正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、正常胚の出産率予測には桑実胚になるまでの時間が重要であることを示しています。

 

Fertil Steril 2019; 112: 1080(スペイン、イタリア)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.07.1322

Fertil Steril 2019; 112: 1048(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.08.065

要約:2016〜2017年にローマとバレンシアで採卵を実施したスタディ1(868名、正常胚511個)2017〜2018年にローマ2カ所とバレンシアで採卵を実施したスタディ2(546名、正常胚319個)を対象に、正常胚であることにタイムラプスパラメータを加え出産率予測に有用な条件を検討しました。スタディ1(=条件設定期)の出産率は40.5%で、桑実胚になる時間(tM)胚盤胞到達時のTE(胎盤になる細胞)のグレードが正常胚の出産率予測向上に有意に役立つパラメータとして抽出されました。スタディ2(=検証期)の出産率は42.9%で、tM<80時間(スタディ1から算出)とTEのグレードをカットオフにすると、出産率はtM<80時間かつTE良好で55.2%、tM>=80時間かつTE良好で44.6%、tM<80時間かつTE不良で29.4%、tM>=80時間かつTE不良で25.5%となりました。

 

解説:外国の論文で示された正常胚の出産率は50%程度であり、思ったほど高くありません。本論文は、正常胚の出産率予測にタイムラプスパラメータのデータを加えることで改善できないかどうかを検討したものであり、桑実胚になるまでの時間が重要であることを示しています。

 

コメントでは、タイムラプスパラメータ解析の際の問題点として施設間の培養環境が異なることを取り上げており、バレンシアの胚発生が遅いことを指摘しています。また培養環境のみならず培養士のbiopsy技術の巧緻も大きく影響する可能性があります。従って、タイムラプスパラメータの設定は、施設ごとに個別に決める必要があり、今回のtM<80時間というのをそのまま流用することは慎むべきであるとしています。

 

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