Q 39歳、他院での着床前診断の移植を控えており、リプロ大阪で全てのオプション検査を受け、対策を立てて頂きました。
1 移植はホルモン補充周期を希望していましたが、血栓の既往があるため、自然周期移植となりました。着床の窓が心配でERA検査を受けたいのですが、自然周期移植だとERA検査はあまり意味が無いのでしょうか(素人考えですが、点鼻かHCGから約36時間後を排卵時刻として、点鼻かHCGの時刻をコントロールすればERA検査の結果をある程度再現出来るのではないかと考えております)。
2 自然周期移植の際の排卵のトリガーは点鼻かHCGのどちらが良いでしょうか。
3 一方で、自然周期移植の際にはトリガーを用いない方が妊娠率が高いという論文も有るようです(他のブログ記事:自然周期にて凍結融解胚移植を行う場合、自然排卵を待つよりもhCGにて排卵のトリガーを起こしたほうが患者の通院回数が減るものの妊娠率は同等であったためhCG使用の方が患者の通院回数という負担を考えると好ましい。その一方自然周期の際はhCGを用いない方がhCGを用いる場合と比較して妊娠率は有意に高いとの報告もあります)。自然に排卵を待つ方が妊娠率は高くなるのでしょうか。
4 着床前診断で、9番のトリソミーのLow Level Moraic(モザイク率20~40%)がありました。松林先生の過去のブログで「モザイク率40%以下のモザイクは正常と考えて良い」との記載がありますが、このモザイク胚は移植できると考えて良いでしょうか。
A
1 自然排卵周期では再現性に若干の問題があるため、検査会社もホルモン補充周期での検査を推奨しています。
2 トリガーは排卵が起きれば何でも構いません。採卵の時に使ったのと同じものが良いでしょう。
3 個人差がありますので、何とも言えません。詳細は、下記を参照してください。
4 他に移植する正常胚がなければ、移植対象としてお考えください。
2&3 自然周期移植の際のトリガーについて、元論文を検索してみました。
前半部分「自然周期にて凍結融解胚移植を行う場合、自然排卵を待つよりもhCGにて排卵のトリガーを起こしたほうが患者の通院回数が減るものの(3.46回 vs 4.35回)、妊娠率は同等であったためhCG使用の方が患者の通院回数という負担を考えると好ましい」は、①Reprod Biomed Online 2009; 19: 66(イスラエル)に掲載されています(hCGトリガー61名、自然LHサージで排卵71名)。2年後に同一グループからほとんど同じ内容で(なぜか症例数も減り)、hCGトリガー3.2回、自然LHサージで排卵4.7回(各群30名)と同じ結果と結論が報告されています(②Reprod Biomed Online 2011 ; 23: 484)。
後半部分「その一方自然周期の際はhCGを用いない方がhCGを用いる場合と比較して妊娠率は有意に高い(31.1% vs. 14.3%)との報告もあります」は、③Fertil Steril 2010; 94: 2054(ベルギー)に掲載されています。hCGトリガー63名、自然LHサージで排卵61名)に対してday 3融解胚移植を実施したところ、妊娠継続率は14.3%と31.1%で有意差がわずかに認められました(P=0.025)。
紹介されたブログ記事は2011年ですので(かなり古いですから)、最新の論文を当たってみました。
④Cochrane Database Sst Rev 2017 Jul 5;7:CD003414. doi: 10.1002/14651858.CD003414.pub3
要約:2016年までに発表された18論文、3815名を対象に凍結融解胚移植の方法についてメタアナリシスを実施しました。しかし、クオリティの低い論文ばかりであり、どの方法が最も優れているという結論を出すことができませんでした。クオリティが低いながらも、一応有意差が認められているのは以下の3論文のみでした。
自然周期移植の妊娠継続率:自然LHサージ>hCGトリガー(N=124、RCT、クオリティ極低)論文③
ホルモン補充周期の出産率:GnRHa使用>非使用(N=75、RCT、クオリティ低)⑤Hum Reprod 2004; 19: 874(英国)
自然周期移植の出産率:HMG>クロミッド+HMG(N=209、RCT、クオリティ極低)⑥Hum Reprod 1994; 9: 1556(ベルギー)
その他、最新の論文は下記です。
⑦J Assist Reprod Genet 2018 ; 35: 669(米国)採卵後翌周期の融解胚移植では、採卵の際のトリガー(HCG、GnRHa)による妊娠率の違いはなく、翌周期の移植と翌翌周期の移植にも有意差を認めませんでした(N=344、後方視的)。
⑧Obstet Gynecol Sci 2018; 61: 489(韓国)GnRHa使用と非使用のホルモン補充周期移植、hCGトリガー使用の自然周期移植の3群間の妊娠率、出産率に有意差を認めませんでした(N=187、後方視的)。
⑨J Assist Reprod Genet 2020 Jan 2(米国)採卵の際のトリガー(HCG、GnRHa)の違いによる正常胚の妊娠率に有意差を認めませんでした(N=263、後方視的)。
解説:①〜⑨の論文を見るにつけ、まだどの方法が良いか結論が出ていないことを実感します。結局、統計学的には優劣がつかないということであり、個々に適切な方法を見つけることになります。一般的には、年齢が高くなるほど良い排卵が起きにくくなりますので、自然排卵周期よりもホルモン補充周期が良いです。また、自然排卵周期で行う場合にも、不足したホルモンを補充することが大切です。
なお、このQ&Aは、約2ヶ月前の質問にお答えしております。