賛成派 vs. 反対派

2018.7.17「PGS(PGT-A)の精度は?

2018.6.22「☆モザイク胚や異常胚の移植について

2018.6.10「☆モザイク胚の淘汰:マウスモデル

2018.6.3「モザイク胚の特徴は?

2018.5.31「Q&A1845 PGS異常胚の出産

2018.4.6「☆PGSの真価は?

2018.4.5「☆PGSについて:ASRM公式見解

2018.3.22「Q&A1772 モザイク胚について2

2018.1.29「☆モザイク胚を移植したらどうなるか?

2017.10.31「Q&A1627 ☆モザイク胚について

2017.1.24「☆ASRM:PGS特集 その1 モザイクの取り扱い

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2